三度の飯より映画好き!
オレの名はミヤザキトシオ。25才
銀幕スターとまちがえられることもあるが、大手映画会社南宝の3代目社長だ。
親父が仕事に飽きて早々と引退したので今年から会社を引き継いだ。
今日は入社試験の面接官をしている。
2人ほど面接を終えて3人目の履歴書を確認した。
写真はピンクパーカーを着た美少女だ。
子どものような汚い字で読む気が失せる。
アズキモエ。年齢は15才。
驚いたことに小卒とある。
仕事はアルバイトしか経験がない。
飲食店や露店の売り子だ。
志望動機は三度の飯より映画好き!と書いてある。
「なぜ書類審査で落とさなかったんだ?」
先代から仕えている人事部長に問いかける。
「海外暮らしが長く語学が堪能で15ヶ国語をしゃべれるという特技をお持ちです。
映画の買い付け業務を希望しておられるので適性があります」
「ほんとにしゃべれるのか?」
「面接で確認しましょう」
「オレは英語しかできん」
「私は英語のほかに7カ国語が話せます」
「じゅうぶんだ。頼む」
「かしこまりました」
人事部長は受験者を呼び込む。
「つぎのかたどうぞ」
「こんにちはぁ」
入室してきたモエの姿に面食らう。
パーカーだ。バーカーか?
少女はちょこんと椅子に座る。
まだ座っていいと言ってない。
減点100だな。
「なぜスーツを着てない?」
「スーツなんて普段着ないからお金もったいないかなぁって思って」
敬語もまともに使えないとはな。減点10000だ。
「なぜ我が社を希望した?」
「映画が好きで世界にはおもしろい映画がいっぱいあるからそれを日本のみんなにも教えてあげたいの」
「小学校を卒業してからなにをしていた?」
「自分探しで世界を旅してたよ。お金なくなったらお皿洗とかウエイトレスとか露店の売り子とかいろいろしてた」
「15カ国語をしゃべれるということだが確認してもいいか?」
「どんとこい!」
オレは英語で話しかける。
「1番好きな映画はなんですか?」
「太陽がいっぱい!」
人事部長がフランス語でたずねる。
「1番好きな女優はだれですか?」
「マリリン・モンロー!」
スペイン語・イタリア語・ドイツ語・スワリヒ語・アラビア語・ドイツ語・中国語で映画に関する質問を重ねていく。
モエはすべてなめらかに答えて見せた。
「どうだ?」
「完璧です」
「語学力はたいしたもんだ」
「えっへん!採用してくれる?」
「不採用だ」
「なぬーーーっ!」
「スーツを着て出直して来い。目上の者には敬語を使え。
世界には日本人に知られてないおもしろい映画がいっぱいあるというが、おもしろくないからだれも買わないだけだ。つまりきみの映画を観る目はまったくアテにならない。
外国語がしゃべれても映画を観る目がなくては無意味だ。
今は性能のいい翻訳アプリもあるし取引には通訳を同行すればいい。
きみの特技はまったく売りにならない」
モエはガーンとショックを受けてる。
「うにゃぁ〜ざんねんむねんまったらいしゅう・・・」
モエはフードを深くかぶるとがっくりうなだれてトボトボ出ていく。
まあこんな女は観光客相手に飲食店のバイトでもしてるのがお似合いだ。
こらえしょうもなさそうだし雇ってもすぐ辞めるだろう。
放浪癖もありそうだ。
好きな時に世界を旅したいならフリーターが向いてる。
「・・・・逃がした魚か」
人事部長がため息をついた。
なにかつぶやいていたが書類審査を通した自分の無能をなげいているのだろう。
これに懲りたら今後は外国語がしゃべれるというだけで非常識なやからを書類審査に通すようなアホな真似はやめて欲しいもんだ。
面接試験から半年後、東北地方にあるさびれた町の映画館にめちゃくちゃおもしろい映画を上映しているというウワサが流れてきた。
映画館には連日、行列ができているらしい。
映画を見るためにわざわざ遠方から訪れて宿泊する客も増え死んでいた町が一気に息を吹き返したそうだ。
オレは偵察のために乗り込むことにした。
新幹線で現地に向かうと雪化粧をほどこされた町は大勢の観光客でにぎわっていた。
飲食店では上映している映画にちなんだメニューが提供され、みやげ屋では映画に出てくるキャラクターとコラボした商品を売っている。
映画キャラの着ている衣装を貸し出すレンタル衣装店まである。
映画で地域振興に成功している稀有な例だな。
目的の映画館に到着する。
いまにも崩れ落ちそうなボロボロの映画館だ。
レトロな雰囲気が人気なのだろうか。
雪がちらつくなか大行列に並ぶ。
15分後、ようやく中に入る。
温かくてホッとする。中身も古いがきれいに掃除されていた。
丸メガネの受付嬢に万札を出す。
「チケットをくれ」
「3日後のナイトショーなら空いてます」
「なんだと?」
分刻みのスケジュールで生きているオレに3日待てと?
