呪いの剣
戦争は終わった。
多くの人が死んで、多くの血が流れた。
多くの涙が流れ、多くの者が路頭に迷った。
理不尽に奪われた幸せを求めて。
理不尽な力を恐れて。
人はこの世から戦いを根絶しようと考えた。
だから。
「王は私を殺すと言うのですか?」
「ああ」
「何故なのです?!何故私は死なねばならぬのです?!」
「民がそれを求めたからだ」
「何故?!民を守る為に剣を取り、矢を面に立ち続けた私が民に死ねと言われねばならぬのです!」
王は疲れ切った顔をしていた。若々しかった肉体も一気に衰えたかのように感じられる。
「民は戦争が憎いのだ。そして力が憎い」
「だからこそ私が守り続けるのです。その怖れる力をはねのける為に…!」
「だが、戦争は終わったのだ。だから民は守る力が何時己に向くのか気が気でないのだ」
王は、「民はお前の力を知ってしまったからな」と付け加えた。
「そんな…」
「英雄は戦乱の時代に求められる。これからの時代に英雄は必要ないのだろう」
「それは王も同じ意見なのでしょうか…?」
「過ぎたる力は身を滅ぼす。過剰な力は疑心を生む。わかってくれ…」
「私は…死ぬために戦っていたと言うのですか?」
「すまない…」
「はは…ははははは…!はははははははは」
涙をこぼし、壊れたように笑う。
否、事実壊れた。心も、それを支えるものも。
英雄は自らが守る者達によって殺された。
力を恐れる民によって殺された。
理不尽を恐れる民によって。
理不尽に命を散らした。
英雄の持っていた剣は最後に、主の血を啜った。
そして、主の心も啜った。
聖なる剣はその輝きを失い、禍々しい黒と赤へと変貌した。
王家に災いをもたらし、持ち主を破滅へと誘う魔剣。
王の乱心によって国は滅びた。
理不尽な怒りを恐れた民も。
理不尽な怒りに殺された者も。
平等に死を与えられた。
生きる者、死ぬ者。
力がある者、無い者。
この世にある理不尽もことごとく。
平等に死を与えられた。
処刑台の上で英雄は叫んだ。
「理不尽を恐れる者よ!私は誓おう」
狂ったような笑みで涙を流し、英雄は叫んだ。
「平等に死を与えると!」
その誓いは剣になってからも破られることは無く果たされた。
そんな英雄の末路。
一振りの剣が見て来たそんな呪い。