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①Leveler  作者: 日暮之道吟醸
第二章 現実は厳しい
9/21

聖なる巨獣

やってしまったぁぁぁぁ!!!

今日中に更新しますってもう十二時待ってますよOrz

急に用事が入らなければぁぁぁぁぁ!!


待っていてくれた皆さん本当に御免なさい!

お待たせしました。

「それで、これは一体どういうことなん、だ!」


 辰巳の目の前に巨大な獣が咆哮を上げている。


「ぷおおおおぉぉぉぉおおおお」


 獣にあわせてプルティナも吼える。


「ぷぅ、吼えてる場合じゃねぇぞぉ!」


 急いで回れ右して、逃げなければ二人とも轢き潰されてミンチだ。その証拠に、本来自分達が討伐するはずであった『火喰い蜥蜴(レッド・リザード)』 は見る影もない。ただの肉の塊である。


「こりゃ、おっかねぇや」


 乾いた笑いしか出ない。

 何故この森にこんな魔物がいるのか、不幸にも程がる。

 不幸にも……。


「お前か、ぷぅ! 『聖なる巨獣(ベヒモス)』を呼んだのわ!」


 頭の上にいるプルティナに向かって叫ぶ。

 災厄龍には近づくものに不幸をもたらすという設定がある。辰巳はそのこと思い出したのだ。ゲームの中では実感することはなく、脅威があるとすれば状態異常を乱立させるブレスぐらいしかなかった災厄龍。そんな設定があったことなど、多分どのプレイヤーも覚えてないだろう。しかし、このあってなかったような設定が仲間になったとたん、身近に感じられるようになるとは……恩を仇で返すとはこのことではないだろうか。


「ぷぃ?」


 何のこと? プルティナの顔はそう訴えていた。

 この際、災厄龍の特性は脇に置くしかない。なぜなら、ベヒモスが辰巳とプルティナ目指して猛進しているからだ。


 どうでもいいことじゃねぇ。どうでもいいことじゃねぇけど。


 辰巳は舌打ちをして、急いで右に飛び退いた。

 数瞬遅れて高い木々が薙ぎ倒される音がする。

 

辰巳は直ぐに立ち上がり、ベヒモスを睨んだ。

捻れた角に短い尾。十メートル以上ある体躯は丸く、首がない。体にそのまま顔がくっついたような形だ。手足は短い。この手足でどうすればあのようなスピードが出るか甚だ見当がつかない。しかも、口には恐ろしい牙が並んでいる。草食の魔物なのにだ。


 何で、こんな所にいるんだ。


 辰巳は焦っていた。

 ベヒモスの通る場所は草の一本も残らない。全て食べつくされるからだ。そういった理由から人里に下りたベヒモスは――普段は温厚で臆病な魔物であるが――災害級の魔物とされている。勿論滅多に人里に下りてくることはない。


 しかし、今回はその滅多にない出来事に遭遇してしまったらしい。

 ここはベルティアより西に位置する『古き民の森』。馬車を三日も乗れば来ることが出来る場所だ。数キロ離れているとはいえ、近くに村もある。普段ならここまで人の近くには寄ってこない。しかも、人を見るなり襲ってくるとは珍しいではすまない事態だ。《MidGard》ですら、神獣扱いで滅多に討伐クエストがなかったほどだ。辰巳自身も一度しかクエストを受けたことがなかった。


 だからと言って、災厄龍なら倒せたのだ、力の根源が何なのかまだ分かってないが、レベル1だとしても焦る必要はない。そう災厄龍レベルなら――。


 ベヒモス、レベル480。


 これが《MidGard》でのベヒモスのレベルである。

 確固たる自信もないのに180も上のレベルの魔物を倒したいとは辰巳は思わなかった。


 なにかなかったか?


