蝉が鳴いている
今回は水夏ほのぼのゆる~くいきまっせ!
純愛ぷまいれす(^p^)
ミンミンと蝉が煩く鳴いている夏の向日葵畑の中で、僕は初めて恋をした―――
僕は、普通に女の子が好きだし、男は友達として好きだ。いたって健全な中学二年生になるはずだった。それなのに、なぜだろう。その青い髪と青い瞳を見た瞬間に、不思議な気持ちが広がったんだ。もやもやとした、それなのにドキドキする、不思議な気持ち。
話しかけてみると、青い瞳が僕を見て、その瞳に僕の姿が映っているのを見た途端、心臓が軽く掴まれたみたいになったんだ。得意なチャラ男スマイルを浮かべながら会話する。ドキドキしている自分を出さないように、必死だった。
最初は能力者同士という間柄でしか無かったけれど、何度か仕事を一緒にして、友人というところまでたどり着いた。笑顔も、怒った顔も、無愛想ないつもの顔も、見てるとなんだかほんわかするって言うか、落ち着くのに、落ち着かない。なんだか息が詰まるんだ。
桜も緑になってきたころ、僕はこの気持ちが何かを知ったんだ。校庭にある大きな桜の木下でぐだぐだと話していたら、黒い綺麗な毛並みの銀色の目を持った黒猫が寄って来て、珍しく微笑んで猫を撫でる姿を見てドキドキする自分の心臓を抑えるのに必死になっている時に、クラスの女子が言っていた言葉を思い出した。
「もー本当大好きなんだぁ。その子の事。ドキドキしてキュンってなってもう大変なの」
“好き”そうか。僕は水龍が好きなんだ。感じていた不思議な気持ちに、名前がついた。好きだという事実は、思いの他すとんと心に落ち着いた。黒猫が、僕の方によってきて、だからしゃがんだとき、僕の顔に擦り寄って耳元で
「がんばって。応援してますよ」
聞いたことあるような声でそう言ったんだ。その後黒猫はこちらを1度だけ振り返り、去って行った。僕、幻聴まで聞こえるようになったのかな。
向日葵が蕾を綻ばせてきたころ、僕は悩んでいた。
「好きなんだ・・・そっか・・・好き、なんだ・・・」
向日葵に囲まれた部屋で独り、ポツリと呟いた。呟いたというよりは、口から零れ出たと言った方が正しいかもしれない。僕はそのとき、男である水龍を好きになってしまったということや、それを水龍はどう思うのだろうということで、だいぶ絶望的になっていた。
桜がすっかり緑になって、蝉の声が聞こえてくるようになった初夏のこと。僕の心臓は限界だった。毎日毎日ドキドキして、家に帰るとその心臓が止まりそうになる。こんな気持ち、水龍が知ったら気持ち悪いって思うよね。だって僕も水龍も男だもん。自嘲気味に笑いつつ、僕は初めて涙をこぼした。1度溢れるとそれは中々止まってくれなくて、とても情けなく、ぼろぼろと泣いてしまった。その日は土曜日だったから、こんな赤くなった目は見られなかったのが、唯一の救いだった。
ついに、熱を出して寝込んでしまった。正直朝から動きたくなくて何も食べないでいたらますます熱が上がってしまった。クラスメイトがお見舞いに来てくれたけど、ほとんど意識が無かったから、まったく覚えていない。女子数人と、男子数人で、女子の割合が多かった気がするけど、誰が来たかも分からない。そんな風に意識が朦朧としている時に、水龍が看病に来てくれた。玄武さんはお粥を作りにキッチンへ行っていた。額のタオルを替えてくれているときに、心から出て、口から漏れてしまったんだ。
「・・・き」
「ん?何か言ったか?」
「好き」
「え?」
「恋愛対象として・・・好きなんだ」
それは、本当に小さな声だったけれど、水龍が何かを言っているのを感じながら、意識を手放した。だから、水龍の表情にも、お粥をとうに作り終わり、薄く笑いを浮かべながら一部始終を傍観していた玄武さんにも、僕は気づかなかったんだ。
突然の告白。恋愛対象として好き。そう言われた。俺も夏花も男で、夏花はただ単に友人として俺を好いているのだと思っていた。
「・・・俺もだよ。馬鹿野郎」
俺の言葉は届くことなく、向日葵だらけの部屋で、虚しく消えていった。
「どうかなさいましたか?」
お粥を持った玄武が戻ってきて、いつも以上に無愛想な顔の俺に問うてくる。
「・・・・・・いや、別に」
「そうですか。寝てしまいましたね。お粥どうしましょう」
俺だって・・・・・・お前が好きなのに。夏花・・・どうしてくれる。精神が、ぐらつくじゃないか―――。
2人が帰って、すっかり夜になってしまったころ、目が覚めた。そして、激しい後悔の念に苛まれた。どうしよう。どうしようどうしようどうしようどうしようどうしよう。言ってしまった。思いを、伝えてしまった。あれほど必死に抑えていたというのに。その日から僕は、水龍と極力関わらないようにした。怖かった。拒絶されるのが、怖かった。
学校の休み時間にも、他の奴らとつるんで、避けていた。かかってくる電話も、届くメールも、全部無視した。怖い。好きだから、怖い。
桜が青々と茂り、蝉が煩くなってきたころ。僕はその日、お気に入りの広い向日葵畑で寝転んでいた。向日葵畑といっても、野原だったところに、能力で向日葵を咲かせまくっただけなんだけど。カサ、と誰かが来た音がした。音がしたほうを見ると、かなり苛ついた様子の水龍が、僕を見下ろしていた。そのときはもう逃げるという選択肢すら思い浮かばず、硬直していた。怖い。その感情が渦巻いていた。頼むから、その綺麗な瞳に、僕を映さないでくれ。
「俺の気持ちも聞かないで避けやがって。巫山戯んなよ」
気持ちなんて、聞きたくも無い。怖い。怖い怖い怖い怖い怖い。
「俺も、お前が好きだ」
頭が、真っ白になった。
「それなのにお前はずっと避けてやがるし、目も合わそうとしない。何度でも言おう。お前が好きだ。お前が男でも、女でも、好きだ。恋愛対象として、好きだ」
「本当?」
「どうして嘘をつく必要があるんだ」
僕の涙腺、頑張ってくれ。お願いだから、泣かないでくれ、僕。でも、もう遅かった。水龍の指が僕の目元を拭う。そして微笑まれて、泣かない奴が居るのだろうか。水龍に上を向かされて、そっと唇に押し当てられた柔らかなそれが、離れていくのが嫌で、何度もねだる。この好きな気持ちは、“好き”という言葉じゃとうてい表しきれない。たぶんこれは、執着だとか、依存だとか言うのだろうけど、僕は、“恋”そう呼びたい。
僕たちの姿は、背の高い向日葵がすっぽり隠してしまうだろうから。思いっきり泣いて、思いっきりキスするんだ。
僕が初めて恋した日。蝉が煩く鳴いていたのを、僕はよく覚えている――――――
本当ベタですみません。でも書いてて楽しかったお(^w^)