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路地裏バー  作者: いろは茶
6/8

路地裏バー6

「ただいまー」


大量の荷物を抱えて、ヒロシゲがリビングに戻ってきた。


「よいしょっと」


「パパ、こんなにたくさん、なに買ってきたの?」


ユカリが訊いた。


「少年の服と布団。あとは来週の食料とか。あ、それと――――」


ヒロシゲは袋からどこか見覚えのある服を取り出すと、それをユズキに手渡した。――あ、これは……。


「バーテン服?」


「これを着て、早速下で仕事な」


「なるほど、内緒って、そういうこと」


ユカリが納得したように頷く。


「そ。衣装のレンタルやってる、友人の店に行ってたのさ」


「……あ、パパ、パスタ買ってきた?」


「当然」


ユズキは思った。――今日の夕食はパスタか。そしてパスタを食べたら、次はいよいよ、下のバーで働くことになる。


                  ・


「……お腹すいた」


「……俺は酒を飲みたい」


夜の街をぶらぶら歩きながら、アリスとダイスケの二人は、お互いに小さな声でぽつりと呟いた。


ゲンロク社長に言われた通り、さきほど近くの小さな会社を火の海にしてきたところなのだが、果たしてこの方法で本当に良かったのだろうか。ダイスケは殺し屋だ。殺し屋というは、もっと静かに冷静に、決して目立たないように殺しを行うはずなのだ。


「なあ」


ダイスケは隣のアリスに話しかけた。


「なに?」


「お前が勝手に火を放ったんだぞ。これで責任問われても、俺は知らないからな」


「大丈夫。社長は、方法は任せる、って言ってた」


「だけどなあ……」


ダイスケは思い出す。アリスがターゲットの会社に火を放った時、その目には、確かに怒りと憎悪が少なからず入り混じっていた。


「お前さ、どうして火を使ったんだ?」


「別に。手っ取り早いから」


ああそう、とダイスケはため息をこぼす。


その時、突然アリスが立ち止まった。


「……どうした」


「あれ」


アリスが指差した方にダイスケが目をやると、薄暗い路地裏に、小さくぼんやりと、微かに明りが灯っている。


――なんだあれは?


「ちょっと行ってみる?」


「……うん」


二人は路地裏に足を踏み入れる。


                  ・


「なかなか似合うじゃないか」


ここの常連らしい中年の男がユズキに言った。


「そりゃどうも」


ユズキは適当に言葉を返す。


「何だ、機嫌悪いのか」


「……いえ、別に」


実際、ユズキの機嫌はあまり良くなかった。というのも、ヒロシゲに頼まれた仕事の内容というのが、案外ありきたりなものでがっかりしたからだ。グラス磨きに付近の掃除。これでは家の家事とあまりたいさないのでは?


ユズキとしては、隣のヒロシゲのようにシェーカーをかっこよく振ってみたりする方が、仕事のしがいがありそうなのだが……。


「お前にはまだ早い」


「え」


ユズキの考えを見透かしたように、ヒロシゲが言った。


「カクテルは、そう簡単に作れるものじゃない」


「はあ」


「いいか、ユズキ。バーテンとバーテンダーの違いは、そこにあるんだ」


「つまり、カクテルが作れるか作れないか?」


「そういうこと」


なるほど、とユズキは頷いた。しかし、同時に疑問もわく。バーテンとバーテンダー。この二つには、もっといろいろな違いがありそうな気がする。


「本当はもっと厳密な違いがあるのだがね」


中年男が笑って言った。


「まあ、気にすることはない」


「……普通に気になるんですが」


「じゃあ、また別の機会に」


「えー」


ユズキは不服そうに、またグラス磨きを再開する。


その時だ。


店のドアを開けて、二人の新しい客が入ってきた。


ユズキが振り向くと、入り口には、すらりとした体格の男と、ユズキと同じ年くらいの、ワンピースの少女が立っていた。


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