始まりの唄
初めての投稿です。
多々おかしい点がありますでしょうが、暇つぶし程度に読んでいただければ幸いです。
私が私にサヨナラした日は一体どんな顔をしていたのだろうか。
きっと今と一緒ではないかなって思うの。
嗚呼・・・嗚呼・・・。
愛しい世界よ。さようなら。
こんにちは、混沌で愛しい世界。
-始まりの唄-
小さな小さな、本当に小さな国、エミュー国。
とても小さいな島国で、軍事力もなく、あまり豊かな財力もない、本当に小さな弱小国。
あまりにも小さく弱い国で、周りが海に囲まれているということで、他国からも見逃された国。
いや、見放された国と言っても間違いではない。
そんな国が私の生まれ育った国であり、私はその国の第三王位継承者であり、この国の姫である。
そう、私はその国の姫、リーン・バルテルス・エミュー。
しかし、現在私が居るのは小さな屋敷。
ここは私の住んでいた城ではない。
ここは魔族領のであり、魔族しか生きられない魔族の地。
普通ならば生きていくことができないが、この屋敷の中では生きていける。
なぜならば、ここは魔族領のなかでも、一番恐ろしき魔王が住んでいるお城の中にある屋敷だからか。
唯一、魔族のなかで王という名がつく最強にして最悪の王。
その王の住む地にある屋敷。
その屋敷に軟禁されているのだ。
そう軟禁。
この屋敷内なら自由に動いてもかまわない。
そう彼は言ったのだ。
そう彼、嗚呼、想像に浮かばれただろう。
そう、魔王だ。
もう8年前になる。
魔王から唐突にこの全世界に伝えられた知らせという名の命令。
この世界中の国の今年12歳になる6人の姫達を差し出せと。
この世界に国は6つある。
その6つの国には12歳になる姫は1人ずつ存在する。
6つの国で同じ年に生まれた6人。
奇跡の年と言われた年の子達。
奇跡の名に恥じぬ、美しい少女達。
その1人にして、唯一平凡のお姫様がこの私だ。
唯一平凡で注目をされなかったお姫様。
故に、他の大国はきっと奇跡の年に生まれている存在は5人と思っていたことでしょう。
でも、魔王様は知っていたのだ。
姫達は6人いたということを。
「リーン。すまない。」
王である父が悲痛な様子で私に頭を下げる。
嗚呼、嗚呼、お父様。
そんな顔をしないでいいの。
お母様も、そんなに泣かないで。
そう言って差し上げたかった。
しかし、言えなかった。
ただ私は静かに笑うだけ。
これ以上、優しいあなたたちに心労を掛けたくなかった。
忘れてくれたらいい。
私のことなんて。
大丈夫、この国には弟と妹が居る。
私なんか居なくても、大丈夫。
あの子たちは私とちがって優秀。
そして、妹は私とは違って美しい子。
きっと、あの子はこれからまた違った茨の道に進むかもしれない。
でも、それも仕方がないこと。
しかし、少しでも幸せな道になるよう、遠くからですが姉は願っております。
「行って参ります。」
さよならとは言わなかった。
言いたくなかった。
もう戻れないと知りながらも。
優しい両親達。
どうか、どうか。
お元気で。
両親に背を向けて、迎えに来たという使者とともに城を出る。
真っ黒なマントに包まれた気味の悪い男。
「さぁ、こちらに。」
森の外れに、薄気味の悪い門がある。
それを静かにくぐれば、全然違う空気にここが今までとは全く違う地だと感じた。
怖々と足を踏み入れれば、先ほどのマントの男が不思議な言葉を話したと思ったら周囲が光り輝き、次に目を開けると美しい調度品が並べられた部屋にいた。
気づけば、私は真っ赤な絨毯の上に居た。
何これ・・・。
きょろりと周りを見渡せば、隣には美しい姫達が居た。
噂に聞いていた奇跡の姫達。
とても美しいのに魔力もあるし、知能も高い。
私とは全く違った優秀な姫君達。
確か彼女らには、婚約者達が居たはず・・・。
まぁ、今の魔王に敵う勇者様や騎士様はいないので、泣く泣く連れてこられたのだろう。
そんなことを考えて居ると後ろの扉が開く。
「よくぞ、参られた。我が城へ。」
低い美声が聞こえ、聞こえた方に顔を向けると、そこにいたのはこの世のものとは思えないほど美しい男。
漆黒の髪に、彫りの深い顔。
目は真っ赤な炎のように赤々しい。
なんとも美しい男なのだが、その雰囲気は黒く、禍々しく、思わず一歩足を引いてしまう。
