けっこうハードなクリスマスプレゼント
いつもの様に目覚めた朝は、私にとって幸せな思い出になりました。
それは、生まれて8回目のクリスマスプレゼントが枕元に置いてあったからです。
私は目を輝かせながらベットから飛び起きると3m角の部屋を跳ね踊りました。
そして、息を整えて大きく息を吐き捨てると ゆっくりとプレゼントに手を伸ばす。
赤と緑色の大きな長靴型の袋を ドキドキしながら そのリボンをゆっくりと引き抜いた。
(…あ!)
そこには、可愛い毛糸の靴下が入っていた。
毛糸の靴下は、薄紫色で踵に小さなリボンが縫い付けられている。
そして私はハッと驚いた。
なんと、私の名前まで刺繍されているのです。
(これって…)Risa
でも…いったい誰が枕元にプレゼントをおいてくれたのだろう…。
私は少し変わった家族構成のためプレゼントの主が思い当たらなかった。
頭の中では、身近な人の顔がパラパラと思い浮かんでは消えていく。
警備員のマックスさんかな…それとも用務員のトムさん?
(うぅ〜ん…誰なのかしら…)
※この物語の主人公であるリサが考え込んでしまうのも無理はありませんでした。彼女が住む家とは、北アメリカ ペンシルバニア州の山間に建てられた大きな孤児院で、精神病棟を中央に囲う 壁のように建てられた孤児収容施設の5階に彼女は住んでいるのです。
※そこには、多くの家族(働く人)が、リサを含む沢山の子供を世話していました。
私の住む この家はとても大きいから家族が本当に沢山います。
9階建の窓が少ないコンクリート建造物で、学校もあるし、病院もこの中にあるくらい広くて大きい。
だから、誰がプレゼントしてくれたのか私は分からなくて悩んでしまいました。
私は、小さな部屋の四角い天井を見上げながらベットにバサっと倒れるとリサと刺繍された靴下を手に取り しばらく見つめて考えます。
(…あなたは、誰が作ってくれたの?…)
リサが見つめる靴下は何も語らず項垂れる人間のようにヨタッとして動きません。
つまらないと感じた私は、靴下に手を入れて人形を操るかの様に遊び始めました。
右足の靴下君が話します。
(ねえねえ!貴女は何処から来たのかい?)
左足の靴下さんが元気よく返事をしました。
(サンタさんが連れて来てくれたのよ)
右足の靴下君は少し考えた後にゆっくりと話し出します。
(へぇ…なら、君は誰が作ったのかい?)
リサは、暗い顔になり…しばらく黙ってしまいます。
左足の靴下さんは、右足の靴下君を見つめ悲しそうに返事をします。
(私には分からないの…だって…)
右足の靴下君は、責め立てるような声で言う。
(だって!?だって!なんなんだい?)
左足の靴下さんも強く激しく…そして悲しく話を続ける。
(だって!…だって、、お父さんもお母さんも死んじゃったんでしょ?…)
右足の靴下君は感情的に話す。
(…君のお父さんとお母さんは交通事故で死んじゃったんだよね!!君を一人にして!君を捨てるようにして!…と誰かが言っていたよね?…)
左足の靴下さん
(…うん。だから私が何処で生まれたのか…どうして ここにいるのか、聞かれたって…何度聞かれても答えられない…分からないよ…)
左右の靴下ではない、リサが話す。
(私の事は…私よりも他の人が知っているもの…)
私は込み上げて来た何かを感じ、枕を顔の上にのせて瞼を閉じた。
熱い涙が枕に染み込む感覚は嫌でも感じた。
私は枕を抱きしめながら壁に向かうように寝返った。
※リサがこの孤児院に来たのは、今から2年ほど前の冬の事でした。
当時6歳だったリサは、母エミリーと共に父バーンの運転する車に乗って 隣町ミフリンタウンのケーキ屋さんに向かっていました。
リサが見つめる窓の外は雪が街頭に照らされながら びゅうびゅうと強く降っています。
母エミリーが父に話します。
(ねえバーン強い雪ね…ミフリン橋大丈夫かしら)
ミフリン橋とは、隣町のミフリンタウンに行く細い橋の事で、雪が積もった時は事故が多発する場所という事もあり母はとても心配していたのです。
父バーンは、忙しなく動くワイパーを一度止めると車を停止させてフロントガラスに当たる雪を見つめながらエミリーに答えました。
(…少し遠回りだが、国道35の方が良いかもしれないな。そうしようエミリー)
父も母も笑顔になると、三人は国道35に向かったのです。
国道35は強い雪のせいか交通量はいつもと比べ少なかった。
運転するバーンは規則的に並ぶ街頭がオレンジ色の光を放ち、舞い散る雪照らす景色を見てリサに話しかけた。
(リサ、サンタさんも今日は大変だね。あっ!そうだ、リサはサンタさんに何をお願いしたんだい?)
