第十六章 完全治癒のアイナとユウキ・カミシロ
クソ……俺は、こんな所で……。
俺は、俺は、俺は!!
でも、体が動かない……、もう、本当にダメなのか……。
「諦めたら、そこで終わっちゃうよ~」
ああ? 誰だよ……仕方ないだろ……もう。
つか、誰?
「私は、治癒魔法使い。だから、君を直す義務がある! 少し楽にしてて」
何だ、助けてくれるのか……。ていうか、何だ? その義務。
そいえば、俺達に回復職いなかったな。盲点だった。
お? 穴が塞がっていく! すげぇぇ!!
「げほぉっ、げほぉっ! あー、生き返った」
「お帰り!」
「おう、ありがとな! って、おまえ誰?」
「これは、これは、私としたことが……私の名は、アイナ・メイプル・マドリーヌ・アラン・レオンハート。よろしくね~ん」
「よろしく!」
って、名前長すぎだろ!? どこの貴族だよ!
まあ、助けてくれたし、感謝しよう。
しかし、体が一瞬で治るとは、相当な腕だな。多分……。
「腰にまで届きうる銀色の髪、ブルーの瞳。もしかして、あの、完全治癒のアイナ!?」
エミルが目を丸くして叫んだ。有名なのだろうか。
「いかにも! 私は完全治癒のアイナです。どんな傷でも、完全に治します!」
「すごいですにゃ、完全だなんて……」
「って、話をしてる余裕ないよ! あいつに注目!!」
そう言って、エレナが指を指した。
指した奴は、さっき俺の腹に穴を開けた、クソ野郎。
何だ、あの苦笑い。つくづくむかつく。
「ふふ、ハロー! 私は、クレープ! 魔王の幹部の一人でーすっ。歳は秘密ね~」
「あ、あいつが、幹部なのにゃ!?」
「そうみたいだな……」
歳は秘密ね~――とか言ってるけど、言わなくても分かるよ。
多分、二十代後半だろ。ちょっとおばさんっぽいし。
いや、大人っぽいと言った方がいいのか?
まあ、良い。
どちらにしろ、ボコボコにして魔王の居場所を聞くまでだ。
俺は、DMGを構えた。
そして、標準なんか気にせず、とにかく。
乱射した。下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるという、思考回路だ。
闇の魔力のこもった、弾丸はクレープを捕えた。
そして、大きな黒の爆発に消えていった。
やったか!?……。
「あんた、すごく遅いわよ……っっ!!」
「う、後ろ!?」
そう。とっくに後ろに回り込まれていた。
速すぎて見えなかったのが現実だ。
クソ……!!
あれ? 何だ、この光の壁は……。
まるで、俺をクレープから守っているようだ。
「私も一緒に戦うわよ! エルフの魔法は最強なのよ!」
「ありがと! エミル。おまえ最高だわ」
「でしょ? ふふっ」
エミルの魔法のおかげで、クレープはこちらに攻撃ができなかった。
いや、違う、攻撃するつもりはなかったんだ!
こいつは、さっき俺の腹に、穴を開けた剣を回収しに来てたんだ。
そして、その剣には鎖が繋がれていた。
なるほど、投げて俺の腹に……。
「ああ、さっきはね、うっかり鎖離しちゃったの。それの回収」
「そうみたいだな……。んじゃ、俺の武器も見せるわ」
俺は、DMGを縦に持ち直し、魔力を高めた。
「黒炎の霊槍。ダーク・フォスティル!!」
発声と同時に、銃の先端に黒炎の槍の刃が出来た。
飲み込まれそうな、独特な色だ。
俺は、ダーク・フォスティルを掴み、クレープに駆け寄った。
そして、一直線を描くように、刃を突き立て、突いた。
が、それをあっさりと避けられた。
表情をみる限り、まだまだ、余裕みたいだ。
俺は、何度も何度も、ダーク・フォスティルを振りまわした。
しかし、かすりもしない。強い。
戦闘力が並みじゃない。
「あんた、弱いわね。そんなんじゃ、私を倒すなんて夢のまた夢ね」
そう、聞こえた。確かに俺は弱い。
転生前もそうだった。誰かに頼り、助けを求め、迷惑をかけ……。
それでも、それでも、それでも!!
「雪奈を助けるんだっっ!!!!」
全身の血が騒ぎ出した。憤怒が湧きあがってくる。
魔力が内側から、漏れそうな勢いなほど感じる。
全身から、真黒な光……いや、霧に近い物が湧いてきた。
「あ、あれは、まさか!! これは夢なのか!?」
「ど、どうしたんですかにゃ? アイナさん」
「あの、全身から出ている、真黒の霧……あれは、愛と怒りの神ユウキ・カミシロの魔力だ!!なぜ、あいつが!?」
「ご主人の名前は、ユウキ・カミシロですよ?」
「バカな!! ユウキは、四人の魔法使いの戦いで死んだのだぞ!? 私はこの目で見たぞ!! しかも、あれはまだ、青年じゃないかっっ!!」
「待ってくださいにゃ!! もしかして……この世界……未来なのにゃ!! いや、神様は、魔法使いの大戦は、昔と言ったはず……もしかして、元の世界は……魔法使いの大戦の前の時代? ああ。頭がぐちゃぐちゃにゃ!」
「し、しかし、ご主人。いえ、ユウキさんとは、どんなご関係で?」
「ユウキは、ユウキは、私の彼氏だったんだよー!!!」
「えええええええええええええ!?」
「なのに、あいつ……先に死にやがって……グスッ……」
――ユウキとクレープの戦い――
「おらあああああ!!!」
「クッ……!! この魔力、あんた一体何者!?」
「ユウキ・カミシロ!! 魔王をぶっ殺す者だ!!」
「まさか……生きていたとはね……」
ああ、生きていた? 意味わかんねーよ!!
俺と、クレープの槍と剣の弾き合いが続いた。
速いし、しぶといな、BBA!!
「あんた、今、ババアって言った!?」
「言ってねーよ!!」
「フン! なら、これはどうよ!!」
クレープがこちらに、剣を投げつけた。
俺は、首を傾け避けた。耳元で風を斬った音がした。
とうとう、怒れたのか? 脳筋野郎。
「ふふ、あはは!!」
「あー、何が可笑しい?」
その時、背中に鈍く、熱い痛みが走った。
体から、液状の物が出てくるのが分かる。血だろう。
そうか、こいつの剣には鎖が……引っ張ったのか。
って、あれ? 全然痛くねー。
つか、治ってる!? は!? 何で……?
「ユウキ、私がいるって事、もう忘れた?」
「おおお!! さすが、完全治癒のアイナ!! ありがとな!」
「ふふ……。大好きだぞ、ユウキ……」
「ん? 何か言ったかー?」
「ううん! 何も言ってないよー」
何だ? 可笑しな奴だな。
でも、何だろう……懐かしい感じがする……。
まあ、いいや。今は目の前の敵に集中だ。
「さあ、続きをしましょう?」
「おまえが言うと、無駄にエロく聞こえるんだが……」
そして、死者の魂がさ迷う谷で、戦いが再戦された……。