 此方に向き直ってまたも突進する体制をとるベヒモスを観察しながら、辰巳は必死に攻略法を思い出す。


 こいつにはあの時も煮え湯を飲まされたな。


 自分はこいつが苦手だったと思い出しながら、右に跳び左に跳び、ベヒモスの突進を避ける。時には足を取られてすっころんだ拍子に頭上を横薙ぎにした角が通った時もあった。必死に回避に専念する。プルティナも必死になってしがみ付いている。その甲斐あってか、辰巳は思い出した。


 こいつは唯一、麻痺に弱い。


 物理的にも、魔術的にも、強い防御力を誇るベヒモスは間抜けなことに状態異常でこれだけは何とか与えれることが出来る。

 そうと決まればと、後ろに迫るベヒモスを肩越しに確認して、辰巳は迅速に動いた。


「ぷぅ! お前のブレス、思いっきりベヒモスにぶちかませ!」


 プルティナは頷くと器用に辰巳の頭の上で素早く後ろを向き、ベヒモスに向かって紫の霧を吹く。あたり一面を紫の霧が包み込んだ。

 ベヒモスは動きを止め、一度鼻から息を吐くと、角を振って霧を散らす。

 直ぐに霧は晴れ、しかしそこに辰巳たちの姿はない。


「ハハッ。テメェはどこ見てんの?」


 辰巳の声を聞き、ベヒモスは辺りを見回す。当然どこにも誰もいない。


「ほんじゃまぁ、一先ず痺れとけ」


 そういって辰巳は貫手のように指を伸ばしたまま、拳を振り上げ――。


「【縛針指】!」


 ベヒモスの頭へと突き出した。

 ドスッという音と共に ベヒモスの動きが止まる。


「っはぁ~、これで何とか――」


 辰巳は息を吐き張り詰めていた緊張を解く。その瞬間、辰巳はベヒモスから振り落とされた。

 地面に引っくり返った辰巳はわけも分からずベヒモスを凝視する。


「嘘だろ……」


 確実に麻痺させたはずだ。けれど、のっそりと動くベヒモスに辰巳は驚愕した。

 辰巳の放った【縛針指】という武術スキルは威力こそないが、その分、状態異常――麻痺を起こさせるのに絶大な効果がある。耐性が少しでもなければ、ほぼ必ず効果があると言ってもいい。


 しかし、ベヒモスは動いている。


 呆けている場合じゃないと素早く立ち上がったが遅かった。

 ベヒモスはその巨体を物ともせず、短い手足で駒のように横に回転すると、短い尻尾で辰巳を薙いだ。辰巳が出来たことといえばプルティナを抱きしめ、庇う様に背を向けることくらいだった。


「ぷぇ、ぷぇ」


 辰巳の腕から這い出たプルティナが心配そうに倒れた辰巳の頭を叩く。

 数十メートル向こうにベヒモスが見えた。大木にぶつかったためこの程度で済んだが、本来ならもう少し吹き飛ばされていたことだろう。


 辰巳はプルティナの頭をそっと撫でながらゆっくりと立ち上がった。しかし、たった一撃で満身創痍。体がプルプルと振るえ、堪らず大木に手をついた。


 辰巳はベヒモスを睨みつけながら何かがおかしいとようやく気付く。

 災厄龍を不意打ちだったとはいえ、たった一撃で鎮圧させたのだ。もう少し上のレベルでも何とかなると、そう辰巳は考えていた。


 確かに苦手な魔物だった。あらゆる攻撃に足して強固な防御力を誇り、状態異常にも強い。あの時もレベルが低くて辛酸を嘗めた。けれど、レベル180程の差ならあの時と変わらない。苦戦はしてもたった一撃で負けたりはしない。


 これが現実か。


 未だにゲーム感覚が抜けていなかったと、自嘲するように苦笑した。

 現実だとしっかり理解していたら――。


「まず、やるべきことは相手を知ること。そうだったよね、じいちゃん」


 辰巳はプルティナを抱き上げ頭に乗せると両頬を手で叩いた。


「よしっ!」


 気合を入れると辰巳はベヒモスを睨みつけ叫んだ。


「【情報強奪】」


  ◆


「マスター、タツミさんは大丈夫でしょうか?」


 パメラはミラッカにそう尋ねた。その顔にはありありと心配の文字が浮かんでいる。

 今朝、ギルドに訪れた辰巳は、ミラッカの勧めで星五つの依頼を受けていった。


 つい半月ほど前に初めてここにギルドカードを作りにきた少年は、既に上位ランクの依頼を受けている。未だ自身のギルドランクは星二つなのにだ。

 ギルドには様々な依頼が毎日山のように来る。その依頼それぞれに難易度としてのランクが星の数で八段階に分けて表される。簡単な依頼なら星一つ、難しければ星六つと言った具合に。


