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路地裏バー  作者: いろは茶
7/8

路地裏バー7

バーの入り口に、男と少女が立っている。


「いらっしゃい」


カウンターのヒロシゲがそう言うと、二人はそれぞれ別の席へ移動した。


男はカウンターに座り、少女は奥のテーブルに座る。


ミズキは眉をひそめた。――この二人は仲が悪いのかな。家族ではなさそうだけど……。


どうにも、この二人の間には壁があるように感じる。まだ初対面で、少しぎくしゃくしている感じ。ユズキが特に気になったのは、テーブルに座る少女の方だ。どうしてここに子供が? という疑問がわく。――まあ、自分もまだ子供なのだけれど。


ユズキが訝しんでいると、隣のヒロシゲにぽんと背中を叩かれた。


何でしょう、とユズキは振り向く。


ヒロシゲは何も言わなかったが、目線をテーブルの少女の方へやっていた。


――なるほど。僕が行って、相手をしろと。


頷いて、ユズキはカウンターを出る。


他のテーブルのお客たちは、やっぱり少女の事が気になるようで、少しざわついていた。しかし、直接少女に話しかけようとする人はいない。その理由は、少女に近づくとユズキにもなんとなく分かった。


周囲と壁を作るような、なんとも近寄り難い雰囲気。


これはちょっと厳しいな、とユズキは思ったが、ヒロシゲの命令なので引き返すわけにはいかない。なんとか少女のいるテーブルまでやってくる。


物静かにテーブルに座る少女は、ユズキにはとても光華な人物のように見えた。まるでフランス製のお人形みたい。なぜフランスなのかというと、それは多分、彼女が日本人ではないからだろう。彼女が外国の人なのだと思うと、ユズキはいよいよ緊張してきた。


ええと、何を言おう。


ユズキはとりあえず、


「お水出しましょうか」


と訊いてみた。


「ええ。いただくわ」


少女が答える。


ユズキは急いでカウンターから水を持ってきた。


「ありがとう」


「いえいえ」


会話がつまる。


その時、少女のお腹から「ぐうぅ」と腹の虫が鳴いた。


少女が若干、顔を赤らめる。


ユズキはおそるおそる訊いた。


「お腹すきました?」


「……うん」


困った。バーに料理は置いていない。しかし、この少女をほおっておくのも気が引ける。


そこでユズキはひらめいた。料理なら、まだ二階に残ってる。


「分かりました。じゃあ料理をお出ししますね」


少女の反応を待たず、ユズキはバタバタと階段を駆け上がっていった。


階段を上りながら、ユズキは妙に思う。さっきからこんなに心臓がドキドキしているのは、やっぱり緊張しているせいなのかな。……それとも、別の理由があったりして。



リビングでユカリが鼻歌交じりに食器を片づけていると、


「ユカリさん、まだパスタ余ってますか!」


と突然ユズキが現れて叫ぶように言ってきた。


ユカリは「え」と戸惑う。


「どうしたのユズキくん。またおかわりしたくなっちゃったの?」


                  ・


「お待たせしました」


そう言って、ユズキは少女の座るテーブルにパスタの乗った皿を置いた。フォークとスプーンも並べる。


「和風しょうゆパスタです」


料理名は、先ほど上でユカリさんにつけてもらった。


「なぜパスタ?」


少女が首をかしげる。


「……これ、今日のあなたの夕食よね」


「まあ、そうですね」


ユズキがうしろめたそうに目をそらすと、少女はクスリと微笑んだ。


「夕食のあまりをお客に出すなんて、あなた、変わってる」


「……すみません」


「いいのよ」


少女は言って、パスタを口に運んだ。


ユズキはパスタが器用にフォークに巻かれていくのを眺めながら、少女の反応を待つことにした。心臓は、まだドキドキしたままだ。


                   ・


「料理の代金は?」


「あれは売り物じゃないからいいよ」


短いやり取りをして、男がヒロシゲにお金を支払った。


「どうも」


「行くぞ、アリス」


「ええ」


――アリス、というのが、少女の名前なのか。


男がバーを出ていくと、アリスもそれを追うようにドアを引く。


バーを出ていく寸前、アリスはもう一度ユズキに微笑みかけた。


「料理、とってもおいしかったわ。また来る」


そう言って、アリスは出ていった。


「……」


しばらくぼーっと窓越しのアリスのうしろ姿を目で追っていたユズキだったが、


「惚れたか、少年」


というヒロシゲの一言で我に返った。


「まさか」


ユズキは即座に首を振る。図星だとは言えない。


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