The green boy
遥か彼方、東のほうに
おおきなおおきな森があった。
森の中には小さな村があり、60人の大人と30人の子供、10人のお年寄りと1人の生き物がいた。
100人の人間と1人の生き物。
たった一人みんなと違う生き物は、緑の体で、大きな手。
身長は子どもたちとおんなじ大きさだった。
大きな口に、大きな耳で、とても醜い姿をしていた。
その村を訪れた人たちは「醜い化け物!」といって、緑の生き物に近づこうとしなかった。
でも、村の人たちは緑の化け物をとっても大切にした。
それは、彼が大きな魔法の力を持っていたから。
ある日、村の村長さんがぎっくり腰になった。
でも緑の生き物が一なですると、村長さんはあっという間に元気になった。
大地震が来て、がれきの下に子供が閉じ込められた時、
緑の生き物が地面をトンとたたくと、あっという間に地面が元どおりになり、子どもが助かった。
また、お腹が大きくなったお母さんに、女の子が生まれてくるよと教えてあげた。
すると、本当に女の子が生まれてきた。
緑の生き物の魔法は何でもできた。たった一つのことをのぞいて。
でも、村の人たちは緑の生き物を大切にした。
子供達は一緒に遊び、大人たちはご飯を作ってあげ、お年寄りは昔話を聞かせてあげた。
村の人たちと緑の生き物は長〜い間、とても幸せに、仲良く暮らしていた。
ある日、緑の生き物と10人の子供が一緒に森の中で遊んでいた。
すると草むらから、20人のずんぐりした野党が出てきた。
野党は大きな棍棒を振り回し、あっという間に6人の子供たちを殺してしまった。
血まみれで倒れている友達を見て、3人の子供たちは逃げだした。
でも、一番小さな男の子1人と緑の生き物は、怖くて動けなくなってしまった。
泣きじゃくる男の子。
すると、さっき逃げた3人の子供たちが、10人の大人を連れてきた。
大人たちはクワや箒で一生懸命戦った。
でも、20人の野党には敵わなかった。
10人の大人も、3人の子供も殺され、残りは男の子一人と緑の生き物だけ。
15人になった野党は緑の化け物を捕まえ、ロープでぐるぐるに木に縛り付けてしまった。
そして、最後に残った男の子の足にロープを付け、岩みたいなこぶしでガンガン殴りつけた。
男の子は泣きながら逃げ回る。
必死で地面をけって。ロープを取ろうともがいて。
殴られたせいで折れた腕を引きずって、必死に逃げる。
でも、野党たちに引きずりまわされ、笑われながら殴られる。
男の子の顔や頭からは血がどんどん出てくる。
そのうち男の子は意識をなくして、ぐったりと動かなくなってしまった。
緑の生き物は叫んだ。「やめろ!やめてくれ!」
目の前が涙でかすんでくる。
声がかれるほど叫んでも、野党たちはやめてくれない。
ただただ男の子と緑の生き物を見て笑っている。
すると、だんだん緑の生き物の心の中に黒いものが浮かんでくる。
「殺してやる…殺してやる…」
でも、緑の生き物はどうすることもできない。
彼の魔法では、人を傷つけることができないのだ。
緑の生き物は地団太を踏んだ。
強く。強く。
足の感覚がなくなるまで。
それでも野党たちはまだ笑っている。
その時、緑の生き物の右足からボキッという音が聞こえた。
緑の生き物が見てみると、右足が折れて、白い骨が見えた。
骨は鋭く、血で赤黒く光っていた。
緑の生き物の心はすっかり血と同じ色に染まってしまった。
緑の生き物は足の骨でロープを切った。
そして、2本の腕と左足で男の子を殴っている野党めがけて一気に駆けて行った。
一人目の野党のおなかめがけて一気に右足を突き出した。
右足は野党のおなかを貫き、野党は血を流して倒れた。
続いてほかの2人の野党も同じようにお腹を蹴って殺した。
残った野党たちは怒って、緑の生き物に襲いかかった。
緑の生き物は、さっき殺した2人の野党からナイフを奪って無我夢中で振り回した。
ナイフは野党たちの腹や目、喉を貫き、やがて野党は全員死んでしまった。
それは緑の生き物が初めて魔法ではなく、自分の力を使ったときだった。
血だまりの中で緑の生き物は呆然としていた。
顔は涙と血が混じり、あんなに生き生きしていた眼は何も写していなかった。
呆然としたまま緑の生き物は男の子のほうへ歩いていった。
男の子の眼は閉じていたが、息はしていた。
緑の生き物は右足を引きずり、男の子を抱え、村へ戻っていった。
村へ戻ると、血まみれになった緑の生き物と男の子を見て、大人たちはびっくりした。
