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鋼鉄島・前編 正義の失脚

 気がつくと見知らぬ砂浜に流れついていた。

「う…うう…?」

 周りには船の残骸が落ちている。船は完全に壊れたわけではないようで、ある程度船の原型をとどめている。ルミーがこの船を作ったのなら直すこともできるだろう。俺は起き上がった。目の前には想像を絶するような大きさの都市があった。

「なんだ…?」

 あちこちで歯車の回る音がする。この辺りまで煙の匂いが漂ってきた。巨大な時計が時間を刻み、錆びた電車が汽笛を鳴らす。もしここが淡海なら、間違いなくここはファルカダイン島だ。こんな風景は師匠の出身地ぐらいしか見たことはない。オレンジ色のネオンサインが目に入った。

『Welcome to Farkadain!』

 やはりここがファルカダイン島だった。もう一度俺は周りを見渡した。クルハたちはいなかった。別のどこかに流れ着いたのかもしれない。漂着してから何時間も経ったのだろう。服が乾いている。

 俺はひとまず街に入った。道を歩いていると向こう側から黄緑色の髪の少年が紙袋を持って走ってきた。

「遅れる遅れる!」

 俺は少年とぶつかってしまった。

「うわあ!」

「すみません!大丈夫ですか?」

 俺がそう謝った。少年の紙袋から見知らぬ鉱物が飛び出していた。少年は鉱物を拾い集めた。

「ええーっと…こちらこそすみません!」

 鉱物…。鉱山関係の人か?アトリアはディランの欠片がファルカダイン島の鉱山にあると言っていた。情報が聞き出せる良いチャンスだと思い、少し聞いてみることにした。

「鉱山で働いてるんですか?」

「え?あ、鉱山で働いてるわけではないんですけど、まあ鉱山について調べてることがあって。」

「ディランの欠片って知ってま…。」

 俺が聞きかけたその途端少年は表情を変えて言った。

「もしかしてあなたもディランの欠片について調べてるんですか⁉︎実はボクもアルカディア文明を探索したいという夢を昔から持っていまして!今は探偵として鉱山関係の問題を解決して小遣い稼ぎしてるんですけど!」

 ファルカダイン島では子供も働くようだ。俺は思い出したように言った。

「そういえばクルハたちはどこにいるんだろうか…。あいつらが欠片を一つ持ってて…。」

「本当ですか!」

 少年は好奇心旺盛だった。

「ところでなんで急いでたの?」

「あ…。遅れるー!」

 少年が駅に向かって走り出した。俺もついていった。汽車の運賃は無料だった。ひとまず落ち着いて席に座った。

「ふぅ。えーっと、申し遅れました。ボクはタリタと言います。」

「俺は竜。千谷幕府出身の剣士だ。」

 タリタは鉱物を袋から取り出した。

「これはそこの鉱山で取れた鉱物なんです。このまえ鉱山で鉱夫たちが突然窒息死するという事件が起きたんです。ボクはこの特殊な鉱物が原因だと思って。」

 その鉱物は青や緑や水色に輝いていた。

「ディランの欠片の色と似てるな…。」

「そーなんですか⁉︎もしかしてディランの欠片と関係してたりして…!」

 汽車が都市の方へ進んでいく。

「今どこに向かってるの?」

「事務所です。この鉱物を手に入れたんで一度事務所で整理するんです。ディランの欠片についても知りたいんで一緒に来てもらってもいいですか?」

 汽車はやがて都に到着した。タリタに案内され、俺たちは事務所に入っていった。事務所の中は少々散らかっており、変わった匂いがした。

「まあ座ってください。聞きたいことが色々あります。」

 俺はタリタの質問に一つ一つ答えていった。ほとんどはディランの欠片やそれを探すための冒険の話だった。俺の話がひと段落したところでタリタは言った。

「なるほど。クルハさんとミアさん、それからルミーさんを今探しているんですね。人探しなら任せてくださいよ!探偵なんですから!」

「鉱山の窒息死の事件はいいのか?」

「大丈夫ですよ!ディランの欠片はクルハさんが持ってるんですか?事件の手がかりにもなるかもしれないですし!仲間の方々が見つかるまではうちに泊まっていってくださいよ!」

「ああ…。ありがとう…。」

 窓の外から黄昏色が差し込んできた。夕暮れだ。この建物は一階が事務所、二階がタリタの家になっている。タリタは元々下町に住んでいたが、親の収入が少なくなってきていたため、上京して働くようになったらしい。今も時々実家に顔を出すことがあるそうだ。ファルカダイン島は経済成長期の真っ只中だ。しかし人口は少ないため、子供も働く。千谷幕府やステルス王国とは大違いだ。

「風呂はそっちにあります。ボクはいつも押入れの下の段で寝てるんで竜さんは上の段を使ってください。ボクは夕食のレトルト食品を買ってきます。」

 一夜が明けた。起きるとタリタが尋ね人の張り紙を描いていた。クルハたちのものだ。隣にはレトルト食品が二個置いてあった。

「あ!おはようございます!朝食はそれを食べといてください。」

「張り紙で見つかるの?」

「これが意外と見つかるんですよ。」

 朝食を済ませると俺たちは街に出ていった。そして街のいたるところの掲示板に張り紙を貼っていった。そして最後の掲示板に貼ろうとした時に近くにあった新聞をタリタが買った。

