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底無しポーターは端倪すべからざる  作者: さいわ りゅう


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〈別視点〉 ティモンの無知な錯誤

 ルカを追って王都グラスダールを出た俺とベロニカは、結局、ルカに追いつくことがないままメルビアに戻ってきてしまった。


 どういうことだ?あいつも馬車で帰ったのか?


 仕方がないので運送ギルドに行こうかと思ったが、あそこに行けば、あのヘディとかいうギルド長が、また補償金のことをうるさく言うだろう。


「ねぇ、ティモン。これからどうするの?まさか、すぐ仕事とか言わないよね?」


 隣でベロニカが何か言っているが、構っている暇はない。

 どうしようかと考えあぐねていると、


「――おい、ティモン!」


「?」


 ふいに呼び止められて振り返ると、そこにいたのはゲイルだった。そういえば、こいつのことをすっかり忘れていた。


「なんだ、ゲイルか。何か用か?」


 大方、俺に置いていかれて困っていたんだろう。素直に謝るなら許してやらないことも……、

 

「ギルド長にお前を探してこいって言われたんだよ。冒険者ギルドに客が来てるぜ」


 他に用件は無いと言わんばかりのゲイルの口ぶりに、少しムッとする。


「客?誰だ?」


「そこまでは聞いてねえよ。なんか急ぎの用件っぽかったぜ?」


 興味無さそうに肩を竦めるゲイル。客とは一体、誰なのか。

 

 もしかしてルカか?……きっとそうだ!やっと俺に謝る気になって、冒険者ギルドを訪ねたに違いない!


「なんかおもしろそうだし、あたしもついて行こーっと」


 ベロニカが後ろで勝手なことを言っていたが、俺はウキウキしながら冒険者ギルドへ向かった。






 冒険者ギルドへ行くと、応接室にはギルド長のヴィクトルと、何故かエカード家別邸の執事がいた。どうやら客とは、ルカではなくこいつのことらしい。来るんじゃなかった。


「なせお前がここにいる?」


 俺が問うと、執事は妙に重苦しい表情で口を開いた。


「ティモン様にお伺いしたいことがあって参りました。……先日別宅へいらっしゃった時、カサンドラ様の私室へお入りになりましたか?」


 わざわざそんなことを確認しに来たのか?


「だったら何だと言うんだ。どこで何をしようと、俺の勝手だろう」


 あの(やしき)はエカード家の別宅で、俺はエカード家の人間だ。とやかく言われる筋合いはない。


 しかし執事は引き下がらず、


「失礼を承知でお尋ねしますが、何か持ち出してはおりませんか?」


 一瞬、ぎくりとして押し黙る。こいつが言っているのはあの指輪のことだと分かったからだ。

 執事は俺の反応に目ざとく気づき、


「持ち出したのですね?!」


「…………」


 俺は適当に誤魔化そうと思ったが、面倒になって()めた。


「指輪一つで騒ぎ立てるな。母上の宝飾品は山ほどあるんだ。その中でも一際(ひときわ)地味なものをだったし、机の中にしまい込んでいたくらいだ。母上だって、飽きて放置していたんだろう」


「その指輪は今どこにあるのですか!」


「とっくに換金したに決まっているだろう。あんな地味な指輪、金にでも換えないと、なんの役にも立たないからな」


「な、なんてことを……」


 執事は真っ青になって、その場に崩れ落ちた。

 

「たかが指輪一つで大袈裟な…」


 それに母上は離縁されたのだから、バレる心配はないじゃないか。なにをそんなに(こだわ)る必要があるのか。


 執事はブルブルと震えながら、その理由を叫んだ。


「ただの指輪ではありません!!あれは…、あの指輪はエカード家の、エカード家の紋章が入っているのですよ?!」


「……は?」


 俺は間の抜けた声を出すだけで、反応したのはヴィクトルだった。


「そりゃ本当か?」


「はい……。カサンドラ様が伯爵夫人としての公務を行われる際にお使いになっていたものです……」


 ヴィクトルは険しい顔で俺を見た。


「ティモン。どこで指輪を換金した?」


「え?え、と……。どこというか……」


 俺の歯切れの悪さに、ヴィクトルの顔がさらに険しくなる。


「……まさか…。質屋じゃなく、その辺の素性も知れないような相手に渡したのか?」


「…………っ」


 俺は返事をしなかった。いや、できなかった。


 最初は手近な質屋に指輪を持ち込んだのだが、宝石もついていないうえ、デザインも流行のものでなければ、材質も金などではないそれを高く買い取ってはもらえなかった。

 その様子を偶然見ていた見知らぬ女が、言い値で買い取ると言ってきたので、売り渡したのだ。


 ヴィクトルは深く溜め息をつく。


「まずいな……」


「と、とにかく、この事を旦那様にお伝えしなければ……!」


 執事がそんなことを言うので俺は慌てた。


「ち、父上に言うのか?!」


「当たり前だろ。エカード家の紋章が、どこの誰とも知れない人間の手に渡ったんだぞ。宝飾品としての価値がないのに高値で買い取るなんざ、十中八九、指輪(それ)が何か分かってるからだ」


