路地裏バー3
「あのユズキって子、あやしいな」
「そうか?」
「だって変だろ。今どき子供が家出って」
「あいつは自分磨きの修業だと言っていた。――子供のくせに根性あっていいじゃないか。俺は気に入ったぞ」
「まあ、悪い子には見えなかったが……」
一階バーのカウンターで、バーテンダーの男――ヒロシゲは常連の中年男とあの子供について話をしていた。
さきほどヒロシゲがあんなことを言ったせいか、今は向こうのテーブルにいるお客達も、ユズキの話題で盛り上がっている。――どうでもいいが、話題が盛り上がってどんどん酒を追加してくれると、こちらとしては儲かるのでうれしい。
「一体、なにを隠しているんだろう」
中年男はグラスを意味もなく回し続ける。
「さあ」
ヒロシゲは頭を振る。
――このバーで子供が働くと噂になれば、興味本位でここにやってくる人が増えるかもしれない。もしそうなればこのバーはさらに活気づき、最終的にこの店の利益につながる。
確かにあの子供のことは気になる。しかし、夢が膨らむのも事実だ。
「いつものカクテルちょうだい」
「はいはい」
・
「こんな超展開もあるんだね」
少女が言った。
「はい、ここが今日からユズキくんの部屋」
ユズキが少女に案内された場所は、二階の、廊下を少し行って横にある少し小さめの物置部屋だった。ドアを開け、中の様子を窺うと、ユズキは思わず顔をしかめる。
「これは……」
「あちゃ、こりゃひどいね」
四畳半の物置部屋は、とうの昔にいらなくなった不要物が、まるでガラクタか何かのようにそこら中に散乱している、それはもうひどい有り様だった。おまけに、かなり埃臭い。
「ごめん、ずっとほったらかしにしてて……」
「良いですよ。掃除すれば問題ありません」
「ここを掃除って……はあ、ユズキくんは前向きなんだね」
「そんなことないですよ」
ユズキとしては、こんな展開にはなってしまったものの、部屋を借りられるだけでも本当にありがたい。なので、贅沢はいはない。
――だけど、今日寝る場所はどうしようか。
「あ、そうだ」
少女が、急に思いついたように声を上げた。
「この部屋使えないし、今日は私の部屋で寝ちゃいなよ」
「え、良いんですか?」
「ノープロブレム」
「なぜカタコト?」
「なんとなく」少女は続ける。「マイネームイズユカリ。ナイスミーチュー」
「はあ、ユカリさん、ですか」
「反応薄いね、ユズキくんは」
「じゃあ、ナイスミーチュートゥー?」
「なぜ疑問形?」
「なんとなく」
ユカリはくすりと笑った。
「私たち、なんだか良いコンビなれそう」
――そうかな。変わった人だ。