第0話 隣人
午後九時。
インターホンが鳴る。女が出ると一人の男が立っていた。男は雨に降られたらしく、肩から上が濡れていた。
「あら大変。さっ入って」
女は部屋に男を上がらせると、脱衣所からタオルを取って投げ渡す。
男は三七歳、女は十九歳と年の差は大きいが、二人は恋愛関係にある。
「すまないね。ただの隣人なのに」
「ただの隣人じゃないでしょ。もう私達の関係は……」
タオルで髪を拭く男の首筋を女は指でなぞる。男はその指を跳ね除けると、上着とネクタイを外す。さらに冷蔵庫からビールを取り出しダイニングの椅子に座った。
「キミ、最近元気が無いようだけど何かあったのか?」
足を組んでビールを飲みながら男は尋ねる。
「実は、闇金から借金をしているの」
「闇金から?」
男は思わずビールを吹き出しそうになる。
「どこの闇金だ? いくらあるんだ?」
「一千万。長鵜金融よ」
「長鵜金融?」
男は驚く。長鵜金融といえば、暴力団青龍会の傘下だ。
「なんでそんなところから?」
「詳しくは言えないの。ただ、気づいたら借金してた」
女は男の肩を掴むと懇願する。
「お願い、あなた警察官でしょ? 何とかしてよ」
男は少し考えてから答える。
「分かった。俺に生命保険を掛ける。それで支払え」
「え? でも保険金ってあなたが亡くならないと……」
「大丈夫。俺に考えがある」
その一ヶ月後、男は死んだ。