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転校生

雨の音がする。

今日は何日だっけ?

カレンダーに目を向けるも、全然めくっていなかった為に、未だに6月のままだった。

ため息混じりに一気にはがす。

丁度夏休みも終わり、今は9月。

テストを終えた俺は、まだぼーっとする頭を無理やりたたき起こすためにシャワーを浴びることにした。

高校生活2年目を向かえ、丁度折り返し地点であるこの時期…

なんと表現すればいいのだろうか?一言で言うなら「平穏」そのものだ。

友人がよくやるゲームなんかではイベントだのなんだのと忙しいようだが、現実は嫌ってぐらいに現実的なものだ。

男子校に通ってるからこそ、それは尚の事なのかもしれない。

いつものようにチャリにまたがり駅を目指す。

このぐらいの小雨なんかいちいち気にしてられない。

別に傘を持ってはいたが、さしてちゃ自転車の運転に支障をきたすからな。

だったら歩いて行けばいいだろといいたげだろうが、学校の後はバイトに行かなくてはいけないので、そこは触れないでくれ。


俺の名は桜井薫。そう、男なのに薫って名前だ。


家の両親が昔見ていたか何かでハマッたアニメのキャラからつけたらしいのだが、おかげでこっちは窮屈な学校生活を余儀なくされている。

「目つきが悪いのに名前が可愛い」だの「男が好きなんだろ?」だのと…

いい加減に聞き飽きた。

そういった事があるせいか、俺は漫画やアニメなんかは一切見ない、何より…「オタク」と呼ばれる人種が異常に嫌いだ。

雨も駅に着くころには止み始め、学校が見えたころには上がっていた。

地元の駅から乗り継いで約40分。

山の高台に位置する学校。「私立貴凰学園高等学校」

元は女子高だったらしいのだが、今となっては男ばかり。

多少の女子生徒は居るものの、一学年に5人程度しかいない。

ゆえに、俺は共学だなんて感覚は一切ない。


駅を降りて学園へ向かう道で、クラスの奴に声をかけられた。


「おう、サク。なんだぁ?今日も不機嫌オーラ全快だな。そんなんじゃフラグも立たないぞ?」


「サク、おはよう」


「おう」


最初に話しかけてきた奴が松本、後が大西という奴だ。

オタク嫌いの俺が唯一しゃべるオタク人種はこいつ位のもんだ。

確かに、アニメやらには詳しいみたいだが、本人曰く「別に他に面白いと思うものがない」との事。


一方の大西はというと、俺の中学からの同級生。

物静かというか…正直何を考えているのかわからん。

松本とは一年の頃から同じクラスで、一時期バスケ部に入っていたらしいが今は辞めている。

女の子の居ないところで活躍したって意味がない、だそうだ。

俺はこいつのそういった正直…というか、さっぱりしたところは嫌いではない。


「なぁなぁサク!お前のとこのバイト先、誰かいい子いない?」


こういうところがなければ本当にいいと思う。


ここで変に反応などでも見せようものなら、何を言われるかなんて十分にわかるので無視しよう。こいつ自身、本気で言ってるわけではないのだし。





駅から5分ほど行ったところに学園はある。


一学年現在で約220人程度。

現在でというのは、うちの学園は私立校だといっても素行の悪い輩が多いため、自主退学も含めて一年の間に一クラス分の人間がここを去る。


ただ、俺の学年に限っては学園始まって以来の退学者数をたたきだし、今では200人を切りそうなぐらいだ。


そう…俺はあまり学力は無いほうだ、というかむしろ無い。

イジメ、ってわけじゃないが、あまり学校に行ってなかった時期もあり、両親にどうしても高校だけは行けとの事でこの場所を選んだ。


教室に入り自分の席に着く。

20人程度しか居ないクラスだが、皆それなりに仲はいい。

なにより、担任に恵まれているというのもあるだろう。


担任教師の鹿島先生。通称かじTが入ってきた。


「おいお前ら、尻尾は隠しとけよ?後耳栓も」


尻尾というのはフードの事、耳栓ってのはウォークマンのイヤホンだ。

いつも通りの挨拶をすませ、クラスの連中も一応は担任の言うことに大人しく従っている。

カジTの場合だけというのが、何とも言いがたいがね。


「えぇ…お前らが絶対に騒がないと約束するならいい事を教える。ただし、騒ぐようならこの話は無しだ」


水を打ったように静まり返る教室。

おいおい、いくらなんでも素直過ぎるだろお前ら……


とか言いつつも、俺も静かに担任の言葉を待った。

カジTが「いい事」といった場合、ほとんどが俺たちの喜ぶ事が多いのがその原因だ。


なぜそんな権限があるのかは未だに不明だが、授業の進行具合や俺たちのテスト等での平均点が良いと、視聴覚教室で映画を見せてくれたり、この前は遠足にまで連れて行ってくれた。しかも実費で。


大西に聞いたことがあるのだが、この教師…かなりのクセ者らしく、ギャンブルなんかにめっぽう強い。

学校を休んでアイドルの追っかけなんかもやっているとクラスで噂になったりもしたことがあったけかな。

全員、まるで餌を貰う雛鳥のような視線を担任に向けていた。


「入って来なさい」


教室のドアが開き、人が入ってきた。

一同が色めき立とうとした瞬間、カジTが教卓を出席簿で思いっきり叩く。


バン!という音に全員が一応の静寂を得たことを確認し、カジTはその生徒に自己紹介を促した。


「まぁ、お前らの気持ちは痛いほどわかる。が、今はまず大人しくしろ。じゃあ、自己紹介を」


栗色の短めの髪、一目見て可愛いとわかる少女はクラス全員を見渡した後…


「はじめまして、佐々木カオルです。あんたらみたいな下種とは話す気ぃせーへんから話しかけんといて」


な…なんだコイツは?


それが俺とカオルの初めての出会いだった。





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