 星二つまでは初心者が、四つまでは中級者、五つからは以降は上級者といった目安で冒険者達は依頼を受けていく。しかし、これはあくまで目安でしかなく、たとえ自分のギルドランクが星一つでも上の依頼を受けることが出来るのだ。勿論、その場合の依頼失敗によるペナルティは重い。最悪の場合は死ぬことになるし、生きて帰っても莫大な罰金がある。自分のランクと同等の依頼であるなら失敗しても大した罰金ではないのだが……。


 そんな理由から、冒険者達はあまり高ランクの依頼は受けない。偶に馬鹿な奴が受けて奴隷にまで身を落とすが、それ以外の冒険者は身の丈にあった依頼を受ける。


 だからこそ、パメラは辰巳が心配であった。


 もし失敗してしまったらと。

 ギルドランクを上げるには数をこなすしかない。そのためどうしても時間はかかる。煩わしいと思ってしまうのも無理はないが、それでも無理をしてほしくなかった。


「タツミならね、心配するだけ損だよ」


 ミラッカは何の問題もないと笑った。

 お昼の休憩時間にパメラがすごい勢いでギルド内にあるミラッカの執務室に現れたため、ミラッカは何事かと心配した。しかし、蓋を開けてみれば大したことはない、辰巳のことだ。心配して損したと辰巳に失礼なことを思い浮かべた。


「損って! マスターは心配じゃないんですか?」


 パメラは尚もすごい剣幕でミラッカに詰め寄る。


「そうか、パムは知らないんだったね」


 ミラッカはやれやれと一息ついた。


「タツミの規格外の魔力を見ればね、レッド・リザードくらいなら誰だって心配なんてしないさ」


 ミラッカの言葉に、けれど未だ納得がいかないパメラ。

 レッド・リザードだって凶悪な魔物だ。普通ならベテラン冒険者が十人以上でやっと渡り合えるのだから。


「その顔はまだね、信用できてないね」


 ミラッカはにたにた笑う。

 パメラは顔を顰めながら、小さく頷いた。


「そもそもあいつはね、あんな形だが災厄龍を一人でね、相手に出来るんだよ。私らがね、心配したってね、意味はないさ」


 それにね、とミラッカは続ける。


「五日ほど前にね、あいつのスキル練習に付き合ってね。自分の限界が知りたいとかね、ぬかすからね、何のことかと思ったら」


 そこで区切ってミラッカはぶるりと震えた。


「あいつ、今はなくなってしまった古いスキルをね、バンバン使い始めるんだよ。そのどれもが強力でね、私は生きた心地がしなかったね」


 その時のことを思い出したミラッカの顔は蒼白である。

 ミラッカの武勇伝を知っているパメラからすれば、それは異常なことであった。


 ミラッカを恐怖させる辰巳はどれほど強いのだろうか?


 そんな疑問が浮かぶほどには、パメラの気持ちは落ち着きはじめていた。


「そういえば、タツミさんは魔力のことを晶力って言ってましたね」


 余裕が出来たからだろうか、前に辰巳の口から出てきた言葉をパメラは思い出す。


「晶力!」


 驚いたミラッカは小さく「あいつ、ほんとはヒューマンじゃないんじゃ」と呟いた。

「晶力というのはね、魔力の別名さ。数千年前にね、使われていた名だね」


 ミラッカがまだ幼かった頃、ハイ・エルフが魔力のことをそう読んでいたのを思い出す。

 その晶力と呼ばれていたものが、魔晶力といわれるようになり、今の呼び方に変わったのだ。今となっては遠い昔の話である。


 辰巳の場合は《MidGard》での癖でそう呼んだに過ぎない。今でこそSPはスキルポイントと《MidGard》ではなっているが、本来は晶力というのが正式である。しかし、新しいプレイヤーが入るにつれ、SPのことを誰も晶力とは呼ばなくなり、運営側もスキルポイントのほうが分かりやすいならと変えてしまったのだ。だが、古参のプレイヤーは今でも晶力と呼んでいる。


