異能武器使いとハンドレス 前編
お試し
人々が己の肉体に宿る異能の力に気付いたのは、有史から約1000年後。
しかし、その力を自由に操る事は誰にも出来なかった。
あっても無くても一緒だったり、己が力に呑まれて、使い物にならなくなったり。
異能を使う事は誰にも出来なかった。
漠然としたそれらの力は、700年の時をかけて、ようやく、体系化される。
デバイスと呼ばれる特注の武器を介する事で、異能の力に方向性を与え、自由に扱う事ができる様になったのだ。
しかし、それらは文明を発展させることよりも、戦争へと活用される。
国は10年も持たずに形を変える、血を血で洗い流す不毛な暗黒時代の到来。
暗黒時代は、世界全てを巻き込んだ、世界大戦を数度行うまで、終わる事はなかった。
これらの教訓を活かし、何世紀かの時代と共に、世界は現在の形をとることになる。
学園によって、能力者を育成する時代へと。
「…………社会の時間くらい起きてたら……?」
「無理、凄くダルい」
「そう…………」
短く、本当に、短い会話だった。
隣の席からかけられた声とそれに対応する俺。
それだけで伝わるし、必要以上の労力をかける様な事はおれの主義に反する。
めんどくさがりで、エコな人間なのだ俺は。
「次、私が寝るから……、当てられたら起こして」
「やだよ、寝足りない」
「ケチ……」
その怠慢から、かなりの低評価を受けている俺の所に近寄ってくる物好きは、そうそういない。
例えば、こいつ、左早苗瑠璃。
「どーした?」
「なんと無く」
俺が少し視線を移しただけで反応してくるのは付き合いが長いからだろう。
幼馴染という奴だ。
ある意味、俺の事を一番理解しているかも知れない。
「そんなに見られると恥ずかしい…………」
「思っても無いことを」
「もしかして……欲情?」
「その打止めにどうやって欲情すれば良いんだ?」
「ほう、……私の原石を馬鹿にするか」
労力を使う気は無いが、売られた喧嘩は買おう。
そう思って、机の上に左手を載せる。
そこに瑠璃が左手を重ね、些細な喧嘩、腕相撲。
左利きの瑠璃に敢えて合わせる形だが、この方が五分五分の勝負が出来るのだ。
「そんなに、授業より乳繰り合うのが楽しいのか」
ボソリと教室の何処かから、そんな嫌味が聞こえてくる。
堂々と正面から言えば良いのにと、思いながら、声の発信源を特定しようとそちらを見る。
「私の勝ち」
「あっ……」
だが、気を取られた一瞬で俺の左腕は卓に叩きつけられていた。
腕相撲中に余所見をしていた所為だ。
事実上の敗北である。
さて、敗者とはいつも惨めなものである。
「さて、何を奢る?」
そんな勝者からの、ルール上に存在しなかった、商品の依頼にも、後ろめたさを感じてしまうものだ。
「発展途上も大好きなんで、許してくれませんかね?」
「よろしい」
やる前に取り決めをしていたら本気でおごらされたであろうが、謝罪という形で切り抜ける。
俺の頭は下げる分には、割と軽いのだ。
あ、声の発信源も分からなくなった。
「まぁ、良いか…………」
特に気にするほどでもない。
ほど無くして、やってきた数学の講師の授業は、横の奴と一緒に夢の中で受けていた。
この学校は一般の学校ではない。
この学校の授業は午前は、一般教養。
そして、午後は、己が持つ異能関連の物となっているからだ。
異能というのは、俗に言う異能力、超能力と呼ばれるものだ。
一人一人効力が違っていて誰しもが持っている特殊な能力。
これらは通称、能力と呼ばれている。
俺らが特別扱いされているのは一重にその出力の差からなのだが。
しかし、幾ら、出力があっても、能力は基本的に、そのまま使用する事は出来ない。
しようとしても、威力も定まらず、やりたい事が上手くやれず、暴走する事が殆どだ。
だから、デバイスと呼ばれる武器を使う。
各々の特性に合わせて作られた武器は、その力を制御し、指向性を持たせる事ができる。
それによって、異能者は自由に能力を使う事ができるのだ。
説明終わり。
問題は午後は俺はぼっちになる時間だという事。
午後の授業は、その能力によって、カリキュラムが異なる。
能力を伸ばす授業。
能力を活かす授業。
武器を扱える様になる授業。
武器を調整する授業。
試合をする授業など、その方向性は様々だ。
そして、その方針から、俺は少し外れている。
己に合ったカリキュラムが存在せず、白紙で提出すると、それが受理されてしまったからだ。
理由は俺の能力が他の生徒の邪魔になるからとか。
さいですか。
そうして、午後の授業を受けないで良い代わりに、授業を受けて行く中で作られる俺専用の武器や戦い方が存在しない形となった。
他の生徒が剣や刀、鎌や鞭など、各々の特性に合った武器を使い、能力を発動させ、己を高める中で、俺だけ何もしない。
そりゃあ、ボッチにもなるさ。
影では、武器無しなんて馬鹿にされている様だ。
まぁ、関係ないけど。
今日も今日とて、観客席から試合を見学している。
目の前では、授業の一環として、試合が繰り広げらているのだ。
右で構えをとるのは、剣を持った赤い髪の少女。
左で構えをとるのは、槍を持った黒い髪の少年。
結果だけ言えば、赤黄色の髪の少女の圧勝だった。
赤い髪の少女は剣に触れたものを爆破する事が出来る能力を持っている。
当たれば、一撃必殺。
獲物で打ち合っても、武器が壊されるという単純だが強力な能力だ。
ついたあだ名が爆破姫。
「何を見ている」
対する槍の少年も良くやっていた。
槍の少年の能力は槍の攻撃範囲を伸ばす能力で、槍の間合いを広げ、爆破の範囲から逃れようとしていた。
その伸ばした範囲毎、爆散されられたのが敗因だろう。
「おい! 聞いているのか!