父バーンの話を聞いていたエミリーが笑いながら口を挟みます。
(バーン。リサはサンタさんにお手紙を書いたのよ。リサ、パパはリサが何をお願いしたのか知らないからお手紙に書いた事教えてあげたら?)
リサは、照れてしまい なかなか話そうとしません。後部座席でもじもじと膝を擦り合わせて笑っているだけでした。
バーンは、そんなリサを可愛いく思い何度も何度も教えて〜っとユーモアたっぷりに話しかけています。
バーンは、ルームミラーをリサの顔に合わせてその愛らしい笑顔をチラチラと見ていました。
リサは、そんなバーンに根負けしたのか やっと話し始めました。
(パパ!お手紙に何書いたか言っちゃいけないのよ!言っちゃうと魔法が無くなって、サンタさんにお手紙 届かなくなるんだよ!パパがリサに教えてくれたのにパパったら酷いわ。だから教えません)
リサから見る父バーンは、笑いながら頭を抱えて反省している様に見えた。
助手席のエミリーもバーンをみて笑っている。二人を見ていたリサも笑っていた。
そんな話で車内が盛り上がっていた時、バーンが突然溜息をつく。
前方のアレゲニー川に架かる 国道35号線の大きな橋が渋滞をしていたのだ。
バーンはゆっくりと橋の上を走行しながら前方の車に接近していく。
(ん?なんかおかしくないか…)
バーンが前方の車両を見ながら そう話すと母エミリーも前方の車両を見て言った。
(ねえ!あのトラック、バックしてる?それとも…ねえ!?滑ってない!?)
なんと勾配のついた橋がアイスバーンとなり小型ピックアップトラックが、こちらに滑り落ちて来たのだ。しかもその車両の運転手らしき老人が荷台に周り必至に押し止めようとしている。
バーンは急いで後ろを確認する。しかし時すでに遅く後続車が並び始めてしまっている。クラクションを鳴らしても間に合わないと判断したバーンはエミリーに顔を合わせると車から飛び出る。アスファルトは凍りつきスケートリンクの様だった。
バーンは、体制を整えながら老人のもとに走り横に立つと荷台を力一杯押した。
(止まれー!!!)
ピックアップトラックは徐々にゆっくりな滑りとなったが完全に停止は出来ない。
そんな時、警備員の服装をした男が現れ三人で
押した事によりなんとか止める事が出来た。
老人はバーンと警備員に礼を言うと荷台にもたれるようにして息を整える。
バーンはエミリーに向かい笑顔でおどけてみせた。
しかしエミリーは何故かクラクションを鳴らし始める!後続車もまたクラクションを鳴らしはじめ何かを叫んでいる。
バーンと警備員は咄嗟に後ろを振り向くと物凄い速さで大型トレーラーが滑り落ちてきていた!警備員は瞬時に横に飛び無事だった。
しかし、大きな音と同時にピックアップトラックは跳ね飛ばされ老人の姿も一瞬で消えしまう。
辺りは雪煙となり何も見えない!次の瞬間、警備員が叫ぶ。
(なんてこった!川に落ちたぞ!!)
結果的にこの事故に巻き込まれて老人、エミリーとバーンは死んだ。
リサは奇跡的に水中から救出され一命を取り留めた。
一部分的な記憶喪失と引き換えに得た命であった。
それが、事故の衝撃なのか、それとも精神的なショックからなのか医学では判断できないらしい。
そして身寄りのない少女は施設に入る事になったのだった。
(…ッ冷たい…)
右足がコンクリートの内壁に当たり氷に触れた様な冷たさが脳に突き刺さる。
この季節は、内壁を触ると冷んやり冷たいし トイレに行くだけでキンキンに足裏が冷えてしまう。
リサは、布団を被り靴下を抱きしめながら短い眠りについた。
その短い眠りから目覚めさせたのは警備員のマックスが陽気な声で歌う声だった。
マックス(ジングルベールジングルベール鈴が鳴る!今日は楽しいクリスマス!ヘイ!)
