はじめの一歩
気まぐれに更新していきますので、お暇つぶしに見てくださいませ。
-はじめの一歩-
この屋敷に住み始めて早半年が経ちました。
案外屋敷の中での生活に不自由はありませんでした。
基本、ハーフデビルさんが全てしてくれていますから。
綺麗なハーフデビルさんは家事もとてもお上手で。
今まで城の中で暮らしていた私はなんにもできませんでしたから大変助かっています。
少しずつ見よう見まねで家事もこなして言ってるんですが・・・。
やはりハーフデビルさんには敵いません。
それに、まず家事をしようにも外には出られないので洗濯等はできませんし。
できると言ったら掃除と料理ぐらい?
外に出ようとしてもやっぱりドアが開かない。。
ハーフデビルさんから聞くと、どうやらこの屋敷だけではなく、他の屋敷にも同じように強力な結界が貼られているそうです。
二階の私の部屋からだとぐるっと見渡して、他の5人の姫様達のお屋敷も見えます。
まぁ、一体何をしているのかまでは見れませんけど。
ハーフデビルさんと同様の女性魔族さんたちが出入りしているのは窓から見えるのですが、お姫様達の姿は一切見られないのです。
窓も閉め切ったままのお屋敷も多いですし。
あれでは気が参りそうですが、そんなことを思っていても伝える術もないので思うだけです。
あの日以来、魔王様は姿を見せたことは一度もありません。
ハーフデビルさんに聞いてもどうやら魔王様はこの屋敷のある地には一切近づいてないそうです。
一体・・・何の目的で私たちをここに連れてきたのでしょうか・・・?
今日ももうすぐハーフデビルさんがやってくるはずです。
少しでも迷惑を掛けたくなくて、覚えた掃除をしていたのですが。
「ハーフデビルさん、遅いですね・・・。」
もう来てもおかしくないのに・・・。
全く扉は開きません。
探しに行きたいけど、扉が開かないし。
ただ私は待つだけです。
なんとか掃除を終えて、椅子に座って休憩しているとドンッと大きな音が扉から聞こえ、側に寄ってみるとゆっくりと扉が開いて何かが転がり込んできた。
転がってきたのはぼろぼろのハーフデビルさんでした。
慌てて近寄れば、ひどい怪我で、意識を失っています。
「ハーフデビルさん!!!!」
「うっ・・・。」
「ひどい怪我!!」
急いで、ソファまで運びます。
この半年で少し筋肉もついたんです。
なんたって自分でしなくてはいけないことが増えましたから。
半年前の非力なお姫様よりはマシになりましたよ。
そんなことを考えながら、ひどい怪我を手当をしていきます。
手当については祖国で学んでいましたから。
役に立ってよかったです。
これだけの大けがです。
これから高熱が出るでしょう・・・。
痛みもひどいでしょうし・・・痛み止めがあればいいんですが。
薬草さえあれば作ることもできるのですが・・・ないですし・・・。
嗚呼、こんなことならば事前に薬草を育てておけばよかった。
どうしようもない、後悔ばかり。
いや、こんなことで落ち込んではいられません。
少しでもハーフデビルさんが楽になるように看病しないと。
「・・・ここは・・・?」
「あ、気がつきましたか?」
「!!!???」
声が聞こえて後ろに振り返れば、やはりハーフデビルさんが目を覚ましていました。
あれから二日が経ちました。
全然目を覚まさなくて、不安にもなりましたが、よかった。
目を覚ましてくれて。
側に近寄ろうとすると、起き上がろうとするハーフデビルさんが目に入り、声を上げてしまう。
「あっ!!だめです!!安静にしてください!!」
「ですが!!」
「!!」
「ほら、まだ安静にしていないといけません!!」
無理矢理再度ソファに寝かせる。
もう、まだ回復したわけじゃないんですから。
まだ2日しかたっていないのですから。
たとえ、魔族が回復力があると言ってもあれだけの怪我です。
治療魔術ができたら完治もできたのでしょうが・・・私は魔力なしのただに人間ですし。
ただただハーフデビルさんの快復力に任せるしかなかったのです。
「なんで、あなたが・・・。」
「2日前、ハーフデビルさんが扉から転がり込んできたので・・・。」
そういえば、嗚呼っとハーフデビルさんは思い出しているようです。
なんで、あんな大けがをしたのだろうか。
その疑問が顔に出ていたのか、ハーフデビルさんは少し嫌そうな顔をして、話し始めました。
「前も言ったようにハーフデビルは半端物として他の者から蔑まれています。今回は少し厄介な者に捕まりして。こんなことになりました。」
「・・・ひどい・・・。」
半端物って。
確かに前にハーフデビルさんは悪魔と人の親をもつそうで、半分は人。
どうやらそんな者は少なく、基本は同じ種族同士が番になるそうですが、ハーフデビルさんのお父さんとお母さんは違ったそうです。
たまにそういう者もいるそうですが、とても少なく、数十年に数人だそうで、ハーフという名がつく種族は少数であり、異物として見られると前に話してくれていました。
半分しか魔族の力を持たないことは、他の魔族から見たら異物でしかないと。
力が全ての魔族にとって。
でも、一緒の魔族なはずなのに。
「異物は異物でしかないのです。」
いつもの無表情のなかに少し悲しさが混じっているように感じるのは私の気のせいでしょうか?
