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黒炎の谷

作者: 火川蓮
掲載日:2026/06/15

適当に思い付いた話です

谷に立つ黒炎の巨躯は、静かに眼下を見下ろしていた。

棍棒を握りしめた緑色の小柄な人型の化物――ゴブリン――が跳ね回り、四足の鋼皮の魔獣が尾を振る。

少年の声がかすかに響くが、ドラゴンの耳には雑音に過ぎない。


「小さいな……だが、鬱陶しい」


鱗は硬く、炎の一振りで谷は熱波に包まれる。小さな棍棒も尾撃もほとんど傷にならない。

だが、力で押し潰すのは簡単すぎて退屈だ。プライドの高い戦士として、無意味な殺戮は避ける――少しだけ挑発されるから動く、気まぐれな遊び相手として。


少年は目を見開き、従魔たちに指示を出す。

足元の岩を蹴り、倒木を盾にする――小さな者たちの必死の工夫だ。


ゴブリンの小さな突進、魔獣の尾撃、飛んでくる小石や灰――

それらは全てドラゴンの眼には、軽くあしらえる雑音にすぎない。


だが、少しだけ気になった。

小さな挑戦者の勇気が、稚拙ながらも形になっているのが見える。


「……面白いかもしれぬ」


黒炎の翼が谷を覆い、尾が岩を叩く。

炎の熱波は迫るが、少年や従魔たちに直接的な致命傷を与えるつもりはない。


彼らの恐怖、迷い、そして必死の工夫――

そのすべてを、ドラゴンは鬱陶しいと思いながらも、少しだけ楽しんでいる。


やがて、黒炎の影は静かに谷を離れる。

少年と従魔たちは勝利したわけではない。

だが、彼らの勇気と工夫が、ドラゴンの気を少しだけ引き、戦う価値のある存在として認めさせた。


谷に再び静寂が訪れる。

小さな者たちの挑戦は、まだ始まったばかり――

しかし、黒炎のドラゴンにとっては、ほんの小さな、鬱陶しい戯れに過ぎなかった。

読んでくれた方ありがとうございます

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