〈別視点〉 ティモンの短慮な言動
俺は初対面の時から、ルカ・オブライエンが気に食わなかった。あいつはとにかく愛想がない。
俺達[真なる栄光]から声をかけられたというのに、喜んで涙するどころか、にこりともしなかった。
運び屋をパーティーに入れるという案は、俺が提案した。
冒険者は皆、魔法鞄を携帯するが、そこそこ高価だ。しかも取り付けた魔石に定期的に魔力を補充しなければならず、正直面倒だ。それに自分で荷物を持つなんて、有能な人間のすることじゃない。荷物持ちなんて雑用、他に能のないやつがやるべきだ。
俺たちは運送ギルドの運び屋の一人、ルカ・オブライエンをパーティーに加えてやった。
ギルドや当人からは何故かかなり渋られたし、ルカも含めて三人いる[保管庫]持ちの運び屋のうち、誰にするか決めさせてくれなかった。ふわふわのボブヘアと大きな垂れ目の可愛い子がいたのに……。まあ俺にはベロニカがいるから、ここは譲歩してやろう。俺は寛大だからな。
そういえば、なんで他の冒険者は運び屋をパーティーに入れないんだろうか。頭の悪い連中ばかりだ。
あと面倒だったのは、雇用期間やら補償やら契約としていろいろ取り決めたことだ。長々と内容を説明された上、「契約書の内容を確認して、それで良ければサインを」と言われたが、そんなもの読むなんてやってられない。俺達は読んだふりをして、さっさとサインしてやった。
ルカ・オブライエン。
あいつはまあ、美少年と言えなくもない顔だが、俺には劣る。それに背も低いし身体つきも頼りない。これで女だったら、ベロニカに内緒で可愛がってやってもよかったんだが。
ルカをパーティーに加え、最初に受けた依頼はホーンラビットの間引きだった。増えすぎたホーンラビットが牧草地を荒らしていて、牧場のやつらが困っているとかなんとか。ホーンラビットくらい、自分達でなんとかしろよ。冒険者ギルドのギルド長がうるさいから引き受けてやったが、こんな低ランクな依頼で俺達を煩わせないでほしい。
いざホーンラビット退治を始めると、ルカはまったく動かなかった。後方でぼんやりするとか、何考えてるんだ!
「おい、ルカ!なぜ戦闘に参加しない?」
「自分だけ楽するとか、マジ引くんだけどぉ」
「魔法が使えなくても、ナイフくらい振れるでしょうに」
「どーせビビってんだろ。所詮、荷物持ちだからな」
俺が問いただすと、ベロニカ達も口々にルカに詰め寄る。だが当の本人はまったく表情を変えず、
「そういう契約なので」
とだけ言った。
は?契約?……それってあのサインしたやつか?なんて書いてあったっけ?
説明も聞き流していたし、契約書もちゃんと読んでいないのだから、思い出せるはずがない。しかしそんなことはどうでもいい。
「冒険者になったからには、魔物と戦わないなんてありえない!そんな態度なら、報酬もなしだぞ!」
「じゃあ、いつもどおり四人で山分け?それはそれでイイかも〜」
「まあ、役に立っていないのだから当然よね」
「だな。ったく、情けねぇ男だぜ」
当然ながらメンバーは皆、俺に賛同した。ルカのやつも、これに懲りたら次からはちゃんと動くだろう。
新入りの怠慢を許す俺。なんて寛大なんだ。
しかしその後もルカの様子は変わることはなかった。
やるのは荷物持ちだけ。戦闘には一切加わらない。採取系の依頼では……、いや、このところ討伐系しか受けてなかったか。採取なんて面倒だし、俺に相応しくない。
……そういえば、昨日の討伐では少し失態を犯してしまった。ほんの一瞬油断して、ホーンラビットの攻撃を真正面から食らいそうになった。だがその寸前、ホーンラビットは風の刃のようなもので切り裂かれ、地面に落ちた。
「は、はは……。ベロニカ、助かったよ!」
攻撃魔法はベロニカの得意分野だ。さすが俺のベロニカ。振り返って礼を言うと、ベロニカはきょとんとしていたが、
「え〜?どういたしまして〜?」
可愛い笑顔で手を振っていた。なんだかピンときていないようだが、まあいいか。
俺はこの時、失念していた。
ベロニカの魔法適正は四元魔法の火属性のみで、カミラは水属性、ゲイルは地属性だということを。
そしてルカの加入から二十日ほど経ったこの日。依頼でユトスに来ていた俺達は、ルカを追放することに決めた。
あいつは役立たずなくせに口出しばかりしてくる。メルビアとユトス間の街道の調査なんて、馬車でさっと行ってさっと帰ればいいのに、街道調査は徒歩で行う決まりだとか言うし、ユトスに着いたら着いたで、ちょっと羽休めしていたら、早く出発しろとか急かしてくるし。数日くらいゆっくりして何が悪いんだ。
ゆっくりと言えば、俺達は今まで、買い出しや依頼の報告などの雑務を四人で押しつけあっていたが、ここしばらくそれがなく静かだ。おそらく他の三人がやっているのだろう。あいつらもようやく、リーダーである俺を敬うことを覚えたわけだ。
そして俺達は、ルカに追放を言い渡した。
いつも澄ました顔をしているこいつも、さすがに慌てて謝ってくるだろう。泣いて土下座でもしたら、雑用として使ってやってもいい。ベロニカ達とそんなふうに話していた。
だが、そんなことは起こらなかった。ルカは慌てるどころか終始落ち着いた様子で、淡々としていた。
なんだよ、その態度は。このパーティーに残りたいだろ?俺みたいな優秀な男に師事したいだろ?ベロニカみたいな可愛い女に言い寄られる俺が羨ましいだろ?
「後で戻りたいなんて泣きついてきても遅いからな!強がったことを悔や」
バタン
扉はなんの躊躇いもなく閉められた。
なんなんだ…。なんなんだよ、あいつは!!
この俺に、俺達[真なる栄光]に、あんな態度をとるなんてあり得ない。
「……なにあれ!ムカつくー!」
「あ、あんなのただの強がりよ」
「だよな…。そのうち泣きついてくるだろ!」
ベロニカ達も一瞬憤りを見せたが、すぐに笑い飛ばした。
……そうだ。きっとすぐに戻ってくる。そうに決まってる。つまらない意地を張ってるだけだ。ちっぽけなプライドってやつだ。明日には、いや今日中には頭を下げに来るに決まってる。あいつが戻ってきたら、俺たちの気が済むまで土下座で謝らせて、紙に自分の駄目なところを百個書き出させよう。そうすればあいつも、自分の無能さをちゃんと理解できるはずだ。そうしたらまたパーティーに入れてやってもいい。でも二、三年は報酬は無しだ。これくらい当然の報いだろう。あとは荷物持ちはもちろんだが、雑用も全部やらせる。毎日俺達の装備の手入れをさせて、俺の肩揉みもあいつの仕事にしよう。
その時のことを考えただけで、楽しみで口元が緩む。いつの間にか苛立ちも消えていた。
しかしその後。
夜が更けても次の日になっても、ルカが戻ってくることはなかった。
次も別視点です。
今度はベルハイトさん!ヽ(`▽´)/




