表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
底無しポーターは端倪すべからざる  作者: さいわ りゅう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

85/91

〈別視点〉 ベルハイトと心情の行方

 ルカさんが[空間転移(トランステラ)]でグラスダールへと跳んだあと。

 城内の客室に案内された俺は、ソファーに沈み込んでぼんやりと考え事をしていた。

 

 友達……。


 つい先ほど明らかになった現状。

 おそらくラマンドラ神殿で別行動となっていたあの時間に、なにかしらがあったのだろう。ルカさんもソニアさんもそれについては何も言わないので、こちらから詮索などする気はない。しかしその()()に、妙に心がざわついている。


 友達かぁ……。

 

 ルカさんにとって良い事だと、本心からそう思う。なのにこんなにモヤモヤしてしまうのは、俺が大変身勝手だからだ。


 何度目かの溜め息をついた時、斜め向かいの一人掛けソファーから、くつくつと笑う声が聞こえた。


「若いねぇ。おじさんにも、そんな時期があったよ」


 肘掛けに肘をつき、その手に顎をのせるという大変リラックスした(てい)で、ローガンはこちらを見ていた。


「……なんでここにいるんですか?」


 それぞれ別の客室が用意されているのに、何故この人はここにいるのか。

 効果がないことは分かっているが、せめてもの抗議として、じとりと()めつけた。


「なんでって……。ベルくんが悩める若者の顔してるから?」


「…………」


 また顔に出てたのか。もういっそ仮面でも被ろうかと半ば本気で考えたが、


「ていうか、態度に出てるよね」


「…………」


 どうやら顔を隠したところで意味は無いらしい。


 ローガンさんは、まるで不貞腐れた子供に語りかけるように俺をじっと見た。


「自分より、ソニアちゃんのほうがお嬢ちゃんと仲良くなった気がして、寂しいんでしょ?」

 

 違う、というわけではない。しかしそんなかわいらしい表現は適切ではなかった。 


「それとも妬いている?」


 さらに重ねられた言葉が、俺の心情を適切に表していて、


「…………分かってるなら、わざわざ言わないでください……」


 そう返すしかなかった。


「あら正直」


 ローガンさんはわざとらしく目を(みは)ってから、フッと眉を下げて笑った。


「もういっそ、お嬢ちゃんの前でも正直に言っちゃえばいいのに」


「…………それは……」


 できない。できるわけがない。


 俺とルカさんの関係は、友人や仲間と言えるようなそれではない。言ってしまえば、ただの同行者。そんな俺が、自分よりも彼女と親しい人間に嫉妬などするほうがおかしいのだ。

 “友達”という明確で親しい関係を示す名称。それを羨ましいと思う一方で、それよりもっと近しい関係を欲している。


 俺は小さく息をついてから顔を上げた。


「俺の話はもういいです。……これが本題じゃないんでしょう?」


 そう促したのが正解だったらしく、


「お嬢ちゃんといい、君といい、最近の子は聡いねぇ」


 ローガンさんは溜め息混じりに肩をすくめた。


 いくら人をからかうのが面白いからと言って、いろいろあって疲労も溜まっているこの時に、わざわざ訪ねてくるとは思えない。

 それに、ローガンさんがラマンドラ神殿で見せたあの顔。驚きはしたものの、妙に納得もした。この人はただの気安いおじさんではない。


「なにか大事な話ですか?」


「うん、まあ……。でもそんな大層な話じゃないんだけど……」


「?」


 この人にしては珍しく、歯切れの悪い話し出し。両膝にそれぞれ肘をついて、前に組んだ両手を意味もなく弄んでいる。


「……大丈夫ですか?」


 思わずそう尋ねてしまうほど、今のローガンさんは()()()ない。


「あー、うん。…改めて話そうとすると変に緊張するねぇ。お嬢ちゃんに話した時は、もうこれきりだと思ってたから、気にならなかったけど」

 

「それって、街で衛兵に捕まった時ですか?」


「うん。と言っても、詳しいことは何も話してないんだけど……」


 そう前置きしてローガンさんの口から語られたのは、前置きのとおり、とてもざっくりとした話だった。

 “良い人”を表で装いながら、裏では限りなく黒に近い非情な手段も厭わず生きてきたこと。そしてその過去の精算がしたいということ。

 

