序章 そして彼女は旅に出る
彼女は退屈していた。日々を彩ってくれているのは妹だけ。誰にも渡したくない、離れたくないと囲んでしまって申し訳ないと思いながら。
「お姉ちゃん?」
「ん?あぁ!ごめんなさい!今どこ教えていたっけ?」
「しっかりしてよ~」
な~んて、勝手に脳内モノローグを始めてる我。何で女なのに「私」じゃなくて「我」なのかって?そんなもの、個人の自由でしょ?誰かに縛られる義理はない。ただただ好きな作品の好きなキャラクターの一人称を真似しているだけ。ただただ、今現状が面白くないだけ。今は大切な妹に勉強を教える時間。
「こうやって解くのか!さすがお姉ちゃん!」
クスッと笑いながら、大切な妹の頭をそっと撫でる。本当に可愛い。
勉強を教える時間が終わり、妹は静かに寝ている。我はいつも通り日記を書く。その時、ドンドンドン!!!と大きい音で玄関の扉が叩かれる。ギャンブルにはまり、借金まみれのだらしない奴。母親が返済の為に過労で倒れ、静かに眠った。我ら娘2人を残して。
「おい!燦樂!居るのは分かっているんだ!!父親だぞ!!開けろ!!」
自己紹介が遅れたようだ。我は曲輪 燦樂。いつも読めない名前だと言われている。ガチャン!!!と大きい音がした。何か良くない音だ。我は日記を書く手を止め、我の部屋で寝ている妹の朔希を起こす。
「父親が家に入ってきた可能性がある。朔希はすぐに裏口から外へ出て警察へ連絡。良いな?」
「でもお姉ちゃん」
朔希は震える手で我の腕を握る。いつも暴力を振るうだらしのない男を、我は父親だとは認めない。周りを頼る事が出来ない我ら姉妹にとって、不安材料の1つでしかない。ましてや、朔希の姿が母親に見えてしまい、襲おうとした愚か者である。
「朔希、我の可愛い妹。安心しな。我が助けなかった日は無かっただろう?さぁ、あの愚か者がここへ来る前にお逃げ」
「っ!うん!」
朔希は涙ながらに決意してくれたようだ。すぐ連絡が取れるようスマホを持ち、一緒に静かに部屋を出て、先に裏口を目指す。
「そこに居るのか!!!」
くそっ!後少しで裏口だというのに!何故お前はそこに居るんだ!
「朔希、今すぐ玄関へ走れ!」
「あっ…ああぁ!」
駄目だ、完全に恐怖で動けなくなっている。
「俺に逆らうなぁ!!」
「ひやぁ!」
父親が振り上げた手にはーーー包丁が握られていた。まずい、このままでは大切な妹に!咄嗟に我は朔希の腹を蹴り、後ろへと強制的に下げさせる。そして、父親との攻防が始まる。
「朔希!連絡を!」
「うっ…うん…!」
よし、朔希は先程の蹴りでパニック状態から少しは戻れたようだ。後でしっかりと労わないとな。残りは、この愚か者をどうするか。素手では限界がある。我は包丁を躱しつつ考えを巡らせる。
「いい加減大人しくしろやぁ!生意気餓鬼がぁ!!」
っ!流石に避けきれないか!そう判断した途端、体が動かなくなった。そしてグサッと、我の胸に刺さっている包丁を見つめる。
「おっ…お前が!父親に対して生意気だからこうなったんだろうがぁ!!」
声をあらげずとも分かっている。お前がいかに愚か者なのかがな!耐えろ我。胸に突き刺さっている包丁を抜き取り、背中に飛び蹴りを入れうつ伏せ状態で無防備になった父親を3度刺す。そして動かなくなった。
「お姉ちゃん…?」
あぁ…大事な妹よ…ここでどうやら…お別れのようだ…
「お姉ちゃん?お姉ちゃん!!」
サイレンの音が…聞こえる…どうやら警察を呼べたようだ…良くやった…我の大切な妹よ…
「お姉ちゃん起きて!!だめ!目を閉じないで!!」
すまない…ここで終わりのようだ…意識が…もう…
ーどうやらお前には、生きる為の目的があったようだ。
(なんだ?)
ーならば私の人生をあげようではないか。私は今死んだ。魂だけを私の身体に変わりに送り込もう。
(おい、何の話をしていると言っている)
ーお前の話は聞かない。これは契約だ。契約を果たせば、お前は元の身体、大切な妹にまた会える。さぁ、契約を成せ。
(契約とはなんだ!一方的すぎるぞ!)
「おい!」
急いで目を開き声をかける。
「えっ、ここは何処だ」
我は、知らない洋風の部屋に居た。