 古参プレイヤーであった辰巳は、偶々いつものように呼んでしまっただけだった。

 そんなこととは露とも知らないミラッカは、辰巳はヒューマンではないのか? と思うようになっていた。


「そんな昔のこともタツミさんは知っているんですね」


 パメラはただただ感心するだけだ。


「そんなに物知りで強いのに、何で今までギルドに登録していなかったんだろう?」


 パメラはもっともな疑問に行き着く。


「そりゃ、倭にはギルドがないからね」


 さも当たり前だとミラッカは返答した。


「パム、お前はギルド職員なのにね、そんなことも知らなかったのかい?」


 パメラは顔を赤くして力弱く「すいません」と頭を下げた。


「まあね、知らなくても問題はないんだけどね」


 そう言ってミラッカは笑う。


「あの国はね、殆んどの人間がね、何かしら戦う術を身に着けてるからね、ギルドに頼る必要がないのさ。そんな所じゃギルドは普及しないからね」


 パメラは辰巳を思い浮かべて納得した。

 あんな人間ばかりならギルドなんて不要だなと。


「さてと」


 ミラッカは大きく伸びをした。


「取り合えず、あいつの心配はね、しなくても大丈夫さ。それこそ『聖なる巨獣』が暴れ出たりでもしない限りは、無事に帰ってくるさ」


「そうですね」


 そう言って二人で笑いあった。

 辰巳がベヒモスと出会う五分前の話だ。


  ◆


「ベヒモスじゃない!」


【情報強奪】により得た目の前の魔物の情報に辰巳は驚く。

 そこには『聖なる巨獣』の名はなかった。


狂乱する聖獣(ベヒモス・オーガ)』それが対峙する魔物の名前だった。


「くそ! こんな魔物しらねぇそ!」


 辰巳は舌打ちして対策を考える。


 あと得られた情報といえば、レベルくらいだ。

 ベヒモス・オーガのレベルは666。なんとも不吉な数字である。


 勝てないのは当然と考えるべきだ。


 そう考えながら、覚悟を決める。

 もう、先ほどまでの辰巳ではない。

 どうすればこの勝つことの出来ない状況をひっくり返せるか。それだけを考える。


 ベヒモス・オーガねぇ。


 遠くからまた地響きが近づいてくる。


 狂乱?

 そうか!


「ぷぅ、少し離れてろ」


 急いで辰巳はプルティナを頭から退かす。

 辰巳の顔をじっと見たプルティナはぷへへと嬉しそうに笑うと、その小さな羽根でパタパタと高く飛ぶ。


「よし、かかってこい!」


 辰巳はベヒモス・オーガ迎え撃つため構えた。

 ベヒモス・オーガはスピードを一切緩めず、辰巳目掛けて突進してくる。

 辰巳は避ける素振りも見せない。

 そして――。


 ボゴッ。


 辰巳は再び吹き飛ばされる。


「グッ!」


 痛みに耐えながら、辰巳は空中で体制を整えると、うまく大木の側面に着地し、そのままの勢いでベヒモス・オーガへと向かって木を蹴って跳ね飛んだ。


「お前のくれた痛みだ。倍にして返すぜ」


 呟きと同時に先ほどまでのスピードが一瞬で零となる。トンとベヒモス・オーガの鼻先に辰巳は優しく手を触れた。


「【竹箆返し】」


 辰巳の呟きは木々のざわめきの中に溶けて消える。


「狂乱……バーサク状態で攻撃性を高めたが故の弱点ねぇ」


 辰巳は静かに地面へと降り立った。


「折角の物理防御力も半分以下じゃ意味を成さないか」


 大きく伸びをして肩を回した後、ほっと溜息を吐く。


「おわったぁぁぁぁぁ!」


 ドシンッ!


 ベヒモス・オーガは崩れ落ちた。


お読みくださりありがとうございましたヽ(*´∀`)ノ

今回誤字脱字が多かったと思いますごめんさい・゜・(ノД`)・゜・

急いだので少し文章も変かもしれませんね(TwTlll)


今回はあとで大幅に手直しするかもしれません。

お待たせした上に本当に御免なさい。

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