路地裏バー1
ちょっと前に不定期連載していた「路地裏バーの来客たち」の改訂版。
文量を減らして読みやすくし、シナリオを変えました。
話は毎回、短めで投稿しようと思います。
ユズキの体力は、もう限界を迎えていた。荒い呼吸を整え、自分が薄暗い路地裏に逃げ込んだのだと気づいた時には、すでに走る気力は少しも残されていなかった。
――どこか、休む場所。
ユズキは周囲を見回して、古い年期のはいったベンチを見つけた。何故こんなところにベンチが? という疑問は浮かんだが、そんなことはベンチを座るのと同時に一瞬で吹き飛んだ。
――ここなら奴らも追っては来ないだろう。
そう思うと急に安心して、体から力が抜けて、眠たくなって、ユズキの意識はぷつんと途絶えた。
・
薄暗い路地裏を、一人の男が歩いている。
男はバーテン服を着ていて、手には膨らんだビニール袋を下げている。自宅の入り口が路地裏にある男の表情は、特にそのことについては何の不満も感じさせない、どうどうとしたものだ。男は、ジャズの「Caribe」を鼻歌で歌いながら、今晩の夕食について考える。――今日は土曜日。ユカリは曜日によって作る料理を決めているから、今夜は肉じゃがになりそうだな。……うん?
その時だ。男は路地裏で、少年を見つけた。
――古い年期のはいったベンチの上で、少年が眠っている。
「………」
眠った少年の顔は、ひどく疲れ切っていた。今は起こさない方がよさそうだ。男はしばらく考えて、眠った少年をゆっくりと肩に担ぐ。両腕で体を支えるので、手に下げたビニール袋が顔に当たらないよう気をつける。とりあえず、男はこの少年を自宅で休ませてあげることにした。
気を取り直して、再び歩き始める。
――それにしても、どうしてこんなところに子供が?