表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
底無しポーターは端倪すべからざる  作者: さいわ りゅう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/33

第五話 正体不明

 ベルハイトの救助から一夜が明け、僕は再びタストラ魔窟(ダンジョン)に来ていた。冒険者ギルドへ行く前に、確認しておきたい事があったからだ。


 魔素が薄くなってる…。


 薄いと言っても、昨日と比べて、だ。魔窟(ダンジョン)なので、外とは段違いに濃いことに変わりはない。それでも昨晩と比較すれば、かなり濃度が薄くなっているのが分かる。


 深層まで降りてみるが、昨日のような異変は特に見受けられない。降りてくる途中、ゴニアスネークがグランドベアを丸呑みしているのは見かけたが、あれが普通だ。

 昨晩討伐した、グランドベアの亜種と思しき魔物。あれもあの個体のみだったのか、他にはいないようだ。あの魔物が息絶える直前に吐き出した、小さな魔石のようなもの。あれは高濃度の魔素と関係あるのか、それとも――。

 気にはなるが、あとはユトスの冒険者ギルドに調査を任せるべきだろう。



 

 その後、僕はタストラ魔窟(ダンジョン)のことを報告するため、冒険者ギルドを訪れていた。

 応接室に通されて待っていると、すぐにギルド長が来た。来たのだが……。


 え。誰。


 その後に続いて、がっしりとした体躯の男性が入って来た。


「お待たせしてすみません。改めまして、私はこの冒険者ギルド・ユトス支部のギルド長を務めています、ヨハンと申します」


「俺はダイアー。冒険者パーティー[蒼天の鐘]のリーダーだ」


 [蒼天の鐘]。昨日、ギルド長ヨハンが、ベルハイトの救助を任せると言っていたSランクパーティーだ。

 

「まずは、ベルハイト君を救助してくださったこと、感謝いたします。本当にありがとうございました」


「俺からも。仲間を助けてくれたことに感謝する。ありがとう」


 改まって礼を言われると、正直身の置き場に困る。

 

「……いえ、やれることをやっただけ、なので…」


 こういう空気は苦手だ。なんと返したらいいのか分からないし、実際やれると思ったからやっただけで……。だから早く頭を上げてほしい。

 そして先程から気になっていたのだが、僕は何故こんなにあっさりと、ここに通されたのか。

 ギルドの受付で「昨日、タストラ魔窟(ダンジョン)で…」まで言ったところで、ギルド職員が「あっ!あーー!こちらへどうぞっ!」と何故かきゃあきゃあ言いながら、応接室に通してくれた。

 おそらくベルハイトから、僕の存在は伝わっているのだろうが、正直ちょっと確認作業が甘すぎやしないかと心配になったし、ギルド職員の謎のテンションの高さは何だったのか。


「今、職員がベルハイト君を呼びに行っていますので、少しお待ちください」


「あの人、もう動けるんですか?」


 解毒薬(アンチドーテ)を使ったから大丈夫だとは分かっていたが、長時間毒に侵された状態が続いていたわりに回復が早い。昨日も思ったが、ベルハイトは元々回復力が高いのかもしれない。


「ええ、今朝にはもう。実は今、貴方を探しに出てるんですよ」


「え」


 それは……なんと言うか、申し訳ない。


 まだ目を覚ましていないと思っていたので、探される事は想定外だった。

 僕が黙り込んでいると、ダイアーが徐ろに口を開く。

 

「しかしまぁ、聞いてた通りだな」


「ふふ。そうですね」


 何故かニヤニヤ笑うダイアーと、微笑むヨハン。僕が首を傾げると、ダイアーは楽しげな表情のまま言う。


「いや、坊主の見た目がな。ベルハイトが言ってたんだと」


 僕の見た目。


「……そんなに特徴ありますか?」


 ベルハイトが何と伝えたのか知らないが、すぐ特定できるような珍しい風貌でもないと思うが。


 ダイアーは一瞬ぽかんとし、


「特徴っつーか、坊主の場合は……」


 その時、応接室の扉がノックされた。「どうぞ」というヨハンの声に被るように扉が開く。


「失礼します…!」


 入室した男性――ベルハイトは視線をサッと巡らせると、僕を見てピタリと止まり……じっと凝視してきた。


「おーい、早く入ってこい」

 

