その時、君は何を求めたか。
これは、「白い設計図」というサイトの創作小説です。
俺は何をしてるんだろう…。
ウィルは溜息を吐いた。
特別部隊養成学校の生徒で、尚且つ男子寮の寮生であるウィルは、寮の恒例行事
「クリスマス会」
に参加していた。
そもそもウィルは他人と馴れ合うのが嫌いなのに、こんな子供じみたイベントに付き合わされて、少々頭にきていた。
「ウィ〜ル!湿気た顔してど〜したの!」
「おまけに隣にいるのは馬鹿の子パーカーだし。」
「ん?なんか言った?それよりさぁ、もっと食べようぜ!フライドチキンにホールケーキ…あー、俺って幸せ…。」
ずいぶん安い幸せだ。手羽先を片手にニコニコ笑っているパーカーを横目に、またウィルは溜息を吐いた。
『特別部隊養成学校』とは、今世界中で活躍している警察軍隊・特別部隊の隊員を育てる為の学校である。
ウィルは勿論、パーカーも特別部隊の明日を担う若者なのだ。
だが、この数年で一気に状況は変わった。
『グループ』と名乗る者達が、裏社会を制圧し始めたのだ。
そのやり口は、巧妙にして冷酷。グループの本部がどこにあるかさえ、分からない有様である。
裏社会と言えど、警察軍隊としては捜査の対象。そして、グループの真の目的が未だ不明という点も、特別部隊に焦りを与えていた。
そうなってから、今まで卒業生の3分の1しか隊員になれなかったのが、ほぼ100パーセント入隊という、質より量な状態になっている。
ウィルは、養成学校の中でもトップクラスの成績をもっている。(何故かパーカーも同じくらいの成績なのが、気に入らないところである)
ウィルは調べた。
グループとは何なのか。何が目的なのか。
自分の知りたい、
「あの日の真実」
に関係しているのか。
特別部隊に入りたいのは、
「あの日の真実」
を調べる為でもあった。
「パーカー。」
ウィルは他の生徒達と騒いでいたパーカーの腕を掴むと、食堂から連れ出した。
「なによ〜まだ夜はこれからだってのに…」
「話があるんだが。」
ウィルの目が真剣な事に気付いたパーカーは、やれやれといった風に肩をあげた。
「とりあえず、教官に見つからないようにね。クリスマス会はリタイア禁止なのよ。」
二人は寮の外に出ると、松林を抜けて海岸に向かった。「う〜…寒いねぇやっぱり。」
パーカーはコートの襟元を合わせながら、ウィルの後についてくる。犬のようなその仕草に、ウィルは口角を上げた。
「暑いよりマシだ。」
「…そうだったね。」
ウィルが振り向くと、パーカーは悲しそうに眉を下げていた。
「あの日の事、思い出しちゃうんだよな。暑い日は。」
「…深い意味はない。」
隣に並んだパーカーは、哀れむようにウィルを見た。
夜の海は静か過ぎて、風の音がやけに大きい。沈黙を紡ぐように、波の音が二人の間を流れる。
パーカーが喋らないので、堪らずにウィルが口を開いた。
「…別に、同情されたい訳じゃない。そんな目で見るな。」
「違う。」
強い口調で返され、驚く。
いつもはヘラヘラと緩めている彼の口元が、自分の意思を伝える為に動いている。
その様を、他人事のようにウィルは見ていた。
「じゃあ、なんで俺に教えたんだよ。」
風と波の音。その合間を縫うように、パーカーの声が聞こえてくる。
「お前だってさ、人間なんだよ。弱くったって、不完全だって、お前はお前なんだ。だからさ、強がらないでくれよ。」
パーカーの真剣な目を見たのは、初めてのような気がした。
「意地張って、傷を隠しながら生きてるお前見てると…なんか、悲しい。」
パーカーが泣いているのを見たのは、初めてのような気がする。
「…なんでお前が泣くんだ。」
デカイ図体で泣いている男に、ウィルは苦笑した。
「だって」
「馬鹿のくせに、俺を慰めようとか思うな。」
「ウィル…。」
決めたのだ。
この傷は、一生独りで背負っていくと。
あの日、幼いながらも、自分の歩む道を決めたのだ。
それなのに
「どうしてお前なんかに、話したんだろうな。」
「ひどいよ…。」
「フン、お前はそうやって情けない顔してるのが一番似合うな。」
更に情けない顔になったパーカーを置いて、ウィルは歩き出した。
月光が水面に反射して、きらきらひかっている。
冷たい風が、ウィルの黒い髪をなびかせて去っていく。
友人なんて、ただ見せかけの関係だと思っていた。
だが、悪くないかも知れない。
ウィルの微笑は、後ろをついてくるパーカーに見える事は無かった。