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姫勇者  作者: 琥珀白
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カルム

-カルム-






「カルム、これは一体、なんて読むの?」


「それは。」



泣くことをやめた私は、この屋敷のすべての本を読みあさり、知恵を付けることにした。

私を私自身を好きだと言ってくれたカルムの主としてふさわしいものになりたくて。

元々、勉学は嫌いではなかった。

魔族の文字は最初は何を書いているか分からなかったが、カルムの教えを請いながら読み解けるようになり、なんとか自分でも読めるようになった。

そして、どうせ読めやしないだろうていう考えだろう。

多分ここは、魔族にとっても珍しい本を置いてあった。

きっと、私たちが来る前まではここはこういう禁書に近い物を置いておく場所だったのだろう。

難解な結界さえ貼れる場所なのだから。

今回のように私たちが住むにも適した場所なのだ。

今でこそ、このようになっていたが以前は住むようなものもおらず、ただの本の倉庫であったのだろう。

とても奇怪な魔術書まであるのだから。

しかし、この魔術書は魔族の方々に読み解くことは難しかったろう。

なぜなら、魔族の言葉で書きながら、人族の書き方なのだ。

しかも、なかなかの学のあるものじゃないと読み解けない。

本当に、なんのためにこのような書き方をしたのだろうか。この著者は。

まあ、そのお陰で、この本はここに保管されるようになったようだが。

しかし、読めば読むほど、この魔術書は面白く、興味深い。

そんな魔術書は何十冊もあった。

読み解けない魔術書を何冊も書いた著者も著者だが、読み解けないのにおいていた魔族も魔族だ。

どうにかして読み解けばよかっただろうに。

まぁ、そこまで必要に迫れなかったのだろう。

ゆえにこんなところで埃を被っていたのだろうが。

私からしたら奇跡の本である。

この本を読み解けば読み解くことにより、私は力を手に入れることができるのだから。

元々、人にも魔力は備わっているとこの本に書いてあった。

人は無意識のうちにその魔力に蓋をしており、その蓋を開けることができた物だけが魔術師として名を馳せることができる。

なので、特別の力と言うよりは、潜在能力を発揮できた者たちが魔術を使うことができるらしい。

そして、もちろん私にもその力はある。

しかもどうやら、私は何年もこの魔族の地におり、魔族と同じ食生活をしていたことにより、他の者よりも倍以上の魔力を培っているそうだ。

そう、つまり私は今や、人とはかけ離れた存在になりつつあるそうだ。

普通ならあり得ない現状。

でも、私にとっては奇跡とも言えよう者だった。

普通の者なら近よりもしない魔族の地。

そんな魔族の地に望んだわけでもないが連れてこられたが、一応魔王の加護の中におり、安全に今まで生きてこられた。

たとえ魔力が増大するからと言ってこの地に来ようものならばすぐさま魔族たちに殺されていただろう。

もちろん、魔族に勝つ者もいるだろう。

しかし、何年もとなると本当にごくわずかだ。

しかも、そんな力がある者ならばわざわざこの地になんてこなくてもよいのだ。

そう普通じゃあり得なかった。

何年もこの地で生活するなんて。

しかし、私は過ごした。

故に、私の魔力は多分普通の魔族と同等まで成長している。

つまり、この魔術書の魔術を使っても大丈夫なほどになったのだ。

最初は基礎的な魔術を使い、徐々にレベルの高いものを使っていく。

失敗することも多々あった。

それこそ、一歩間違えれば死ぬほどの。

そんな時はいつだってカルムは心配してすぐに治療魔術を掛けてくれた。

本当に申し訳ない。

でも、カルムは私を止めなかった。

つらそうな顔をしながらも黙って、私の訓練を見つめ続けてくれた。

本当ならば魔王に報告しなくてはならない立場なのに。

いつだか、彼女に伝えなくてよいのかと聞いたこともあった。

しかし、彼女は黙って顔を横に振り、「私の主人はあの時からリーン様ですから。」と笑ったのだ。

そのときから私はカルムを心の底から愛しいと感じたのだ。

私の唯一、家族のように感じた。

