ユィと絵の具
サルモ村という小さな村に一人の女の子が住んでいました。名前はウェン、お父さんとお母さんの言うことを聞く、素直で優しい女の子でした。
ある日、ウェンはいつものようにスケッチブックと絵の具を持って山へ出かけました。お絵かきは少女の一番好きなことでした。
せっせ、せっせ。村で育てている麦畑が見えるところまで上っていくと、ウェンは涼しそうな木陰に座ってスケッチブックを開きました。金色に輝く風景を一心に描き始めます。
一時間もするとウェンは絵に色までつけてしまい、そこから見えるすばらしい景色をスケッチブックに描き上げてしまいました。
時間はちょうどお昼時、ウェンはスケッチブックを閉じて、それから持ってきたサンドイッチの包みを開きました。
もぐもぐ、もぐもぐ。ウェンは一人でハムの入ったサンドイッチをほおばっています。一つ目のサンドイッチを食べ終わって、次のものに手をのばしたそのとき──。
ガサガサ、カサカサと突然近くの茂みが揺れました。驚いてそちらを見ると、出てきたのはシマリスでした。小さくてかわいらしいシマリスでした。しかしそれはただのシマリスはありませんでした。なんとそれは、人の言葉を話したのです。
「かわいいお嬢さん。私はとってもおなかがすいています。どうか、そのサンドイッチをひとついただけないでしょうか?」と尋ねてきました。サンドイッチはあと四つもあり、ウェンはそれほどおなかがすいてませんでした。
なので、「このサンドイッチでよければあげましょう。さあどうぞ」と言って、ハムの入った、ウェンの一番好きなサンドイッチを差し出しました。おなかがすいているのならこれが一番ほしいだろうと、そう思ってのことでした。
「おぉなんて優しいお嬢さんなんだ。ありがとう、ありがとうございます」ウェンはナプキンにハムのサンドイッチをのせてあげて、シマリスはそれを夢中で食べ始めました。あまりの食べっぷりに、ウェンはシマリスが気づかないように、そっともうひとつサンドイッチをおいてあげました。
「あぁ、ずっとすいていたおなかが満たされました。お嬢さん、本当にありがとう。申し送れましたが、私はユィといいます。このお礼は必ずいたしますので」ユィは何度も何度もお礼を言いました。
「どういたしまして。わたしはあんまりおなかすいてなかったし、それに絵を描き終わって家に帰れば食べれるからそんなに何度もお礼を言わなくて大丈夫よ」ウェンは優しく微笑みました。
「絵、ですか? あのぉ、もしよかったら見せていただけませんか?」ユィは好奇心いっぱいの声でそう頼みました。
「えぇどうぞ」自分の絵を見てくれるのはうれしい。ウェンはすぐにスケッチブックを開いて、さっき描いたばかりの黄金の景色を見せました。
「わぁ! なんてすばらしい絵なんでしょう。こんなにすばらしい絵、初めて見ました」ユィは目を丸くして、何度も何度も賞賛しました。
「ありがとう、よかったらあげましょうか?」ウェンはもう何度もこの絵を描いていて、家に何枚も飾ってあるので、何の気なしにそう言いました。
「えっ!! こんなにすばらしい絵を! こんなに輝くものをいただけるのですか? それは是非いただきたい!」ユィは目を輝かせて喜びました。
ウェンは一度うなずいて、その絵をスケッチブックから切り離すと、ユィが運びやすいように二つに折ってあげました。
「なんて優しいお嬢さんなんだ。こんなに心のきれいな人間は初めて見ました」ユィは感謝でいっぱいでした。その瞳からは涙さえ流れています。
「実は私は妖精なのです。なので、何でもお望みを言ってください。ひとつだけ、それをかなえて差し上げましょう」ユィは深くお辞儀をしてそう言いました。
「ほしいもの…… 黄色の絵の具がもうなくなりそうだから、できればそれをお願いします」少し考えてからそうお願いしました、すると──
「なんて無欲なお方なんだ! お金でも、土地でもない! 絵の具をお願いするなんて! いいでしょう、明日またここに来てください、この木の陰に用意しておきます」
そう言うと、ユィはもう一度深いお辞儀をして茂みに去っていきました。ウェンは今さっきの不思議な体験のことを少し考えました。
そして次の日、ウェンは約束通りに昨日の場所へ行きました。黄色の絵の具をもらうために。
「わぁ!」
しかし、そこにあったのは黄色の絵の具だけではありませんでした。赤に青に白に黒、ほかにもさまざまな色の絵の具が置かれていました。そしてその横には小さな手紙がありました。
『お嬢様へ。昨日のサンドイッチとすばらしい絵、本当にありがとうございました。約束通り絵の具を差し上げます。これらの絵の具はどれだけ使ってもなくならない魔法の絵の具です。どうぞこれを使って、またすばらしい絵を描いてください』
早速その絵の具を使ってみることにしました。すると、なんと驚くべきことに、それらの絵の具は本当に量が減りませんでした。そしてそれだけじゃありません。その絵の具は、きらきらと輝いているのです。
光の反射だけではありえないその輝き、それを使って描いた絵もやはりキラキラと輝いています。ウェンは喜びで胸がいっぱいになりました。
ウェンの輝く絵はすぐに有名になり、ついには王様までもがその絵を見に来るようになりました。ウェンは自分の絵を見に来てくれた人にはその絵を上げました。
ウェンのその優しい心が、お金も取らないし威張りもしないその心が手に入れた絵の具。絵の具を上げた妖精のユィはそんなウェンをあたたかい目で見守りました。