思った以上の人気だな。
うしろから早くしてくれという視線を感じる。
「わかった。それでいい」
オレはチケットを購入して映画館をあとにした。
3日後、雪灯りの夜にふたたび映画館を訪れる。
旅館の予約は取れなかったので映画を観たら即トンボ帰りだ。
クッションの弱い座席で映画の始まりを心待ちにする。
映画館は好きだ。
子どもの頃に返ったようでワクワクする。
とばりが落ちて映画がはじまった。
しばらくしてオレは気づく。
この映画には見覚えがある。
どこの国か覚えてないが映画の買い付けで海外出張した時に観せられたクソ映画だ。
タイトルからして駄作を連想したがあんがい拾い物かも知れぬと思い金ドブ覚悟で観に行ったが金を直接ドブに捨てほうがマシだった。
観客もまったく入らずガラガラで従業員のほうが多かったぐらいだ。
それでもまんがいちオレの目が狂っていてはいけないから映画を見たという現地人にバーで感想を求めたが酷評だった。
タダでも買わないクソ映画だ。
あのクソ映画をもう一度見せられるのか、という落胆はすぐにひっくり返される。
おどろいたことに冒頭からめちゃくちゃおもしろい!
息をつかせぬ展開で1時間が10分に感じられた!
オレが現地で観た映画とぜんぜんちがう!
オレが観たクソ映画はなんだったんだ?
幻か?
上映後は万雷の拍手が巻き起こった。
当然だな。最低でも5回は観たい神映画だ。
パンフレットとキーホルダーを買って映画館を出る。
興奮冷めやらぬまま新幹線に飛び乗り東京に戻った。
帝国ホテルで映画の余韻に浸りながら思い出す。
あの映画は編集されていた。
オレが最初に観た映画のストーリーはこうだ。
子どもの頃、ケンカばかりしていた男の子と女の子が大人になって再会して仲よくなる。
主人公はは貧乏ピアニストでヒロインはお金持ちの令嬢だ。
戦争が2人を別れさせる。
戦地に駆り出されたものの戦場で人を撃てない主人公は脱走して令嬢の住む屋敷に逃げ込む。
病弱な親友のアドバイスで2人は国を捨てて海外に脱出する。
時折、訪れるピアノシーンは眠くなってしょうがないし、いちおうアクションシーンもあるが金がかかってないせいか地味でつまらん。
セリフもぶっきらぼうだ。
「ぼくはきみを愛してる。きみもぼくを愛するべきだ」
「なぜそのようなことをおっしゃるのですか。あなたは私くしの気持ちを全然わかっていません」
などカタコトのような愛の告白にめまいがした。
全編こんな感じだ。心のこもってないセリフをえんえんと聞かされ続ける。
いっぽう昨日観た映画のストーリーはこうだ。
戦場からはじまって主人公は敵兵を倒しまくる。
開始早々ド派手なドンパチで目が離せない。
戦争の英雄となった主人公は町を占領して町一番のお屋敷をゲットする。
ヒロインの恋人である病弱の男からヒロインを寝取る。
病弱な男は復讐をくわだて毒入りワインで主人公を毒殺しようとするが、それに気づいた主人公は病弱な男に毒味を命じて返り討ちにする。
主人公は他国をどんどん侵略して領地を広げる。
侵略を成功させるたびに主人公はヒロインの前でピアノを弾いて祝う。
ヒロインはうっとりと聞き惚れる。
最後は2人の子どもが遊んでるシーンで終わった。
爽快感のある立身出世の感動ドラマだ。
編集版で主人公は人を撃てない善人から魔王のような悪人に変えられている。
女の子もおしとやかな深窓の令嬢だったのに今流行りの悪役令嬢に変更されていた。
セリフひとつでキャラを変えるとは恐れ入る。
告白のシーンなんて棒読みで何の感情も入ってなかったのに編集版ではキャラが生き生きしている。
「今宵の貴様は薔薇のように美しい。オレ様が抱くにふさわしい女だ」
「ふん。あんたのことなんかぜんぜん好きじゃないんだからね!
でも、この世界をわたしにくれるっていうなら抱かれてあげてもいいわ♩」
「貴様が望むものはすべて手に入れよう」
セリフに色がついたようだった。
映画の編集されている点を列挙する。
戦場で味方がばんばん敵兵に撃たれてるシーンを主人公が敵兵をなぎたおしてるシーンに変えてる。
原盤の主人公は優しいので敵兵に一発も当たらないように乱射してる。
さらに親友だった病弱な男とは三角関係になっていた。
病弱な男は最期に好きなワインを一口飲んだあと吐き出して死ぬのだが、編集版では毒入りワインを飲まされて死んだようになってる。
映画の冒頭において遊んでるのは子どもの頃の主人公とヒロインだが、編集版では主人公とヒロインの子供ということにして最後に持ってきてる。
そのシーンのBGMも原盤ではひだまりのように温かくゆるやかなテンポのクラシックだったのに目が覚めるような勇ましい壮大なファンファーレに変えている。
タイトルも『思い出のブランコ』から『嵐を呼ぶ男!』に変更されていた。
まるで魔法のように無味乾燥なクソドラマをドロドロのメロドラマに仕立て上げている。
あの映画を編集して翻訳した天才に会いたい。
ぜひ我が社に迎えねば。
最高の待遇を用意する!