「こういう新聞とかにもヒントがあるんですよ…。」

 そう言いながらタリタは新聞を覗き込み…。

「えっ⁉︎」

 …驚きの声を発した。俺も新聞を見た。ルミーが逮捕されたという記事が載っていた。

「ルミーさんってこの人ですよね?」

 タリタがこちらを見て言った。写真は間違いなくルミーのものだった。海賊なだけはあって盗みでもしたのだろうか。俺たちは急いで警察署に向かった。

「ルミー?ああ!あのピンクの娘か。あいつを捕まえたのは警察じゃない。聖騎士団の輩だ。」

 警察官が言った。ひとまず安心した。聖騎士団は昔から吸血鬼や悪魔などを滅ぼそうとしている。彼らが捕またということは恐らくルミーは犯罪はしていないだろう。だが時間もない。聖騎士団のファルカダイン支部へ向かった。タリタもついていくらしい。念の為のピストルも持っているらしい。

 基地に到着した。

「おい貴様!何者だ!」

「おい〜きさま〜なにもんだ〜www。」

 真面目な門番と間抜けな門番が基地の入り口を塞いでいた。

「通せ。ルミーを連れ戻しにきた。」

 真面目な門番が槍をこちらに向けて言った。

「なんだと⁉︎ルミーは数十年前から指名手配されていた危険な吸血鬼だ!連れ戻すというのなら容赦はしないぞ!」

 間抜けな門番は槍を適当に掲げて言った。

「そーだそーだwww。」

 タリタがピストルを構えた。

「銃弾は6つです!有効に活用しなければ!」

 俺は刀を構えた。殺すわけにはいかない。降参させるか気絶させるかだ。タリタが引き金を引いた。

「ひいっ!」

 間抜けな門番はビビって座り込んだ。ザコだ。真面目の門番は槍を前に突き出して突っ込んできた。

「食らえー!」

 槍を刀で薙ぎ払った。真面目な門番も無力化できた。二人が怯んでいる間に扉を開け基地の中に入っていった。

「侵入者か。」

 ボスのような奴が言った。聖騎士団の他のメンバーたちが襲い掛かってきた。ルミーは部屋の隅で縛られて置かれていた。

 俺は峰打ちで敵を払ったが、埒が明かない。タリタの残りの銃弾も数が減ってきた。

「タリタ!あと何発残ってる!」

「一発です!」

 親玉を倒すのに一発温存しておいた方がいいかもしれない。そう思っている暇もなかった。

「消え失せろぉ!」

 イカつい男がタリタを突き飛ばした。衝撃でタリタは気絶してしまったようだ。仕方がない。この技は温存しておきたかったが、このままでは埒が開かないから。

「黄金流・深淵の黒穴!」

 師匠に教わった技。これも元々黒の応用技だった。人工のブラックホールと言ったところか。やはりこちらも黒だと危険すぎるため、光属性に置き換えている。つまりホワイトホールだ。

 凄まじい爆風と共に敵が吹き飛ぶ。雑魚は一掃できたようだ。ただし必殺技をもう一度放つ余力は残っていないため、親玉とは通常の技だけでの戦いになるだろう。

「やれやれ。全く困ったものだ。次からはもっと優秀な部下を揃えなければ。まあ、俺が出ればすぐに終わる話か。」

 流石に舐めすぎだ。しかし、俺は口にガムテープを貼られたルミーがこちらに何かを訴えていることに気づいた。

「んんー!んんんんんー!んんん!」

 全く分からん。だが相手の攻撃には気をつけよう。

「王座の招待!」

 相手が持っている杖を地面に突きつけた。

 タンッという軽快な音と共に地面に紫色の亀裂が走った。なんだ。大したことなかった。と思っていた。

「俺の攻撃を侮るなよ…。」

 亀裂から禍々しい色の蔦が生えてきた。蔦が足に絡まり動けなくなった。

「マジか!クッソやられた!」

 蔦は手にも絡まってきた。こうなった以上どうしようもない。詰みかと思ったが、それと同時に銃声が鳴り響いた。タリタだ。放たれた弾丸は親玉の肩に直撃した。親玉なだけはあり、血はほとんど出なかった。タフだ。しかし、衝撃で杖が飛ばされた。杖は意外と脆いようで、地面に激突した瞬間バラバラに砕け散った。俺は刀を親玉に向ける。無力化成功だ。親玉を縄で縛った。そのうちにタリタはナイフでルミーを拘束している縄を切った。

「ありがとう!」

 ルミーがそう言った。そして一旦事務所に帰る…こと…に…。

 長い間意識がなかったようだ。俺は事務所の押し入れの中で目が覚めた。押し入れの戸は開いていた。あの紫の蔦には毒の効果まであったようだ。

「竜さん!起きたんですね!」

 タリタが駆け寄ってきた。ルミーは奥で地図を見ている。

「何時間ぐらい寝てた?」

「二、三時間ぐらいですかね。ルミーさんが即興で治療薬をつくってくれたんですよ。今は残りの二人の位置を特定してます。」

 俺は起き上がった。ルミーが地図を見せてくれた。

「恐らく他の二人もこの島にいると思うよ。流れ着いて私が目が覚めた時には二人はすでにいなかった。つまり先に行動していると仮定することもできるよ。」

 ならばルミーもクルハも鉱山に行っているだろう。


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