「結局お嬢ちゃんはおじさんを牢から連れ出したけど、今後も一緒に行動する以上、ベルくんにも話しとかないとなぁ、って思って」


 へらりと笑ってはいるものの、まるで暗闇に取り残されたかのようなその様子は、以前ルカさんにロズ家の話をした時の俺と重なって見えた。


 知られたくないことを自分の口から話す時、そこにどれほどの覚悟が必要か。今はまだ詳細を話せないローガンさんもまた、同じく心を決める時がくるかもしれない。

 今日告げた話が、そのために必要な第一歩だとしたら、俺も彼が辿り着く結論を知りたいと思った。


「……分かりました。貴方がそうしたいなら、そうするべきだと思います」


「え……。いいの?」


 ぽかんとしているローガンさんに、俺は思っていることをそのまま告げる。


「貴方は“良い人”を装っているって言いましたけど、わざわざ国を越えてまでユリウス殿下を探しに来た貴方が、ただの“悪い人”だとも思えない。……それだけです」


「……おじさん、ほんとについてくよ?」


「ルカさんがいいなら、俺が反対する理由はありません」

 

 そう答えると、なぜかローガンは立ち上がった。そして、


「ベルくん大好き!!」


「ぎゃあ?!!」


 何を思ったのか、ローテーブルを無視して飛びついてきた。

 突然の強襲を避けるができず、大の大人が二人してソファーに倒れ込んだ。


「いてて……。ごめん、調子乗った……」


「早く退()いてください……。ていうか、これルカさんにはやってませんよね?」


「そんなことしたら、おじさんの歯、全部なくなっちゃうよ」


 言いながらローガンが退()こうとした直前、


「失礼いたします!どうされました?!すごい声、が……?」


 俺の悲鳴を聞きつけたソニアさんが、何事かと部屋に飛び込んできた。彼女の目には、ローガンさんが俺に馬乗りになっているように見えただろう。


「し、失礼いたしましたーーーっ!!」


「ま、待ってソニアさん!!」


「ソニアちゃん!?誤解だからっ!!」


 パニックになりながら走り去るソニアを二人して追いかけ、衛兵から厳重注意を受けたのは言うまでもない。






 なんとかソニアの誤解を解き、彼女の本来の目的であったお茶をいただいて、ようやく一息つくことができた。

 話題は再び、ルカさんとソニアさんが友達になった件について。


「私は私として、精一杯頑張れば良いのだと分かりました。なのでこれからも誠心誠意、王家とユリウス様にお仕えしていく所存です!」


 詳しいことは分からないが、ソニアさんが決意を新たにするきっかけを、ルカさんが作ったのだろう。

 そこから友達になったのは会話の流れだったのか、はっきりと語られることはなかったが、ソニアさんは嬉しそうにこう締めくくった。


「そしていつか、ルカ様みたいな方と結婚します!」


「っ?!」


 俺は思わず取り落としかけたティーカップを、慎重にソーサーに置いた。


「なん、え、けっこん??」


 自分でも引くくらい動揺しながら問い返すと、ソニアはハッとしたようにブンブンと手を振り、


「あっ、違いますよベルハイト様!あくまで、ルカ様()()()()方、です!ルカ様自身は大切なお友達ですから!」


 みたいな、の部分をやたら強調して言い直した。


「ああ、うん……?」


 どうやらソニアさんの理想の結婚相手像が“ルカさんのような人”になったらしい。俺としては正直、ソニアさんの気持ちが分かりすぎるくらいよく分かるが、突然の激白に生返事しか返せなかった。


 この(かん)、腹を抱えて震えながらソファーに突っ伏していたローガンさんがしばらくしてようやく起き上がり、涙目のまま息をついた。


「お嬢ちゃんて、あれで結構な人たらしだよね」


 分かる。

 ルカさん本人は周囲と浅く付き合っているつもりのようだが、メルビア内だけでも、彼女を気に入っている人が結構いることを俺は知っている。


「でもそうなると、一人で行かせたのはマズかったかも」


 ローガンさんはふいに真剣な表情になった。


「きっとまた、たらし込んでくるよ。一人か二人は絶対に」


「…………」


 いやいやいや、ないないない。

 だってあの人、そもそも団体行動苦手だし、他人とは必要な関わりしか持たないし。今回は王女殿下と研究院の教授に会うだけだし。

 ……あれ?そういえば研究院のサムナー教授って、どんな人なんだろう。実家にいた頃に名前だけは聞いた記憶があるが、年齢などは知らない。研究院は実績主義だから教授といっても若い可能性は充分ある。


 ……いや、それよりも。


「それに王都には、お嬢ちゃんをナンパした少年もいるし」


 そうそれ。


 ローガンさんの呟きに、心の中で相槌をうった。

 

 ルカさん本人がナンパだと思ってないし、気にもしてないから忘れていたが、ナンパのほうは問題だ。それに他にもそういう奴が現れないとも限らない。

 

「おじさん今、ベルくんが考えてることが手に取るように分かるよ」


「私もです、ローガン様」


 俺が悶々と長考している間にローガンさんとソニアさんが何か話していたが、俺はそれどころではなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