リサ(メリークリスマス…マックス)
リサは目をこすりながらベットに座った。
マックス(メリークリスマス!リサ。ごめんよ、起こしてしまったみたいだね?)
リサ(うん…でも良いの…)
マックスは、いつもリサの部屋に来て話をしてくれる優しいおじさんだ。
この大きな家を警備のお仕事で毎日巡回していて、リサがここに来て淋しい時には、まるで親の様にそばにいてくれた。
マックス(リサ…ごめんよ。この施設のルールで今年もプレゼントは渡せないんだ…)
マックスは落ち込んだ顔と笑顔を混ぜ合わせたような表情で私を見つめていた。
リサは笑顔で言った。
リサ(ううん。いいの。マックスおじさんと話せるだけで私は幸せよ)
マックスはリサの頭を優しく二回触ると立ち上がった。
マックス(さてと…巡回巡回!)
リサ(ねえ。マックスおじさん!リサね…プレゼントもらったのよ!)
その言葉を聞いた途端、笑顔のマックスが真剣な顔になりリサに返答した。
マックス(プレゼント!?…へぇ〜。そのプレゼントおじさんにも見せてくれないかい?)
マックスは、天井の隅にある防犯カメラを何度か見つめ直し何か手でサインを出している。
リサ(良いけど…なんか今日のマックスおじさん変ね)
マックス(あはは!そうかなー?さぁさぁ、見せてリサ)
リサは、布団の中から靴下を取り出すとマックスに見せた。
マックスは、オーバーリアクションだと思うくらいに驚いた表情になり返答なく腕を組んで黙ってしまった。
あまりに長く返答がないのでリサは黙るマックスに声をかける。
リサ(マックスおじさん!なんか変よ!?)
リサはマックスおじさんを強く見つめた。
マックスは両手をリサに向けて話す。
マックス(別に変じゃないよ!そうだリサ?)
リサ(ん?)
マックス(リサはサンタさんを信じるかい?そして魔法を信じるかい?)
リサは返事に困ってしまい少し躊躇いがあったがゆっくりと話す。
リサ(サンタさんは いるとおもうわ…でも魔法は…)
マックス(魔法はあるさ!実はマックスおじさんは魔法使いなんだよ!)
リサは驚いて呆れた表情になる。
リサ(じゃあ!魔法見せてよ!)
マックスは、待ってましたという顔になるとリサの額に右手を当てて目を閉じた。
マックス(ん!?うぅーん!あ。見えた見えたぞ…リサはクリスマスツリーのオーナメントスターにサンタ宛の手紙を隠した事があるね?)
リサは顔を横に降る。
リサ(…無いと思うわ)
しかし…否定した瞬間に頭の中で一つの映像が思い浮かぶ。それはクリスマスツリーに隠した手紙の映像だった。ハシゴに登っているのか、一匹の大きなゴールデンレトリバーを見下ろしながらリサはツリーの一番上に光る星型のケースを開けて手紙を隠している。
リサの心に何か暖かい風が吹いた。
リサ(…な…なんで!?…マックス?)
リサがマックスおじさんに視線を戻した時、マックスおじさんは笑顔で泣いていた。
リサ(私…。私、)
マックスは、ユーモアある表情で涙を流しながら魔法使いを続ける。
マックス(どうだい?凄いだろ!…ん?おやおや?君は犬を飼っていた事があるようだね。とても大きな犬で、とても優しい犬だ。そのワンちゃんはゴールデンレトリバーだね?君の親友で君と同じ誕生日で…名前は…)
マックスはリサの瞳を優しい見つめ返事を待っている。
リサは膝においた手にポタポタと何かを感じた。
私は…泣いていた。
そして、分かっていた。
涙の数だけ記憶が蘇る不思議な感覚、マックスおじさんは本当に魔法使いみたいだった。
リサ(…名前ね…バリエっていうのよ。あのね、なんでかっていうとね。パパのバーンとリサとママのエミリーでバリエって名前なの…)
マックスはリサの話を遮り人差し指を立てて口元にもっていく。
マックス(シー!リサ、何か聞こえないか?)