本能的に恐怖を感じるのだ。
知らず知らずのうちに手を握りしめ、恐怖に耐える。
「私は魔王、ルート・ウエル・ヴュルツブルクだ。」
やはり。
魔王、この方が。
視線を外し、ただただ時間を過ぎるのを待つ。
恐い、恐い、恐い。
周りのお姫様達は魔王の美貌に見惚れているみたいだが、禍々しいオーラに目線を外している。
「奇跡の姫君達。よく私の願いを聞き入れてくれた。」
「さて、君たちはある場所で過ごしてもらうことになる。」
「ガエル。お連れしろ。」
「はいっ。」
ガエルと言われた男は先ほどまで側に居た男だった。
ガエルというのか・・・この男。
まぁ、どうでもいいか。
早くこの場から出て行きたい。
ガエルの背中を急いで追いかけた。
そのまま連れて行かれたのは、お城の中にあるとは思えないほど大きな敷地が見える。
美しい木々や花々が咲いており、そんな中に6つの家と言うよりは屋敷に近いものが建っていました。
「あなた達には、今日からここで暮らしていただきます。何かありましたら、この者達に言ってください。」
ガエルという男の方を向けば、可愛らしく美しい女性達が並んでいた。
その女性達に連れられていく、他の姫達。
私だけは誰も来ず、どうしたらいいのか困惑する。
すると、ガエルが側にやってきて、すっと腕が取られる。
「あなた様はこちらの屋敷です。」
「えっ。」
ガエルに連れられ、一つの屋敷、5つの屋敷に囲まれた真ん中の屋敷の前に来ました。
そして扉がガエルによって開かれる。
「あなた様のメイドは少し遅れています。申し訳ございません。」
「え、え、いや、えっと。」
「どうぞ、来るまでにこの屋敷の中を見て回ってください。」
ガエルはそう言うと、扉を閉めて出て行ってしまった。
扉を開こうとしても、扉はびくともしない。
どうやら魔術によって、開かないようになっているようだ。
魔力を持たない私にはどうもできない。
仕方がなく屋敷の中を見て回ることにしたが、どうやらここは倉庫みたいだったらしく、豪華な物だが全て乱雑に置かれている。
これは、掃除をしなくては・・・。
簡単に部屋を見て回り、最初の部屋に戻ってきた。
するときぃっと扉が開く音がした。
「今日からあなた様をお世話させていただきますハーフデビルです。」
「えっと、よろしくお願いします。ハーフデビルさん?」
屋敷の扉が開いてびっくりしていると、中に入ってきたのは、真っ黒な翼の生えた綺麗な女の子でした。
年齢は私より若干上かなって感じの子。
綺麗な女の子。
しかし、表情がなくて、少し恐い。
でも、これから一緒に暮らしていく少女だし、仲良くしていきたい。
私は笑顔で彼女に自己紹介をするが、全く反応なし。
うぅ・・・心が折れそう・・・。
でも、あきらめず会話をしようとして気になった名前について聞いてみる。
「ハーフデビルって少し長い名ですね?」
「・・・名ではありません。」
「え?」
冷たい声音で言われて一瞬固まった。
じっとハーフデビルさんを眺めていると、はぁっと小さくため息をつかれた。
「ハーフデビルは種族の名です。」
「えっと・・・。」
少しはそうかなって思ったけどそんなに冷たい目で見なくても・・・。
少し目線をそらして会話を続けてみる。
「えっと、じゃあ、お名前は?」
「私には名はありません。」
「え?」
「魔族の中で名を持つのは、上位魔族だけです。後の者は名はなく、種族名で呼びます。」
めんどくさそうに会話をするハーフデビルさん。
うぅ・・・やっぱり心が折れそう・・・。
「また名を付けるのは人族とは違い、親ではありません。」
ハーフデビルさんは淡々と説明してくれる。
「名を付けられるのは、上位魔族の中でもトップクラスの最上位魔族だけです。」
どうやら魔族と人族はいろいろと違うところがあるみたいです。
「名を付けるというのはその方の主従の証なので。私は将来、最上位魔族の方に名付けていただくので。」
ハーフデビルさんはじとりとこっちを見て笑う。
とても冷たい笑顔です。
「なので、名をつけようとはしないでくださいね。」
「・・・はい。」
最後の最後まで冷たい目のハーフデビルさん。
私はこれから彼女とやっていけるのでしょうか・・・?
不安に思いながらも、この屋敷に住んでいくことを決めたのでした。