黒炎の谷
適当に思い付いた話です
谷に立つ黒炎の巨躯は、静かに眼下を見下ろしていた。
棍棒を握りしめた緑色の小柄な人型の化物――ゴブリン――が跳ね回り、四足の鋼皮の魔獣が尾を振る。
少年の声がかすかに響くが、ドラゴンの耳には雑音に過ぎない。
「小さいな……だが、鬱陶しい」
鱗は硬く、炎の一振りで谷は熱波に包まれる。小さな棍棒も尾撃もほとんど傷にならない。
だが、力で押し潰すのは簡単すぎて退屈だ。プライドの高い戦士として、無意味な殺戮は避ける――少しだけ挑発されるから動く、気まぐれな遊び相手として。
少年は目を見開き、従魔たちに指示を出す。
足元の岩を蹴り、倒木を盾にする――小さな者たちの必死の工夫だ。
ゴブリンの小さな突進、魔獣の尾撃、飛んでくる小石や灰――
それらは全てドラゴンの眼には、軽くあしらえる雑音にすぎない。
だが、少しだけ気になった。
小さな挑戦者の勇気が、稚拙ながらも形になっているのが見える。
「……面白いかもしれぬ」
黒炎の翼が谷を覆い、尾が岩を叩く。
炎の熱波は迫るが、少年や従魔たちに直接的な致命傷を与えるつもりはない。
彼らの恐怖、迷い、そして必死の工夫――
そのすべてを、ドラゴンは鬱陶しいと思いながらも、少しだけ楽しんでいる。
やがて、黒炎の影は静かに谷を離れる。
少年と従魔たちは勝利したわけではない。
だが、彼らの勇気と工夫が、ドラゴンの気を少しだけ引き、戦う価値のある存在として認めさせた。
谷に再び静寂が訪れる。
小さな者たちの挑戦は、まだ始まったばかり――
しかし、黒炎のドラゴンにとっては、ほんの小さな、鬱陶しい戯れに過ぎなかった。
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