路地裏バー5
お昼のリビング。
「ヒロシゲさん、なに考えてるんだろう」
「さあね。でも、帰ってきたら分かるよ」
ユカリはこの話をさらっと流したが、ユズキにとってこれは大問題だ。ヒロシゲは昨日、今日からここで働け、とユズキに言っていた。――もしかして、それに関連することなのか?
ユズキがうーんと頭を悩ませていると、テーブルからおいしそうな匂いが漂ってきた。
ユカリが訊く。
「オムライス食べる?」
「……いただきます」
・
「――と、いうわけだ。今日からはこいつとタッグを組め」
「………」
「なんだ、不服か? ダイスケ」
「いえ、そんなことは」
「ならいい」
ダイスケは殺し屋で、凄腕の一流スナイパーだ。大金が入るのなら、誰であろうとかならず仕留める。どんなにクソ野郎でも、その手先になる。しかしこれは―――――こんなことは人生で初めてだ。
今ダイスケが話している相手は、大手電機会社の社長さんだ。名前はゲンロク。このゲンロクに大金で雇われ、ダイスケは現在ではゲンロク専属の殺し屋となって仕事をこなしている。
そのゲンロクの隣には、まだ小学生くらいの、ワンピースを着た小さな少女が立っていた。ついさっきまでゲンロク社長のお孫さんかなんかだと思っていたが、まさか、この少女とタッグを組めとは。
「こいつはまだ子供だが、もう立派な殺し屋だ」
ゲンロクは笑う。
「お前がスナイパーで、コイツが接近戦担当。これで敵なし」
一方、隣の少女は顔をピクリとも動かさない。無機質、無感情を貫いているようだ。
「よろしく」
感情のない声で少女が言った。
「アリスよ」
「俺はダイスケだ。こちらこそよろしく」
ゲンロクがコホンと咳払いをした。
「で、早速仕事だ」
「なんでしょう」
「なに、簡単な見せしめさ」
「見せしめ」
「ああ。俺にたてついたこの会社を潰してこい。方法は任せる」
・
昼食のオムライスを食べて、掃除を再開。またあっという間に時間が経って、物置部屋はすっかりきれいに片付いた。ユズキとユカリが頑張った結果だ。二人とも、完全に顔の表情が燃えつきたジョーみたいになっている。
リビングに戻ると、ユズキは冷蔵庫から麦茶を、ユカリはテーブルのリモコンを手に取った。
テレビがついて、リビングにニュースが流れる。
しばらくニュースを見て、突然、ユカリが驚いたように声を上げた。
「この近くででっかい火事だって」
「え、怖いですね」
「だねー」