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底無しポーターは端倪すべからざる  作者: さいわ りゅう


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〈別視点〉 ローガンと敵対者

ep.82 〈別視点〉 ローガンと黒幕

 お嬢ちゃんとソニアとはぐれて小一時間ほど経った頃。道なりに進んだ先にあったのは、開けた空間に、高さが四メートルはある重厚な両開きの扉だった。


 神殿の入り口と同じく、僅かに開いている扉。誰かがいる証か、それとも去った後か。どちらにせよ自分達が望む人物であれば問題ない。だが、


「っ!ベルハイト!!」


「!!」


 殺気にも近いその気配に、叫ぶと同時にユリウスを抱え上げその場を離脱、同様にベルハイトも後退した次の瞬間。


 俺達が立っていた場所を、黒い影の渦が唸りを上げて床石を抉った。それをしっかり確認する間もなく、目の前の扉が音を立てて開く。


「――招いた覚えのない客だな」


 その奥からこちらへと歩きながらそう言ったのは、外套を羽織った見覚えのない男。しかしその顔が見えた瞬間、ユリウスが俺の後ろから飛び出しそうになったのを、慌てて押さえた。


「お前…っ、首飾りを持ってきた冒険者の…!!」


「覚えていていただけたとは、光栄だ」


 睨みつけるユリウスを意にも介さず、男はわざとらしく言った。


 この男が諸悪の根源か、それとも宰相から悪事を持ちかけた手駒か。

 

 俺は槍に手をかけたまま、男の背後に視線をやる。

 扉の先には開けた空間があり、奥には篝火に照らされた大きな石壇のようなものが見えた。その前にはさらに三つの人影が立っていたが、その一つがこちらへ近づいてきた。


「おい、何をして……。な……っ!なぜ第二王子がここにいる?!」


 贅肉のついた身体を揺らしながら足を止めたのは、バライザ王国の宰相だった。ユリウスの姿を見留め、卒倒しそうなほど驚いている。


 ルカ達から聞いていた話を疑っていたわけではないが、これで宰相が敵であることが確定した。

 長年、トラヴァスに重用されてきた身でありながら、最悪な形で恩を仇で返すとは。


 沸々と込み上げる怒りを押し込める。宰相はともかく、この素性の分からない男の前で、不用意に動くわけにはいかなかった。


 男は騒ぎ立てる宰相を後目(しりめ)に、呆れたように首を振る。


「第二王子の始末を任せた者達は戻っていないんだろう?報告も無いのなら、何者かに返り討ちにされたのだろう」


 言いながら、どこか楽しそうに俺とベルハイトを見やった。俺達のどちらか、あるいは両方が追っ手を始末したと思っているようだ。

 

「そんな奴もいたっけね。顔も覚えてないけど」


 俺は、さも自分が相手をしたかのように言った。


 ユリウスにかかっていた追っ手は、ルカが捕らえて[無限保存庫(ストレージ)]に入れたままだと聞いているが、わざわざ教える必要はない。この件に関わり、ここへ来ているのが俺達だけだと思っているのなら、そのほうが都合がいい。


 男は俺を一瞥し、


「お前は確か、国王の既知の者だな。わざわざ戻ってくるとは、命が惜しくないと見える」


 それからベルハイトに視線を移した。


「そちらの男は初めて見る顔だな。……どこかで雇った冒険者か、王女の近衛の一人でも借りてきたか?」


「…………」


 俺達が何も答えないからか、男はつらつらと喋り続ける。


「お探しの二人はあそこにいるが、今は取り込み中でね」


 男は顎で石壇のほうを示した。残りの人影は、トラヴァスとマティアスだということか。


「父上!!兄上!!」


 ユリウスが叫ぶように呼ぶ。声が届かない距離ではないはずだが、二人は石壇のほうを向いたまま微動だにしなかった。

 

