俺んち、お化け屋〜敷!
ねこすずです
よろしくお願いします
放課後。季節は夏で、夕方といえどまだ外は明るかった。
皆が部活に勤しむ中、彼ら二人はというと、自分の机でババ抜きをしていた。決してサボりではない。自主学習という名目の元に教室に残って勉強をしていたのだが、飽きてしまったのだ。つまりは息抜きだ。
「っしゃ、俺の勝ちぃ!」
ターンッ、とニ枚のダイヤのカードがトランプの山に叩きつけられる。誇らしげにニヤニヤと笑う金髪の青年は背後の机の上に胡座をかき、未だ手元に残った一枚の絵カードを睨みつけている黒髪の青年に対して胸を張る。
「……ただのババ抜きじゃんか」
「おん? 負け惜しみか〜〜〜? にゃはは!」
「ちげーよ、ばぁか」
「あでっ」
トランプを指で挟み、手裏剣のように投げたそれは、機嫌よく笑っていた金髪の青年のおでこに直撃した。黒髪の青年は軽い溜め息を吐くと椅子から立ち上がった。
「ってぇ〜……」
「もう帰んぞ祈」
本人は否定していたが、少しばかり拗ねたように口を尖らせ、雑にカバンを肩に掛けると、痛みに呻く祈を置いてさっさと教室から出ていく。
「だぁっ、待てよ丸ぅ」
山になったトランプを適当に重ね、ノートや筆入れと共にバサバサとカバンに放り込み慌てて教室を飛び出し、黒髪の青年、丸を追う。
「丸ぅ〜お前っ、片付けしろよなー! ……おーい、丸さーん?? へ、どしたの丸さん……」
廊下で立ち止まっていた丸の背中を叩き、文句をつけても丸は隣の教室の中をじっと見て動かない。不審に思いつつ、祈も教室の中を覗いた。教卓に腰掛けた男子生徒を中心に、生徒数人が囲むように談笑している。よく見る光景だ、丸は何が気になったのか……と生徒らを観察し、談笑に耳を澄ます。
「ほんとだって! 俺んち幽霊出るんだ」
「え〜、ホンモノが出るってこと〜?」
「やばっ」
「なにそれ、こわ〜」
「ユーレイなんているわけねぇじゃん、拓也お得意の冗談なんだろ〜?」
「冗談じゃねーって!」
拓也は捲し立てるように言葉を続ける。
「部屋に閉じ込められたり、誰もいないのに足音がしたり……人影見たり! ユーレイ屋敷なんだよ、俺んち!」
彼の話は、まぁ、ありきたりな話だった。そのほとんどが気の所為や気にし過ぎの類の、よくある話である。この手の話はこの年頃であれば娯楽の一つのようなものであり、本気で怖がる人間はさほどいないだろう。真面目に話を聞くような者も珍しいもの。その場にいる生徒たちも、ただの暇潰しや好奇心で話を聞いていた。しかし、
「……顔真っ青だな、祈」
祈は別らしいが。
「俺がお化け駄目なの知ッてんじゃん!!!」
先程と打って変わって、ニヤニヤと楽しげに笑う丸を涙目で睨む。祈はホラーの類が大の苦手だった。見るのも駄目、聞くのも駄目、勿論触るのも駄目だった。
「ババ抜き負けた腹いせか! 腹いせなんだなッ!?」
「違うだろ」
「ただのババ抜きだっつったのは丸じゃんかよぉ〜!!」
「落ち着けよバカ」
祈が一方的に騒いでいると、先程の話の中心人物であった拓也が薄ら笑みを浮かべながら歩いてきた。
「お前らも俺んち来る? 入場料1000円……」
「いやだぁッ!!!」
「嫌だ」
遮るように祈が叫び、丸が静かな声で拒否した。楽しげに廊下で祈をからかっていた丸だけはノってくれると思っていた拓也は驚いた様子で、「な、なんで?」と真意を探るように丸を凝視する。
「足音がしたり人影を見たりする程度のユーレイ屋敷に興味なんてない。つか、そんなのただの見間違いだろ。そして1000円は高い。1000円で和菓子屋『お餅心』のお菓子何個買えると思ってんだ」
(丸……お化けとかよりも入場料の方が嫌なんだ……)
丸の言葉を聞いた拓也は明らかに不機嫌そうに眉を寄せる。顰めっ面で淡々と話す丸に、理由は違えど自分も行かないことに賛成な祈は、このまま話が流れてくれるのを待つことにした。自分が何もしなくとも、このまま家に帰る流れになるのだと。
「俺んち、お餅心の夏季限定水ようかん沢山買ってあるんだけど」
「っし、行くか、祈」
「…………はえぇ〜……??」
それが間違いであったことを早々に知った祈であった。