オレはいても立ってもいられなくなり三度、秋田に向かった。
映画館に飛び込み受付嬢に命じる。
「館長を呼べ」
「不在です」
「オレは南宝の社長だ」
名刺を差し出すと受付嬢はしっかりと確認する。
「少々、お待ちください」
受付嬢は奥に引っ込んだ。
緊張して待っていると天才はのれんをくぐりひょっこり姿を現す。
「よっ!おひさ」
おでこ前で二本指を振って現れたのはアズキモエだ。
オレは目ん玉が飛び出るほど驚いた。
「な、な、なぬ〜〜〜!」
腰が抜けそうだったが、かろうじて持ちこたえる。
「きみがこの映画を編集したのか?」
「そうだよ」
「翻訳も?」
「うん」
オレは言葉を失う。
そんなバカな!
いや・・・語学が堪能なら翻訳はお手のものだろう。
モエの履歴書と面接で言っていたことを思い出す。
モエは三度の飯より映画が好きだから「おもしろい映画とはなにか?」がわかっており、つまらない映画を劇的におもしろくすることができたのではないか?
世界をめぐっていろんな人間と触れ合ってきたからこそ観客の心を打つ感動的なセリフを書けたのではないか?
モエにはガラクタを宝石に変える才能があり、よく見ればキラキラ輝いていたのにオレはまったく見抜けなかった。
モエが問いかけてくる。
「映画どうだった?」
「すばらしかった」
「日本にもまだ知られてない名作あるでしょ?」
「オレの目は節穴だった」
「ほかにもいっぱいあるんだよ?でも、この映画が人気すぎてロングラン上映になっちゃったから公開はまだまだ先なの。また観にきてね♩」
「もちろんだ」
オレはぎこちない笑顔を返して映画館をあとにした。
「逃がした魚か・・・」
白いため息をつく。
活気づく商店街を雪に沈んで行くような重い足取りで歩いた。
後日、映画雑誌のインタビューを受けたモエのインタビューを読んだ。
記事によるとオレが面接で落としたあと、モエは失意を抱えて北に向かった。
さびれた町のぼろぼろの映画館で上映されていたレイトショーを1人で鑑賞中に編集と翻訳を変えればおもしろくなりそうだと閃いたらしい。
そして年老いた館長がその日で締める予定だった映画館を10円で買い取り奇跡の復活を遂げさせる。
まるで映画のようなストーリーだ。
モエは映画館で暮らしおりその理由は好きな映画をいつでも観れるから、と答えていた。
さすが三度の飯より映画好きだ。映画愛にあふれている。
その後もモエは編集と翻訳の才能を活かして世界中に眠っている駄作を傑作に生まれ変わらせて大ヒットさせた。
さびれた町はどんどん元気になりモエは救世主として住民に崇められている。
ぼろぼろの映画館はレトロな雰囲気はそのままに改修したそうだ。
映画は独占配給なのでモエの編集・翻訳した映画を観るためには現地まで行くしかない。
「ここでしか見られない」というプレミアム感を出し、サービスのイメージを高めてブランド価値を向上させる。オレより商売上手じゃないか。
人事部長に問いかける。
「モエの才能に気づいていたのか?」
「確信はありませんでしたが、かわいらしい字で趣味にポエムと書いてありましたし、個性的なファッションなのでクリエイティブな才能をお持ちかもしれないと強く感じました」
趣味のポエムなんて完全に見落としていた。
目には入ったかもしれないが無意味な情報だとゴミ処理した。
「なぜ引き止めなかった?」
「先代からトシオ様には必要最低限の助言だけでいい。
あいつは一度、痛い目にあって謙虚さを学ぶべきだと言われております」
オレは苦笑する。
「しっかり学んだよ。今度モエに会いに行く時はバラの花束でも持っていくかな」
「モエ様は現在、世界中の映画関係者から求婚を受けているそうですよ。
モエ様は多忙の合間を縫ってひとりひとり気さくにお見合いしているとか。
今度はトシオ様が見定められる番ですな」
モエには嵐のようなモテ期が到来しているようだ。
オレはモエの好みのタイプを調査するよう人事部長に命じた。
そっちに寄せなければ。
オレとモエの波瀾万丈な恋物語はまた別の話である。
では、さらばだ。
韓国ドラマが日本で大ヒットしたのは翻訳のおかげで韓国版よりはるかにおもしろくなってる!というウワサを聞いたことがあります。
韓国版では味気ないセリフをキャンディのように甘くしているとか。
あと「ララランド」と「アメリカン・ビューティ」は試写会であまりにも評判が悪かったため編集してぜんぜん違う名作に蘇らせたと聞きます。
モエは「映画大好きポンポさん」を少しイメージしました。
いやぁ、映画って本当にいいもんですね♩