「邪魔をされてはかなわん!そいつらを始末しておけ!」


 宰相はそう言い捨て、バタバタと石壇のほうへ戻っていく。男はそれを横目で見送り、呆れたように嘆息した。


「まったく……。自分はさして動きもしないというのに、人使いの荒い男だ」


 言いながら翳した手に呼応するように、男のすぐそばの床に魔法陣を浮かび上がる。


「私も()()が開放される瞬間に立ち会いたいのでね。せっかく出向いてくれたところを申し訳ないが、早めに終わらせよう」


 魔法陣が妖しく光る。そこから湧き出た影のような黒い物体が、まるで生き物のように蠢きながら形を成していく。


 おおまかに言えば人間の体躯。だがそれは、黒い鎧に全身を包み、二メートル以上の背丈と、その身の丈ほどの大剣を携えていた。


「相手をしてやれ」


 男がそう言うと、黒の鎧は大剣を軽々と肩に担ぎながら、ベルハイトのほうへ歩を進めた。


 ベルハイトが長剣を構え直す。

 相手の力量が不明なため、できれば加勢したいところだが、男がこちらに向き直った。


「お前の相手は私がしてやろう」


 やはりそうはさせてくれないようだ。


 俺も槍を構え、片手でユリウスに下がるよう促した。


 ベルハイトの剣の腕は、はっきり言ってCランクのそれではない。Bランクか、場合によってはAランクの魔物でも相手にできるだろう。

 それがなぜCランクに留まっているのか。ただ単に昇格試験を受けていないだけか、あるいは本人にその認識が無く、実力が出し切れていないか。

 なんとなくだが、ベルハイトの普段の言動から後者であるような気がした。


「考え事とは余裕だな!」


 思考を遮るように打ち込まれた剣を槍の柄で受けながら、


「うっさいなぁ。若者を見守るのも、おじさんの務めでしょーよ!」


 弾き返した勢いのまま柄で横っ面を狙うが、躱される。


 受けては弾き、躱しては追撃。


 お互いにそれを繰り返すものの、どちらも有効打にはならない。


 宰相達がトラヴァスとマティアスに何をさせているのか、“あれ”とは何か。何も分からないが、石壇から漏れ出る気配は、放っておいてはならないことだけは分かっている。


 早くこいつを片付けて、トラヴァス達のところに……!


 そうは思うものの、男の動きはそこらの冒険者の比ではない。


「ふん……。王の友人はなかなかやるようだな」


「お褒めに預かり光栄だね。でもあんた邪魔だから――」


 槍を引き、床を踏みしめる。


「どいてくんない?」


 男の腹をめがけて突き出した槍が、衣と皮膚一枚を裂いて血を纏った。


 浅いか……!


 そのまま槍を横へ振り抜くも、わずかな動作で躱されてしまった。


「ふむ……。一撃目も躱したつもりだったのだが、掠めたか。少し鈍っているようだ」


 腹の傷をちらりと見ながら、男はさほど気にする様子もなく独り言ちた。


 ちらとベルハイトのほうを窺い見るが、押されてはいないものの容易に決着がつきそうにもない。


 こうなったらユリウスだけでもトラヴァス達のもとへ走らせるべきか。しかし宰相が武器も持たないとはいえ、ユリウスを無防備にして何かあっては……。

 

 そう考えていた、その時。


 ドォオオオオオンッ!!!


 だだっ広い空間を震わせる衝撃。それによって壁の一部に空いたのは、そこそこ大きな穴。カラカラと石片が転がる音が妙に大きく響き、大量の土煙が無風の空間に漂った。


「な、なんだ?!なにが起こった?!」


 腰を抜かしたのか、宰相が地べたに転がった状態でおろおろしているが、誰もそれを気に留めない。

 相変わらずトラヴァスとマティアスは微動だにしないが、他の全員の意識がその穴に向けられていた。


 そして。


「――あ。いた」


 土煙の中から涼しい顔で現れたのは、紺の髪に金の瞳の規格外運び屋(ポーター)だった。

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