 ヴィクトルの言葉に、サッと血の気が引いた。

 もしかしたら俺は、とんでもないことをしてしまったのかもしれない。 


「ま、待て!待ってくれ!」


 俺は応接室を出ようとする執事を制止した。


「俺が持ち出したのではなく、何か他の……。……そうだ!賊が入って盗まれたことにすればいい!俺は関係ない!」


 名案だ!これなら、俺にお咎めは無い。

 本気でそう思ったのに、なぜかヴィクトルは俺の胸ぐらを乱暴に掴み上げた。


「この期に及んで、自分の心配か?下手すりゃ、エカード家は責任を追及されて、取り潰しだってあり得るんだぞ!!」


「っ!!…だ、だって……」


 あまりの剣幕に、俺は思わず弱々しい声を絞り出した。


「だって父上に知られたら、怒られる……っ」


「怒られるだあ?そんな心配しなくていい」


 え……?どういうことだ?


「紋章の私的流用は重罪だ。親父さんの意思に関係なく、お前は貴族籍を剥奪されて身柄を拘束される。怒られるなんてもんじゃ済まねえ」


「は…………?」


 貴族籍を剥奪。それは貴族ではなくなり、平民になるということで……。


「い、嫌だ!!」


 この俺が平民?そんなのあり得ない!俺はエカード家の人間だぞ!!


 俺の訴えなど無視し、ヴィクトルは手を離すと執事に声をかけた。


「罪状が固まるまで、こいつの身柄はここの留置所で預かる。伯爵には、できることがあれば力になると伝えてくれ」


「ありがとうございます……」


 なんで、なんでこんなことになった?俺はただ、資金が欲しくて……。そうだ、家にあったものを売っただけじゃないか。


 なんとか誤解を解かなくてはと、俺はヴィクトルに訴える。


「そんな大事なものだなんて、知らなかったんだ!母上の部屋にあったから、てっきりただの指輪だと……。確かに鍵はかけてあったが、母上がそんな大事なものを持ってるなんて思わなくて……」


 母上が鍵を隠す場所なんて、息子の俺ならすぐ分かる。だからちょっと、金になりそうなものを貰おうと思っただけなのに。


「お前の母親の噂は聞いてるが、曲がりなりにも伯爵夫人だ。伯爵の妻としての仕事だって当然ある。それにたとえ母親といえど、人のものを勝手に持ち出していいわけがねぇだろ。しかも売り捌くなんざ、言語道断だ」


 ヴィクトルにぴしゃりと言われ、俺は言葉を探して口をパクパクと動かすだけだった。

 するとベロニカは、


「えーと……。あたしは関係ないし、帰ってもいいよね?」


「待てベロニカ!お前だって、指輪を売った金でいろいろ買っただろ!お前も同罪だ!!」


 自分だけ逃げるなんて、とんだ薄情者だ!


「はあ?!何言ってんの?!その指輪を盗んだのも売ったのも、全部あんたが一人で勝手にやったことじゃん!」


「そ、それはそうだが……」


「あたしは何も知らなかったし!買い物だって、あたしはちょっとねだっただけじゃん!」


 確かにベロニカには金の出処は話していないが、こいつは好き勝手買い物をして、俺だけ留置所行き……しかも貴族籍を剥奪だなんて、そんなの不公平だ。


「でも、お前だけズルいぞ!」


「はあ〜?!ズルいとかじゃなくない?!マジ、あんたバカじゃん!!」


「なっ!なんだと?!」


「いい加減しろ!!」


 睨み合う俺とベロニカを、ヴィクトルの怒声が制した。仕方なく黙り込んだ俺達を見て、ヴィクトルが溜め息をつく。


「ベロニカ。お前は事情聴取を受けろ。衛兵が来るまでは自宅待機だ。絶対に逃げるなよ?」


「え〜、めんどくさ……。ま、留置所よりはマシかぁ」


 ベロニカは悪態をつきながらも、俺の方を見て嫌味ったらしく言った。


「じゃ、じゃあ俺も自宅待機でいいだろ?」


「お前、話聞いてたか?……指輪を持ち出して売っ払ったのはお前だと確定してるんだ。帰すわけないだろ」


「それならベロニカも……!」


「自分で認めただろ。全部一人でやったことだって」


 そんなこと……!……言ったかもしれない……。


「とにかくお前の身柄は拘束する。これは決定事項だ」


 俺は慌てて出口を振り返ったが、そこにはいつの間にか屈強な男が二人立っていた。


 逃げられない。逃がしてくれない。


 俺はへたりとその場に座り込んでしまった。

 そんな俺を後目(しりめ)に、ベロニカはそそくさと応接室を出ていく。


「あ〜あ。早く新しい男探そ〜っと。今度は頭もいい人にしなくちゃ」


 なんて薄情な女なんだ。

 そう思えど、言い返す余裕なんて、俺には残っていなかった。

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