進路相談
つまらない回になりました。すみませぬ。
「やましい事なんか無ければ、特に平気だろう?」
にっこりと煉兄が笑った――。
平気じゃないって、何か色々するでしょう!?二人で!!
――今現在、引き続き鈴も加わってあたしの志望の大学を聞き出そうと躍起になっている幼馴染み二人に囲まれています。
……前と後ろに。詳しく言えば、前に恐い煉兄と後ろに哀愁感漂わす鈴。
前門の虎、後門の狼とはこの事だったんだね!理解できました!自分の身で体験したくはなかったけどっ!!
「ほら、暦。トリップしない!」
怒られた!いいじゃないか、現実逃避しても!現実逃避したくなる現実なんだから!
「……邪魔しないならいいよ」
「「邪魔?」」
二人の声が重なる。気が合わないのにタイミングは合うんだねー。
「二人が今までやってきた余計な事!二人の所為で、今まであんまり親しい友達作れなかったの!!彼氏だってできないし!!」
「余計、ではないよ。悪い虫がついたら大変だよ」
当たり前の事と言うばかりに、煉兄が言った。
「暦には私がいる」
少しムッとしながら、鈴が言った。
そんな分からず屋な二人に一瞬絶句したよ、あたし。
「過保護過ぎでしょう!その位あたしだって理解してるよ!」
「用心に越したことはないよ」
「裏切る人は沢山いる。見極め」
何故分かってくれないんだぁっ!泣きたくなってきたよ!
「取り敢えず!今言った様な事をやらないって言えば教える!」
そう宣言すると、二人は渋い顔をする。
「「暦……」」
子供をたしなめる親の様な感じの煉兄に、苦しげな表情の鈴。何かあたし、悪い事をした子供の気分。何で……?
――そんな事を考えていると、前から溜め息が聞こえた。
「分かった」
まさかの煉兄が了承をっ!?
煉兄は、いつも笑顔で否定しまくったりとか、笑顔で少し小言を言いまくったりとかして、諦めるしかないと思う程しつこいのだ。
流石の鈴も、それを知っているので驚いていた。
「分かったから、大学はどこを志望しているの?」
早くとばかりに、煉兄が急かす。
「……花井戸大学」
あたしは、俯いて少し遠くの大学を告げた。微妙な距離の大学で、もし通うなら家をでた方がいい大学だ。
「花井戸?何でそんな所に」
「今の成績だったら花井戸がちょうど良かったし、家も出ようかなって思いまして……」
最後がもごもごしてて、自分でも何言っているか分からないのに煉兄はそれを理解したらしく、黒くて恐いオーラが更に漆黒に……。
あぁ、帰りたいなぁ……。
ちらっと時計を盗み見ると既に六時だ。お腹、空いたぁ。
余計な事をちらほら考えていると、煉兄と鈴が一緒に口を開いた。
「「許さない」」
「……何で?」
「俺の通っている大学でいいじゃないか。そこだったら暦の成績でも行けるんだし」
「家なんてわざわざ出なくてもいい」
「……緑千大学だって行けるけど……それに、家にだらだらと居座ってるのはダメだと思うし……」
目線をずらして言うと、結構オーラに当てられずにすむっていう事を初めて知った……!
ていうか煉兄、あたしの父より父らしいっていうね!実の父は適当な人だよ!面倒くさがりな人だよ!頼み事をするとすぐに「えぇ~。面倒くさい~」とか言ってその後「界斗~、暦に頼まれてやって~」なんて弟の界斗が若干シスコン気味という事に気づいているので押し付けてしまう。
……父としてどうよ!?
「……暦?」
うわ、別の事を考えているってバレた!
煉兄の尋問の途中で、煉兄のお母さんの怜子さん――あたしは怜子さんと呼んでいる――が、あたしの母、百合子が夕飯だから呼んでいると、もはやあたしにとって神様的な存在になる程嬉しい伝言を告げる。ていうか、もはやこの状況で声をかけられる怜子さんは勇者だぁっ!!あたしなら恐くて放置するのに!!絶対!!巻き込まれたくないし!!
まぁ、そのかわりに煉兄と鈴が間が悪いという顔をした。
まだ何かを言うつもりなのかっ!?
帰り際に、煉兄があたしの側に来てわざわざ釘を刺してきた。
「暦、取り敢えず俺と鈴は花井戸じゃなくて俺の通う緑千大学に来て欲しいと考えている事を忘れないで」
――と。