部屋の外から犬の鳴き声がする。リサはベットから飛び起きるとハラハラドキドキを抑えきれない。
リサ(嘘でしょ?マックス…)
マックスはリサの背中を優しく扉の方に押す。
マックス(…さぁ)
リサは、その場で呼びかける。
リサ(バリエ!?)
扉の下にある隙間から犬の足がガサガサと音を立てて出入りした。
そして、ワンワン!!と大きな声で鳴き、ク〜ンと淋しそうに吠える。
リサは勢いよく扉を開けた。
リサ(…)
声にならない叫びでリサはバリエを抱き寄せ、バリエらリサの頬をペロリと舐めて涙を拭いた。
背後からマックスが言った。
マックス(リサ。君のプレゼントの靴下思い出せるかい?)
リサは靴下の記憶だけ、思い出せなかった。
マックス(そりゃひどいな!)
そう言うとマックスは大笑いをする。
マックス(リサ。だってそうだろ?君が書いた手紙なのだから)
マックスおじさんが大笑いをするものだからポカンとしながら記憶の断片を探していた。
するとマックスおじさんがリサの右耳に手を伸ばし指をパチンと鳴らす。
リサは驚いた。その手にリサがクリスマスツリーに隠した手紙が握られていたのだ。
マックス(読んでごらんなさい)
マックスは満遍の笑みだ。
リサは当時6歳の自分が書いた手紙を手に取り読み始める。
『サンタさんへ
私が欲しいものはママが作ったリボンと私の名前がついた世界で一番可愛い靴下です。愛するバリエ、ママ、パパが大好きです。だからずっと一緒にいたいです。あとパパのイビキがうるさいからなおしてほしいです。リサより
あと、サンタさんと一緒に暮らしたいですバイバーイ』
手紙を読み終えるとマックスは指を鳴らして扉を指差す。
リサは扉を見つめた。
すると…
コンコン
(リサ…)
その声を知っている!私…この声知ってる!
リサ(……パパ…)
扉がゆっくりと開く、そこには父バーンと車椅子の母エミリーがいた。
バーンとエミリーはリサに駆け寄り抱きしめ合う。
母エミリーは涙と興奮が止まらず話せないのを見たバーンがリサの肩を強く握り話し出す。
バーン(…奇跡が起きたんだ!リサ。あの事故の時、リサとエミリーは車ごと川に転落した。僕は川に飛び込みリサを助けエミリーを探したんだ…気がついた時、僕とエミリーは病院のベットにいた。…一生目覚めない状況だったらしい…それが、今日このクリスマスに目覚めたんだ!!まったく信じられない!しかも、2人が同じ日に目覚めるなんて!)
エミリー(私達、2年間も気を失っていたなんて…)
バーン(しかし、目覚めた僕らはリサがいなくなっていて驚き探したんだ!そうしたら僕らの病室に橋で出会った警備員さんが来て犬もリサもここに居ると教えてもらって慌ててきたんだ!)
リサは興奮して話す両親を見て言った。
リサ(じゃあ…マックスおじさんが橋で助けてくれたの?)
リサはマックスに視線を戻した。
マックスおじさんは椅子に座ってリサを笑顔で見つめている。
マックス(リサ、助けたのではないよ。君との約束を守ったのだよ…)
リサ(えっ…)
マックス(じゃがの…プレゼントは一年に一つじゃ。じゃから二年かかってしまったわい…)
リサ(…マック…。…サンタさん?…)
マックス(なんせの、クリスマスの当日にあんな無茶な手紙じゃからの色々と焦ってしまったよ。リサ、来年からは手紙は一週間前にかいとくれよ…。それとじゃ。最後の約束だけはルール違反じゃよ。世界の子供がまっているからの…)
エミリー(ちょっと!リサ?誰と話してるの?)
母エミリーは目を丸くして驚いている。
すると、バーンがエミリーの肩に手を乗せてリサにウィンクした。
バーン(…サンタさんだろ!)
リサが笑顔でマックスを見た時、すでにマックスは消えていた。
その後、月日が過ぎるにつれて新聞の事故の見出しも死亡者リストも、その出来事すら無かったかのように世界から消えて言った。
そしてまたクリスマスの日、私はお願い事を書く。
『サンタさんへ
親愛なるマックスと家で聖夜を祝いたいわ。
父バーンも母エミリーもバリエも警備員のマックスさんと祝いたいって。
ルール違反はしてないわ』
その夜、彼は煙突ではなく玄関からノックでやってきた…?
おしまい。