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G線上のアリス  作者: 神野伊吹
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プロローグ:練習曲第1番 変イ長調『エオリアン・ハープ』

初の投稿となるものの、ちまちまと書いていたモノ(年単位)です。

雑多な文章でありますが、どうぞよろしくお願いします。

夏休みを間近に控えた日の事だった。

その日は先生の手伝いを頼まれ、遅くまで残っていた。

人気のない学園内を一人、玄関に向かう。

時計の針は5時を回り、遠くの方からは部活動の声が聞こえる。

人気がないのは、部活動の生徒は皆、外にいるからだ。

窓の外を眺めると、夕日に照らされるグラウンドで走る野球部が目に入った。

この暑い中、甲子園を目指す彼ら。それは、目標を持たない自分には羨ましく思えた。

ふと考え直し、自分の教室へと足を向ける。別に忘れ物をしたわけじゃない。ただ、もう少し生徒がいないであろう校舎を一人で満喫してみたかったのだ。

何も考えずに、校舎を歩き回る。他の学年の教室を覗いてみたり、妙に広く感じる体育館の真ん中に寝転がってみたり。そんな他愛もない事で、この世界には自分一人しか存在しないのではないかと思えた。

ただ、只管校舎を放浪した。心境的には初めての場所を探検する子供。懐かしい感じもした。小学、中学、高校と上がるうちに、こんな事が馬鹿らしく思えていったが、これほど熱中出来る事だとは思わなかった。



一時間は経過しただろうか。

気が付けば特別棟の中にいた。教室棟から渡り廊下で繋がっているとはいえ、結構な距離がある。

自分の馬鹿さに呆れた。よほど熱中していたのだろう。

それでも、丁度良いから冒険してしまおうというのは、自身の性格だろう。

特別棟も改めて見てみると多くの発見がある。独特の匂いや、構造、特殊な掲示物。

こういう目で見ると学園も楽しく思える。

だが、普段の生活では気付くはずもない。他人という雑音が常に邪魔をし、一人で考えるなんて事は難しいからだ。

人は支え合わなければ生きていけないと言うが、それは綺麗過ぎる言葉だと思う。人には支えではなく、他人という名の雑音が必要でなのだ。

一つの事に集中し過ぎないように必要な雑音。孤独により精神がイカれ無い為の雑音。それは全て、他人という存在。ラジオから流れる声も、テレビで流れる映像も、全ては他人だ。

愛情だの、友情だの、飾りに過ぎない。自分が必要としている雑音に名前を付けているだけだ。

ほら、一人で居るとこういう事を考えてしまう。

そろそろ雑音――ではなく、人との交流が必要だ。

「―――」

溜め息と共に立ち止まる。

廊下に響いていた自らの足音も残響が残るのみ。

しかし、静かになった廊下に別の音が響いていた。それは音楽室の方から聞こえる。

優雅に奏でられる弦楽器。バイオリンだろうか。

俺はもっと近くで聞きたいと思った。

今のこの嫌な気分を晴らす為に。

近付くにつれ、よく聴こえるようになる音。それは聴いたことのある曲だった。

演奏を邪魔しないように静かに歩く。

美術館のような雰囲気を醸し出すソレは、クラシック。かの有名な『G線上のアリア』。

バッハの名作とされている管弦楽組曲第3番『アリア(Air)』をドイツのバイオリン奏者のウィルヘルミが編曲したものだ。

音楽室の前に立ち尽くして聴き入ってしまう。

演奏者の顔は見えないが、音楽を好きな人間が楽しんで演奏しているのが分かる。

その旋律は、更に近くで聴きたい、演奏者を見てみたいという衝動を掻き立てた。

無粋だろうと思う。

だが、それほどの演奏をしている人間を見たいというのはいけないことだろうか。

言い訳と言われても構わない。今、この空間を支配している旋律の生みの親をこの目で見たい。

ドアに手をかけ、出来るだけ音を立てずに開け放つ。

夕日に包まれた音楽室。

ピアノの横で気持ち良さそうに演奏している誰か。

そこに居るのは天使ではないかと錯覚させる。

視線に気が付いたのか、演奏が止み、天使が静かにこちらを向く。

「―――」

天使は優雅な動きで静かに一礼をする。演奏を聴いていた客への礼なのだろうか。

「君は…?」

そんな天使に挨拶も無しに名前を聞いてしまったのは、そのあまりの美しさのせいだろう。

それでも、天使は気にもせず落ち着いた口調で自らの名を名乗った。

「私は―――」


それが、俺と彼女との出会いだった。

プロローグとして短く書いたものですので、よく分からなかったと思います。


良いんです。

実はこのプロローグ、意外と重要なのです。

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