表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ふふふで、うふふ  作者: 知香
1/6

1.October

 高校三年の秋、気になる人が出来た。

 恋に落ちる様な何か特別な出来事やきっかけがあった訳では無い。ふと気づけば彼の姿を目で追っていた。

 もともと目立つ人だった。彼、高橋くんは、背が高くとても格好良くて、クラスの女子もきゃあきゃあ騒ぐような、女子トークの話題に彼の名が頻繁に上がる程だった。どちらかというと聞き役になりがちな私は、彼女達の話を聞いて一緒に笑っていたから、その影響もあって彼女達と一緒になって高橋くんを観察していた。だから初めは推し活の一種として彼の姿を追っていたのだと思う。

 それがいつからか、楽しい気持ちから嬉しい気持ちに、それにドキドキまでも加わる様になった。それは高橋くんの姿を見ている時や、友達と推しトークで盛り上がっている時以外の、一人で居る何気ない時に感じる様になっていた。


 廊下から二列目の一番後ろの席の私は、中央の列の真ん中、クラスのど真ん中の席に座る高橋くんがいつも目に入った。黒板を見るつもりで頭を上げれば彼の後ろ頭が視界に入るし、先生に注目するつもりが視界に入る彼の後ろ頭が気になるしで、授業に集中するのが大変だった。

 ある日高橋くんの前髪の寝癖がピョンとハネていた。ハネた寝癖越しの先生は余計に霞んで見えてしまい、授業中なのに可愛らしさにニヤけてしまいそうで、衣替えしたばかりの制服の袖を伸ばして口元を隠して授業を受けていた。夏服じゃなくて良かったと思う。心の中でふふっと笑っていた。

 またある時は高橋くんが後ろの席にプリントを回す為に後ろを向くと、私と目が合った様な感覚になった。見てたんじゃないよ、黒板を見ていたんだよと言い訳する様に素知らぬ顔して黒板や先生を見たり、回って来たプリントを受け取って目を落としていた。視界に入れていたのは事実なのに。バレていただろうか。バレていない事を祈るしか無い。


 これはファンだからか、それとも恋なのか。散々友達の話を聞いてきたので洗脳されているだけなのではと何度も思った。

 私の隣の席の男子と高橋くんは仲が良く、休み時間に後ろまで来て会話する事が度々あった。来る度にドキドキとしていた。何でもない風を装って、次の授業の予習をしちゃったり。隣の会話が気になって教科書の内容は何も入って来なかったけれど。こっそり推し活友達が近寄って来て、その友達も私に用がある風を装って聞き耳立ててたみたいだけど。


 高橋くんは学校行事もちゃんとやる人だった。秋の合唱祭でも一際目立っていた。歌が上手いのだ。

 高校生活最後の三年生という事もあり、また高校最後の大きな行事でもある為、クラスは優勝を目指して本気の選曲をした。これがまた難しい曲だった。パート練習で私は音楽が得意な子に教えて貰いながら幾つもある難しい箇所を練習したけれど、難しいと思うのは私だけではなく、当初は自信無く歌う子が多かった。それでは優勝へやる気に満ち溢れた指揮者と伴奏者には当然物足り無く、何度もダメ出しされた。楽譜を見ても音を聴かなければ分からない私は必死に音を覚えるしか無く、合同練習でもつられたり音が分からなくなってしまったりしていた。ピアノ習っておけば良かったなって、思った瞬間だった。

 男子だけで歌うのを聞いた時、高橋くんの歌声が良く聞こえた。高い背から出てくる低く響く声は格好良くて、他の自信無く歌う男子とは全く違った。恥ずかしがらずに堂々と歌う姿が凄いと思った。優勝へやる気に満ち溢れた指揮者と伴奏者は高橋くんを手本にしてとクラスの皆に言った。

 合唱祭は、結果、見事優勝した。みんな一人ひとり頑張ったのもあるけれど、高橋くんの真面目な取り組みがクラスの意識を良い方へ向けてくれたのだと思う。だって、歌っている姿が格好良かったんだもん。そりゃあクラスの女子も触発されて頑張るって。

 優勝した記念にクラスの皆で写真を撮った。そのデータを貰ってこれから本格的に始まる受験の支えにしようと思いスマホの待ち受けにした。同じ画面に写っているだけで、背が高いから後ろの方に立ち他の男子と肩を組んでいる高橋くんと、賞状を持った指揮者と伴奏者を囲う様に前方で女子の皆で優勝したテンションのまま指を一本立てるポーズしている私とは、かなりの距離があるけれど。



 クラスの皆で盛り上がった優勝の余韻にいつまでも浸らせてくれないのが受験だ。模試の結果が帰ってきた。B判定だった。点数は基準を下回っている教科もあったが志望している人が少なく定員割れしていた。こんな時ばかりは少子化万歳。かと言って油断は禁物なのでどうにか点数を上げなければと、溜め息が出てしまう結果だった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