ハーフデビルさんは腕を見て、ため息をつき、私の方を見た。
「わざわざ手当をしてくださらなくても、あれぐらいなら自然に治りました。」
「知っています・・・。でも、私が見ていられなくて、手当てをしたのです。私の自己満足でしかないことは分かってます。」
自己満足でしかないのは分かってました。
でも、見ていられなかった。
傷ついたハーフデビルさんを。
半年間一緒にいたから、もう私の中では大切な人になっていたから。
そんな人が傷ついて、しかも、その傷付いた理由がハーフデビルさんが悪いわけじゃないのに・・・。
なんて、なんてひどい。
そう思っていると、涙をぼろぼろと流していました。
「何故・・・あなたが泣くのです?」
「っ!!ごめ、なさい!!」
「いえ、その・・・。」
私が泣くのは間違っていることは分かっている。
でも、何故か涙が止まらない。
嗚呼、止めないと。
ほら、ハーフデビルさんも呆れてる。
はぁっと大きなため息が聞こえ、思わず肩がびくりと震える。
「私は、あんな奴らに負けっ放しでいる気はありません。」
「え?」
ハーフデビルさんの方を見れば、ハーフデビルさんはこちらを見ずにただ前を強く見つめていました。
嗚呼、なんて強く、まっすぐな瞳なんだろう。
「私はハーフデビルが故に他者から蔑まれるのが腹立たしく、憎いとさえ思っています。見返してやりたい!!」
強く強く手を握る姿。
嗚呼、この人はあきらめてないのだ。
「ずっとそう思っています。もちろん、今も。」
現状にあきらめて、納得したひりなんてしていない。
「だから、私は最上位魔族の方達の部下となり、そして私自身が最上位魔族となってやろうと思っているのです!!」
私とは全然違う。
「凄いですわ。私は・・・あきらめてしまった・・・。」
「え?」
ハーフデビルさんはこちらを見ています。
嗚呼、今まで初めて目線を合わせてくれた気がします。
今まで、私のことを見ているふりをしながら、私を見ていなかったから。
涙を拭い、苦笑を浮かべる。
「私はあの5人と一緒に生まれ、奇跡の姫なんて言われてますけど・・・実際はただのおまけ。いえ、おまけでもないのです。忘れ去られた、いや、まず知られても居ない者なんです。」
いないものとされた6人目。
それが・・・私。
「私はあの5人とは全然違うんです。ただ平凡で・・・他の姫達があんなに綺麗で可愛らしく、そして魔力もあって、頭脳も才能も溢れんばかりなのに・・・私には何もないんです。」
何にもない。
奇跡なんて・・・何もない。
「ただ彼女と達と同じ年に生まれた姫ってだけで・・・。多分あちらの方では私は奇跡の姫の中になんか入ってませんわ・・・。」
何故、私はあの時生まれてしまったでしょう。
何故、私だけが平凡だったのでしょう。
何故、私だったのでしょう。
「私は忘れられた・・・いえ、いないものとされた姫なんです。」
嗚呼、私でなければ少しは他の国に認められ、国を救えたのでしょうか?
私が美人であれば、優秀であれば、魔力があれば・・・。
そうだったならば、お父様に・・・お母様に・・・あんな顔をさせなかったのでしょうか?
あんな辛そうな笑顔を・・・悲しい笑顔をさせずにすんだのでしょうか?
ずっとずっと考えて、でも、考えたところで、私は私以外になりえない。
だからあきらめたのです。
そして・・・居ない者として扱われることに納得したんです。
私は全てをあきらめてしまったのです。
ハーフデビルさんとは違う。
「あきらめてしまった私にとって、あなたはとてもすごいと思うのです。」
「・・・あきらめてしまったあなたにそんなことを言われても!!!」
「・・・そう、ですね・・・。」
そうですよね。
私は諦めてしまった存在。
ハーフデビルさんにとって不快な存在ですよね。
「ごめんなさい。」
「っ!!!」
ギロっと睨まれる。
嗚呼、憎悪の目。
何度も見た目。
「あなたは!!!あなたは、見返したと思わないのですか!!?」
「・・・思わないと思いますか?」
・・・何故、思わないと思うのでしょう?
何度も何度も・・・。
「思いましたよ!!何度も!!何度も!!」
「!!!」
「でも、どんなに勉強をしても、どんなに練習しても、どんなに努力しても!!誰にも認められないのです!!奇跡の姫達には敵わないんです!!!!どうやっても!!」
どんな努力もしました。
お父様達が笑ってくれるように!誇りに思ってもらえるように!!
でも、でも、結局あの人達には敵わなかった。
私がどんなにがんばってもあの人達の足下にも及ばず、誰にも見向きもされなかった。
実の親のお父様達にももういいって言われてしまうのだから。
そう言われても頑張ったのに・・・独りぼっちで頑張るのは寂しくて、辛くて・・・。
認めてほしいのに、褒めてほしいのに・・・。
誰も、誰も・・・私を、私自身を見てくれなかった・・・。
奇跡の姫なんて・・・そんなのいらなかった・・・。
でも、私にこれは付きまとう。
嗚呼、どうしようもないことってあるのだとそう思ってしまったらもうだめだった。
諦めるしかなかった。
もう、頑張るなんてできなかった。
「あ、ごめんなさい・・・。」
目を見開いたハーフデビルさんを見て、一瞬にして冷静になった。
嗚呼、なんでこんなことを話してしまったのでしょう。
こんなことを言いたかったんじゃない。
私は独りで頑張ることがどんなに大変で、苦しいか知っている。
「独りでは苦しいことを私は知っています。だから、頭の片隅でいいので、覚えててください。」
ハーフデビルさんには知っていてほしい。
ただ、ただ、知っていてほしい。
「こんなちっぽけな存在ですが。そんなちっぽけな存在はあなたが夢を叶えることを願っています。応援しています。」
あなたは独りじゃないって。
私は応援しているって。
本当に少しでいいから、覚えていてほしい。
そしてどうか夢を叶えてほしい。
ただただ、願ってしまう。
私の大切な人よ、どうか苦しまないで。