「あ、すみませんっ」


 苦笑するダイアーに促され、ベルハイトは慌てて開け放していた扉を閉めて僕の方へ来ると、がばりと頭を下げた。


「ベルハイト・ロズといいます。この度は、危ないところを助けていただき、ありがとうございました」


「いえ……、ご無事で何より、です…」


 頭を上げてほしい……。


 風圧を感じる勢いで礼をされ、少し仰け反ってしまった。ややあって、ゆっくり頭を上げたベルハイトは、ヨハンに促されて席に着く。


「確認させていただきたいのですが、確か貴方は数日前挨拶にいらした、メルビアの冒険者の方ですよね?」


 ヨハンに問われ、僕は訂正する。


「確かに挨拶には来たんですが、僕は冒険者じゃないです」


「え?」「は?」「えっ?」


 疑問符が重なる。それもそうだろう。僕はこの町に来た時、[真なる栄光]としてギルド長に挨拶をしているし、魔窟(ダンジョン)にも潜っている。冒険者じゃなければ何なんだ、と。


 僕は自分が運び屋(ポーター)であることと、[真なる栄光]に同行していた経緯をかいつまんで説明した。


「解雇、ですか…。今聞いた限りでは、貴方に非があるようには思えませんが…。良ければ私が間に入りましょうか?」


「いえ。僕としては現状になんら問題ありません。後処理についても抜かりないので。お気遣い、ありがとうございます」


 これ以上ティモン達の話をするのは不毛だ。

 

 僕は首に提げていた運び屋(ポーター)タグをテーブルに置いた。それには登録地域や職種、氏名が刻まれている。


「僕は運送ギルド・メルビア支部登録の運び屋(ポーター)で、ルカ・ブライオンといいます」


「……本当に運び屋(ポーター)だ……」


 ベルハイトがタグを見ながらぽつりと呟く。疑っていたというより、驚いたといった感じだ。


 通常、運び屋(ポーター)を生業とする者が冒険者パーティーに所属することはない。

 運び屋(ポーター)として運送ギルドに登録できるのは、荷馬車を所有し扱える者、もしくは[保管庫(インベントリ)]を使える者に限られる。前者は荷馬車を伴う前提なので、当然魔窟(ダンジョン)には入らない。後者はそもそも適正を持つ者が少なく、メルビアの運送ギルドにも、僕の他に二人しかいない。


 さらに[保管庫(インベントリ)]も[無限保存庫(ストレージ)]も使用中、その空間を維持するために絶えず魔力を消費する。故に魔力の総量もしくは回復速度が秀でていなければ、すぐに魔力が枯渇してしまう。

 そんな状態で魔窟(ダンジョン)に入るのは危険だというのが周知の事実なのだが、[真なる栄光]の面々はそれを把握していた様子はなく、冒険者としては勉強不足と言わざるを得ない。もちろん説明はしたが、右から左だった。


 [保管庫(インベントリ)]の適正を持ちながら冒険者をしている者もいるにはいるが、魔力の常時消費を避けるために、[保管庫(インベントリ)]ではなく魔法鞄(マジックバッグ)を使用している。


 これらが運び屋(ポーター)が冒険者パーティーに所属しない、そして魔窟(ダンジョン)に入らない理由だ。


 今からタストラ魔窟(ダンジョン)の件について話をするわけだが、その話の信憑性を確立するためには、僕自信の信用性を明示する必要がある。

 運び屋(ポーター)である僕が、単独(ひとり)魔窟(ダンジョン)に潜れるという証明を。

 

 僕は()()()()()()()を取り出した。

 それは一見、冒険者や運び屋(ポーター)のタグと同じだが、

 

「「「黒銀(くろぎん)のタグ?!」」」


「っ!!」


 びっくりした……。


 ベルハイト達が揃って大声を出すものだから、思わず身体(からだ)が跳ねた。


 僕が三人に見せたもう一つのタグは、黒銀(くろぎん)の特殊なタグ。これが何かは、冒険者ならすぐに分かる。


「ルカさん、貴方は……()()()()、なのですか?」


 ヨハンの問いに頷く。


「[アンノウン]。僕につけられた称号です」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