表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
底無しポーターは端倪すべからざる  作者: さいわ りゅう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/34

〈別視点〉 ティモンの短慮な言動

 俺は初対面の時から、ルカ・オブライエンが気に食わなかった。あいつはとにかく愛想がない。

 俺達[真なる栄光]から声をかけられたというのに、喜んで涙するどころか、にこりともしなかった。


 運び屋(ポーター)をパーティーに入れるという案は、俺が提案した。

 冒険者は皆、魔法鞄(マジックバッグ)を携帯するが、そこそこ高価だ。しかも取り付けた魔石に定期的に魔力を補充しなければならず、正直面倒だ。それに自分で荷物を持つなんて、有能な人間のすることじゃない。荷物持ちなんて雑用、他に能のないやつがやるべきだ。


 俺たちは運送ギルドの運び屋(ポーター)の一人、ルカ・オブライエンをパーティーに加えてやった。

 ギルドや当人からは何故かかなり渋られたし、ルカも含めて三人いる[保管庫(インベントリ)]持ちの運び屋(ポーター)のうち、誰にするか決めさせてくれなかった。ふわふわのボブヘアと大きな垂れ目の可愛い子がいたのに……。まあ俺にはベロニカがいるから、ここは譲歩してやろう。俺は寛大だからな。

 そういえば、なんで他の冒険者は運び屋(ポーター)をパーティーに入れないんだろうか。頭の悪い連中ばかりだ。

 

 あと面倒だったのは、雇用期間やら補償やら契約としていろいろ取り決めたことだ。長々と内容を説明された上、「契約書の内容を確認して、それで良ければサインを」と言われたが、そんなもの読むなんてやってられない。俺達は読んだふりをして、さっさとサインしてやった。


 ルカ・オブライエン。

 あいつはまあ、美少年と言えなくもない顔だが、俺には劣る。それに背も低いし身体つきも頼りない。これで女だったら、ベロニカに内緒で可愛がってやってもよかったんだが。


 ルカをパーティーに加え、最初に受けた依頼はホーンラビットの間引きだった。増えすぎたホーンラビットが牧草地を荒らしていて、牧場のやつらが困っているとかなんとか。ホーンラビットくらい、自分達でなんとかしろよ。冒険者ギルドのギルド長がうるさいから引き受けてやったが、こんな低ランクな依頼で俺達を煩わせないでほしい。


 いざホーンラビット退治を始めると、ルカはまったく動かなかった。後方でぼんやりするとか、何考えてるんだ!


「おい、ルカ!なぜ戦闘に参加しない?」


「自分だけ楽するとか、マジ引くんだけどぉ」


「魔法が使えなくても、ナイフくらい振れるでしょうに」


「どーせビビってんだろ。所詮、荷物持ちだからな」


 俺が問いただすと、ベロニカ達も口々にルカに詰め寄る。だが当の本人はまったく表情を変えず、


「そういう契約なので」


 とだけ言った。


 は?契約?……それってあのサインしたやつか?なんて書いてあったっけ?


 説明も聞き流していたし、契約書もちゃんと読んでいないのだから、思い出せるはずがない。しかしそんなことはどうでもいい。


「冒険者になったからには、魔物と戦わないなんてありえない!そんな態度なら、報酬もなしだぞ!」


「じゃあ、いつもどおり四人で山分け?それはそれでイイかも〜」


「まあ、役に立っていないのだから当然よね」


「だな。ったく、情けねぇ男だぜ」


 当然ながらメンバーは皆、俺に賛同した。ルカのやつも、これに懲りたら次からはちゃんと動くだろう。

 新入りの怠慢を許す俺。なんて寛大なんだ。


 しかしその後もルカの様子は変わることはなかった。

 やるのは荷物持ちだけ。戦闘には一切加わらない。採取系の依頼では……、いや、このところ討伐系しか受けてなかったか。採取なんて面倒だし、俺に相応しくない。

 ……そういえば、昨日の討伐では少し失態を犯してしまった。ほんの一瞬油断して、ホーンラビットの攻撃を真正面から食らいそうになった。だがその寸前、ホーンラビットは風の刃のようなもので切り裂かれ、地面に落ちた。


「は、はは……。ベロニカ、助かったよ!」

 

 攻撃魔法はベロニカの得意分野だ。さすが俺のベロニカ。振り返って礼を言うと、ベロニカはきょとんとしていたが、


「え〜?どういたしまして〜?」


 可愛い笑顔で手を振っていた。なんだかピンときていないようだが、まあいいか。


 俺はこの時、失念していた。

 ベロニカの魔法適正は四元魔法の()()()()()で、カミラは()()()、ゲイルは()()()だということを。




 そしてルカの加入から二十日ほど経ったこの日。依頼でユトスに来ていた俺達は、ルカを追放することに決めた。

 あいつは役立たずなくせに口出しばかりしてくる。メルビアとユトス間の街道の調査なんて、馬車でさっと行ってさっと帰ればいいのに、街道調査は徒歩で行う決まりだとか言うし、ユトスに着いたら着いたで、ちょっと羽休めしていたら、早く出発しろとか急かしてくるし。数日くらいゆっくりして何が悪いんだ。


 ゆっくりと言えば、俺達は今まで、買い出しや依頼の報告などの雑務を四人で押しつけあっていたが、ここしばらくそれがなく静かだ。おそらく他の三人がやっているのだろう。あいつらもようやく、リーダーである俺を敬うことを覚えたわけだ。


 そして俺達は、ルカに追放を言い渡した。

 いつも澄ました顔をしているこいつも、さすがに慌てて謝ってくるだろう。泣いて土下座でもしたら、雑用として使ってやってもいい。ベロニカ達とそんなふうに話していた。

 だが、そんなことは起こらなかった。ルカは慌てるどころか終始落ち着いた様子で、淡々としていた。


 なんだよ、その態度は。このパーティーに残りたいだろ?俺みたいな優秀な男に師事したいだろ?ベロニカみたいな可愛い女に言い寄られる俺が羨ましいだろ?


「後で戻りたいなんて泣きついてきても遅いからな!強がったことを悔や」


 バタン


 扉はなんの躊躇いもなく閉められた。


 なんなんだ…。なんなんだよ、あいつは!!


 この俺に、俺達[真なる栄光]に、あんな態度をとるなんてあり得ない。


「……なにあれ!ムカつくー!」


「あ、あんなのただの強がりよ」


「だよな…。そのうち泣きついてくるだろ!」


 ベロニカ達も一瞬憤りを見せたが、すぐに笑い飛ばした。


 ……そうだ。きっとすぐに戻ってくる。そうに決まってる。つまらない意地を張ってるだけだ。ちっぽけなプライドってやつだ。明日には、いや今日中には頭を下げに来るに決まってる。あいつが戻ってきたら、俺たちの気が済むまで土下座で謝らせて、紙に自分の駄目なところを百個書き出させよう。そうすればあいつも、自分の無能さをちゃんと理解できるはずだ。そうしたらまたパーティーに入れてやってもいい。でも二、三年は報酬は無しだ。これくらい当然の報いだろう。あとは荷物持ちはもちろんだが、雑用も全部やらせる。毎日俺達の装備の手入れをさせて、俺の肩揉みもあいつの仕事にしよう。


 その時のことを考えただけで、楽しみで口元が緩む。いつの間にか苛立ちも消えていた。


 しかしその後。

 夜が更けても次の日になっても、ルカが戻ってくることはなかった。

次も別視点です。

今度はベルハイトさん!ヽ(`▽´)/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