5さいのわたしへ
きょうは、わたしにとって とくべつな日。
「とてもきれいよ、ゆき。」
おかあさんが、まぶしそうに わたしをみつめる。
「ありがとう、おかあさん。
おかあさんの ししゅうのはいったドレスを きるのが ゆめだったの。」
「きょうの ねえさんは、せかいいち きれいだ。」
おとうとの かえでが、ながくてりっぱなシッポをユラユラうごかしながら、赤い目をキラキラさせて、ほめてくれた。
「ありがとう、かえで。
あんなにちいさくて、なきむしだったのにね。
まさか こんなにおおきくなって、おとうさんとおなじ おしごとをするなんて、おもわなかったわ。」
わたしはクスクスわらって、かえでをみた。
ちいさいころは、わたしが まもってあげたのに、らいねんからは、かえでが、このまちの人たちをまもる おしごとをはじめるの。
「ゆき、おとうさんたちは、ずっとかぞくだ。なにかあったら、たよりなさい。」
おとうさんは、わたしとおなじ空色の目をほそめて、なみだがでるのを がまんしている。
りっぱなシッポが、すこしげんきがないよ。
「おとうさん、ありがとう。
おうちは ちかいから、そんなに さびしくないよ。」
おとうさんは、わたしたちのもとへ かえってきてから、ずっとずっとやさしかった。
だいすきな おかあさん。おとうさん。かえで。
今までありがとう。
わたしはおうちをでて、あたらしいかぞくと くらすのよ。
だいすきになった、黒い耳としっぽの オオカミじゅうじんのランさんと、けっこんするの。
ランさんは、おとうさんのおしごとのなかま。
だから、おとうさんは、ランさんのことを、まじめな人だと しっているのよ。
なんども おはなしするうちに、わたしは だいすきになったの。
ランさんも、わたしのことをすきになってくれたのよ。
ランさんが、おおきな花たばをもって、
「ゆき、ぼくとけっこんしてください!」
と、いったときに、はじめて、うれしなみだがでたの。
うれしくて、うれしくて、むねいっぱいになって あふれだした きもちが、なみだになって ながれたの。
ランさんは、ハンカチで そっと、なみだをふいてくれたけど、なかなか とまらなかったのよ。
わたしは、こぼれる なみだをながしたまま、
「はい!」
と、えがおで へんじをしたの。
これからは、だいすきな おとうさんとおかあさんみたいな、なかよしの ふうふになって、ランさんと いきていくのよ。
5さいのわたしへ。
おとうさんが、おかあさんのところへ かえってきたとき、2人はうれしなみだをながしていたね。
なみだの りゆうが わからなくて、かなしくなったよね。
でも、いまのわたしは わかるの。
きっとあえたのが、うれしくて、うれしくて、むねがいっぱいになって、なみだになって あふれていたんだね。
きっと、これからなんどでも うれしなみだを ながすときは くるでしょう。
だって、わたしたちは しあわせな かぞくに、なるのだから。
───おしまい───
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