信じたかった彼女をいつの間にか信じられるようになったのだ。

寂しさはいつの間にか小さくなった。

なくなったわけではない。

あの時の絶望だって未だにある。

悲しみ、寂しさ、絶望、そして恨み。

これはずっと私の中にあるだろう。

でも。



「リーン様。」



優しく名を呼ばれて瞼を開ける。

瞼を開けて見えるのは、私の唯一の存在。

弱かった私に一生を託してくれた愛しい存在。



「カルム。」


「はい、リーン様。」



嗚呼、心配させたみたい。

私を心配そうに見ている。



「ごめんなさい。心配させて。」


「いえ。」



静かに顔を横に振るカルムは今思い出していたカルムよりも少し大人びた。

ハーフデビルからか、ある程度の年までは人と同じように成長するらしい。

まあ、相変わらずきれいだけどね。

あの頃よりも美しさは磨きがかかったと思う。




「思い出していたの。この8年間を。」


「・・・そうですか。」



私の中にはカルムへの愛しさ、そして祖国への愛が、家族への愛がある。

たとえ、私が認められなくても・・・。

私は彼らが好きだ。

彼らを愛している。

そう、思えるようにもなった。

だから私は踏みとどまれる。

立ち上がれる。

闇にはならない。

私は前を向いて歩いて行く。

でも・・・カルムは・・・。



「カルム・・・本当にいいの?」



私は唯一、信頼できる少女を見つめる。

今更かもしれない。

でも、それでも言わなくてはならない。

彼女はハーフといっても、半分は魔族の少女。

こちらに居場所がある身。

もう何年も一緒にいるけど、彼女は




「私はあの日から、リーン様の物ですわ。あなたが、私のために涙を流してくださった日から。」


「カルム・・・。」


「そして、カルムと名をリーン様に名を頂いた日から、私は死んでもあなたのお側にずっとずっとお遣いします。」



まっすぐ見つめる紫の瞳。

嗚呼、やはり、なんて美しいの。



「でも、リーン様が私をいらないと言うならば、今この場で私を殺してくださいませ。」



そんなカルムの声に私は目を見開く。



「馬鹿!!そんなことあるはずじゃない!!」



カルムをいらないなんて。

あなたがいなかったら私はあの日立ち上がれなかった。

いいえ、あの日だけじゃない、何回もあなたに助けられた。



「カルム、あなたをいらないなんて言うわけがない。」


「・・・はい、リーン様。」



これからどんなことが起きても私はあなたが必要。

私の唯一。



「カルム・・・私の側にずっと居て?」


「はい!リーン様!」



静かに頭を下げるカルムの姿に私の心は穏やかになる。

嗚呼、私は独りじゃない。

このことがどれだけ嬉しく幸せなのだろう。




「ありがとう、カルム。」



最高の笑顔をあなたに。

私の側に居てくれる唯一の存在。

私の絶対の存在。

あなたがいれば私は何度でも立ち上がれるわ。

にっこりと微笑み、カルムを見つめる。

カルムも優しく笑ってくれる。

大丈夫。



「少し後ろに下がっていて、カルム。」


「はい。」



カルムが私の後ろに下がったことを確認してから手をかざす。

さぁ、終わりにしよう。

弱いお姫様の物語は。

そしてはじめよう。

新たな物語を。

右手に魔力を込めて、目の前の扉に向けて弾くように飛ばす。

魔力の玉が扉に当たった瞬間、バリンっと大きな音が鳴り、この周辺を守っていた、いや私を閉じ込めていた結界が壊れる。

嗚呼、きっとこの瞬間、魔族領全体に感じられたろう。

大きな魔力の塊が発生したことを。

急がないといけない。

他の奴らが来る前に。

魔力探知をしなくても分かる。

膨大の魔力の塊。



「カルム!!」


「はい!リーン様。」



カルムと手をつないですぐに転移魔法を使う。

飛ぶ場所はもちろん膨大の魔力の塊だ。

嗚呼、8年振りに訪れたこの部屋。

無駄に豪華で、しかしおどろおどろしいこの部屋に。

あの時は怖くて、恐くて仕方がなかった。

でも、今は恐怖を感じない。

まっすぐに前を向ける。

さあ、しっかりと見ましょうか。




「ごきげんよう。魔王。」


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