武器無し!!」
おい、さっきから呼ばれてるぞ武器無し。
ったく、折角1人で座っているところにやってくるなんて、武器無しのせいだ。
「こちらを向け!
如月 颯人!」
と、そこまで言われたところでようやく気付いた。
武器無しは俺の陰口だ。
あ、このおさげは俺の事を読んでいるのか。
如月 颯人も俺の名前だ。
「なんすか?」
「なんすか、では無い。
何故こんなところにいる?」
「いちゃ悪いのか?」
「不愉快だ!
普段、授業を真面目に受けない様な奴のせいで気が散る」
成る程、隣まで来ていたおさげの女の子は、俺に対する文句を言いに来たと。
何故、絡んでくるのか。
「散るんならその程度の気なんだろ」
おっと、思わず口に出た。
しかし、考えてみよう。
普段授業をろくに受けない制服改造とかしたヤのつくアホな人達が戦闘の訓練だけ見ている。
何かあるとしか思えないな。
ヤのつく人とまでは言わないが、俺も大概問題児だ。
大いに気が散る事だろう。
ならば、邪魔にならない様に去るか。
「貴様! 馬鹿にしてるのか?」
「失礼、お暇します」
「逃げるのか?」
と思ったら肩を掴まれた、いや、反省したんで、去らせてくださいお願いします。
俺が悪かったです。
そういう気持ちで肩から手を外させて、歩き出す。
「臆病者めが……」
いやぁ、反省してるんで勘弁してくれませんかね?
それとも俺、目つき悪いかな?
「所詮、あの女もお前も腰抜けなのだな……」
「っ……………………」
…………。
……………………やぁ、そろそろ見逃してくれませんかね?
「ふっ、悔しいか?互いに社会に相容れないゴミ屑同士、お似合いだな」
はっはっは、俺が反応するのがそんなに楽しいのかな、このおさげ。
でも、そろそろ黙ってくれるとありがたいかな。
「あの女も選ぶ奴を間違っている。
人と話せないからと言って…………」
「取り消せ、クソアマ…………」
ふと、そんなどす黒い声が出た。
何を隠そう俺の声だ。
俺がこんなバスの音程の声を持っているとは驚きだ。
「クソアマっ!?」
「お前があいつを語るなよ。
人の悪口しか能が無い三下」
「貴様ぁ!!」
俺が馬鹿にしたのが気に障ったのか、俺の元へ歩いてくるおさげ。
そんなに怒るなら、まず、人を馬鹿にするなよ。
そのまま、胸元を掴まれそうになったので、おさげに足をかける。
足元に注意が回ってなかったのか、こけるおさげ。
これ、正当防衛成り立ってくれないかな。
そのまま、俺の方に向かって倒れてくるので半歩ずれてかわす。
そりゃそうか、こっちに歩いてきたのだったから。
一応、真心で左足で地面に倒れるのを受け止めてやる。
「大丈夫か?」
「なっ、なっ…………」
な、しか言わない。
何処か打ったのだろうか?
「こんな仕打ちを……」
違った、足で受け止められたことが大層ご立腹らしい。
真心込めれば手でも足でも一緒だと思うんだけど。
「貴様ぁああ!!」
「何やってるの!!」
と、場を中断する声。
発生源を見ると、赤ピンクの髪をした少女。
見た瞬間、げっ、とため息が出た。
目の前にやってきた少女は、お姫様だったからだ。
「私を前にため息とはいい度胸ね!」
比喩や中傷ではなく、正真正銘、本当に留学でやってきているお姫様。
名前は覚えてないが、一国の姫というと、その国の代表。
絡むと絶対に碌な事がない。
へりくだっていこう。
「すいません。
何か用でしょうか?」
「そうね、私の知り合いを足蹴にしている事を聞きたいわ」
あ、忘れてた。
おさげが俺の足の上から立ち上がろうとしている状態で、お姫様は来た。
角度によっては、俺がいたいけな少女を蹴り飛ばしている様に見えるだろう。
「さぁ? こいつが勝手に自爆しただけなので」
「アイシャ様、こいつが私に暴行を……」
あ、こいつ、嘘つきやがった。
本当に蹴り飛ばしてやろうか?
つか、アイシャって言うのか、このお姫様は。
「そう、それは問題ね……」
「別に一度も暴力は振るって無いけど?」
「そう見える形を取ったことから、問題じゃないの?」
そう言われると反論は出来ない。
こういうのは結果が全てだ。
と言うか、このお姫様どっちの言葉を信じてるだ?
このおさげの言葉を素直に聞いていたら、もう少し怒りそうなモノだが。
所詮、俺は他人だし、問題児扱いされている身だ。
信用もないし、俺が一方的に悪いと言われればそれまでだ。
「前々から貴方の事が気になっていたのよね」
それは私に気があるという事?
なんて、ふざけているとお姫様は、俺を値踏みする様な目で見る。
気になっていると言うのはどうやら色恋沙汰とは無関係な様だ。
「この場の事は不問にしてもいいわ」
「……………………」
嫌な予感がした。
これは見逃す代わりに対価を叩きつけられるあれだ。
「その代わりと言ってはなんだけど……」
場に静寂が訪れ、いつの間にかやってきた野次馬も事の顛末を見守っている。
お姫様はそれに満足したのか、大きな声で宣言した。
「決闘しなさい!」
「お断りします」
場に再びの静寂。
………………………………。
………………………………。
「…………………………」
「…………………………」
……。
…………。
……………………。
………………………………。
「決闘しましょうか……」
「お断りします……」
気が乗れば続きを載せます。