そして、緑の生き物を見ると、「化け物!」と言って、男の子を連れて家へこもってしまった。
村の大人たちは、緑の生き物が助けてくれていたことを忘れたように睨みつけ、罵倒した。
緑の生き物は悲しかった。
悲しかったけれど、涙が出なかった。
そして、黒く染まってしまった心の中で、村の大人たちに対して黒い気持ちが浮かんできた。
「殺してやる…殺してやる…」
緑の生き物は魔法で自分の足を治し、立てかけてあった鍬を持ち、
自分を罵倒した大人たちのいる家へ駆けた。
そして、叫びながら逃げる村人たちを次々に殺していった。
逃げ遅れた子供たちも、どんどん殺していった。
悲しかった。
鍬が折れてしまい、自分のこぶしで人を殴った。
痛かった。
悲しすぎて、苦しすぎて。
自分がいま何をしているのかわからなくなった。
そして、最後に村長の家へ辿り着いた。
村長の家の中には、10人の大人と10人の子供、10人のお年寄りがいた。
大人たちは震え、子どもたちは泣いていた。
でも、お年寄りたちはじっと緑の生き物を見つめていた。
1人のお年寄りが緑の生き物へ近づいた。
そして、緑の生き物の手を取り、黙ってなでた。
しわしわの手は、見てくれは醜かった。
でも、暖かくて、やさしかった。
緑の生き物の目に、ようやく涙があふれてきた。
心の中の黒い気持もすうっと引いていった。
「僕は謝りません。あなたたちは僕の心を傷つけた。
でも、やっぱりこの村のことは大好きでした。
だから、元に戻そうと思います。」
皆、緑の生き物を見つめた。
「でも、僕は人を殺してしまった。
もう前みたいな大きな魔法の力は持っていません。
だから、みんなの片方の目をください。一つの目玉で一人、生き返らせます。
これが僕の最後の魔法です。」
子供たちも、大人たちも震えて動けませんでした。
緑の生き物は悲しそうに眼を伏せ、村長の家を立ち去ろうとしました。
すると、さっき緑の生き物の手をなでたお年寄りが、そっと彼の手を右目に当てました。
緑の生き物はそっと手に力を入れて、静かにお年寄りの目玉を取り出しました。
そして、取り出した目玉を地面に埋め、息をひとつ吹き掛けました。
3つ数えると、地面がぼこぼこと膨れてきました。
やがて地面が割れ、左目のない、一番最初に殺した大人が出てきました。
皆びっくりしましたが、その大人が生き返ったのだとわかると、涙を流して喜びました。
次に女の子の目玉から、2番目に殺した大人が。
おばあさんの目玉からは、3番目に殺した女の子が。
そして、30人の村人たちが生き返りました。
緑の生き物は森へ戻り、20人の野党の両目から残りの40人を生き返らせました。
そして最後に、野党に傷つけられた男の子のけがを治してあげました。
男の子が治ったのを見届けると、緑の生き物は森の奥深くへと去ってゆきました。
一方村では皆大喜びです。
村長さんはちゃんと全員生き返ったか確認するために、数を数え始めました。
「大人…60人!
子供…30人!
お年寄りたち…10人!
あれ、一人足りない…?」
村長さんは何度も何度も数えなおしました。
でも、やっぱり100人しかいません。
どうしても1人足りないのです。
その時、1人の男の子が言いました。
「村長さん。人間は100人だけど、たった一人緑の生き物がいないよ」
村人たちはあたりを見渡しますが、緑の生き物の姿はどこにもありません。
村人たちは村中を探し、森中を探しました。
そして満月が昇り、辺りが暗くなり始めたころ。
けがを治してもらった男の子が一本の大樹のもとへやってきました。
その木はほかの木よりも大きく、どっしりとしていました。
でも、葉のざわめきはとても悲しく響いていました。
ふと大樹の根本を見ると、横一文字に大きな傷があり、そこから赤い汁が流れ出していました。
男の子はその汁をハンカチでぬぐい、つばをつけてあげました。
やがて男の子に追いついた大人たちが包帯を持ってきて、大樹をぐるぐると巻いてあげました。
それから50年後。
片目の村人がほとんどいなくなったころ。
村人は100人から200人へと増えました。
森の奥深くにある大樹の包帯はいつの間にか取れて、傷痕は消えてしまっていました。
そして、この春もたくさんの桃色の花を咲かせています。
初めて投降した作品です。
イメージは小説というより、絵本に近いような…
さらりと読んでもらえたら、嬉しいです。