幕間 お姉ちゃん行かないで
曲輪朔希は絶望していた。自分の唯一の家族の姉が、父親に刺された。自分を逃がすために。庇われてしまった。あの後、無事に警察に連絡後警官が到着した時には、父親は気絶して倒れ、姉は大量出血状態で浅く呼吸をしていた。救急車に運ばれ緊急手術。一命は取り留めたが、意識が戻らない。
「お姉ちゃん…急に一人にしないでよ…」
病室で、多くの管に繋がれ、機械音だけが病室内に響き渡る。
「お姉ちゃん、あの後お父さんは逮捕されたよ。もう出てこないだろうって言われたよ?だから、帰ってきてよ…」
静かに涙を流し始めていく。彼女一人だけの嗚咽が、機械の音にかき消されながら…
ようやく自宅の検証が終わったとの事で、帰宅をすることになった。綺麗にされているが、目の前に見えるのは、あの時の光景。私が早く連絡をしていれば…後悔の波が押し寄せる…
「泣いていても、お姉ちゃんは喜ばない…前に進めって言われる…絶対に。かっこよく笑いながら言ってくれるはずだから…」
こうして、一人だけの生活が始まる。ぽっかりと空いた空間を埋める人は居ない。彼女の中で、姉の存在は大きかった。
あの事件から数日が経った。心の空いた隙間を埋めてくれるものは、病室で眠る姉しか居ない。姉の温もりを忘れたくない。その思いで、姉の部屋で生活をするようになった。整えられた部屋の中で。
ふと、机の上に置いてあった姉の日記に吸い寄せられるように手を伸ばす。そこには、彼女とのたわいもない日々や、父親が来た時の対策を練ったであろう走り書き。読んでいく彼女は、再び涙が止まらなくなる。毎日記されていた日記は、あの日を境に真っ白。ならば、姉が起きた時に困らないように、書き記せば良いのではないのか。そう頭に思い浮かび、彼女は姉の日記に日々を書き記していくことになった。




