路地裏バー4
「はい、麦茶」
「あ、ありがとうございます」
ユカリの部屋で寝かせてもらった次の日の朝、ユズキはユカリと一緒に、リビングでゆっくりくつろいでいた。大きな窓から差し込む光が、少しだけまだ目にまぶしい。
「麦茶、おいしいです」
「私は朝から珈琲だけどね」
しばらく喋っていると、リビングにあのバーテンダーの男が現れた。名前は確か、ヒロシゲさん。
「なんだ、二人とも起きてたのか」
「あの、おはようございます」
「うむ。おはよう少年」
少年? なんだか古臭い呼び方だ。
ユカリがヒロシゲの珈琲を入れる。
ヒロシゲは珈琲を飲んで、
「二人は、このあと暇?」
「ううん。これから物置部屋を掃除するんだ」
「物置部屋を?」
「うん。ユズキくんの部屋にしようと思って」
なるほど、とヒロシゲは頷いた。
「良い考えだ。二人で頑張ると良い」
「なに言ってんの。パパも手伝うんだよ」
「残念。俺には仕事がある」
ユズキとユカリがリビングを出ていくと、それを見計らってヒロシゲはポケットからスマホを取り出してどこかへ電話を掛けた。
「あ、もしもし? 俺だけど――」
・
「だいぶ片付いてきたね」
「そうですね」
物置部屋を掃除しているうちに、あっとゆう間にお昼になってしまった。ユズキもユカリも、もうすっかりくたくたになっている。お腹もすいた。
「おー、頑張ってるな」
その時、ナイスタイミングで麦茶を持ってきたヒロシゲがひょっこり顔を出した。――麦茶だ。ありがたい。
「ちょっと休憩します?」
「うん、そうする」
ユズキとユカリは、一端物置部屋から撤退。
廊下で一気に麦茶を飲み干すと、ユカリがヒロシゲに訊いた。
「もう仕事終わった?」
ヒロシゲは首を振る。
「悪いな。これからちょっと仕事で外出」
「どこいくの?」
「内緒」
「えー、気になる」
「帰ったら教えるよ」
そう言うと、ヒロシゲは不敵な笑みを浮かべてユズキを見た。
「な、なんでしょう」
「まあ、楽しみにしてろって」