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第八十七話 白地に蔦

【王】急転直下

 将軍山城を下っていく救援部隊は朽木稙綱くつきたねつなが率いる百名ばかり。

 一緒に行きたがる武将は多かったが、朽木の爺さんがそれを押し留めた。

 同行が叶ったのは老いてますます盛んな老将とその郎党だけ。


 彼らは、如意ケ嶽を落とすべく出陣した別動隊千五百を救援するために、混迷極まる戦場へと向かう。


 対するは『白地に蔦』の旗を掲げる松永勢の千。

 半数は如意ケ嶽山頂に、残る半数は伏兵として本陣を急襲している。


 如意ケ嶽山頂に寄せた別動隊五百が踏ん張り、山頂の松永勢は山を下りられていない。

 そのおかげもあり、奇襲を受けた幕府軍は総崩れまで至っていないが、本陣は混乱から立ち直れていない。

 すでに、七百いた本陣は半数程度に目減りしている。

 本陣で暴れまわる松永勢は二百五十。いくらか打ち取っているようで二百程度だろうか。幕府軍の方が人数が多く見えるものの、旗色が悪い。

 大将首を失うようなら一気に崩れ去ってしまいそうな情勢。


 残る半数の伏兵部隊は後詰に足止めされ、包囲されつつあるので大丈夫そうだ。

 こっちを殲滅させれば、本陣を救援に行けるのだろうが、後詰は総勢三百。足止めしている松永勢は二百五十。そうそう決着は付きそうにない。


 ――やはり本陣さえ立ち直れば……救援部隊が辿り着くまで持ってくれ。



 本陣が奇襲を受けて四半刻(三十分)は経ったであろうか。望まぬ状況を見守っているから遅く感じるのか、本当に時が過ぎたのかはわからない。

 どちらにせよ、全力で戦える時間は、とうに過ぎており最初のような激しさはない。

 ボロボロになりながら敵と戦っている。


 本陣の混乱は落ち着いたようだが、乱戦になり小さな集団がそこかしこに出来ているくらいで組織的な反抗が出来ていない。

 誰もがみな、近くにいる敵を打ち払うだけで精一杯のように見える。


 敵も味方も隙だらけのように見える。動きに緩慢さがあろうとも打ち込めず、打ち込まれず。

 おそらく立っているだけでも苦しいのだろう。

 だからといって座り込む者はいない。

 座り込んでいるような者から先に命を失う。


 そこでは立っている者のみが生者であり、倒れ込んだ者が死者だった。



 停滞した空気が漂う本陣に駆けつける一陣の風。

 本来であれば、駆け出さない距離から騎馬武者と郎党が一丸となり、駆け出している。勢いに乗った一団は、味方の間を縫うように突き進む。

 足の止まった松永軍にそれを止められる者はなく、通り過ぎた航跡には、立っている敵兵はいない。


 駆け抜けた本陣。

 息つく暇もなく、反転し再突入。

 いくらか勢いは落ちたが、結果は変わらない。


 その一往復で五十名ほど打ち取ったか、本陣には幕府軍の旗が目立つ。

 これで本陣も落ち着くだろう。大きく崩れずよく持ちこたえてくれた。

 元々、落ち着けば跳ね返せる程度しかいなかった伏兵。もう問題はないはずだ。


 あとは後詰部隊が包囲している松永軍。これも救援部隊が助けに行けば、被害を抑えて殲滅できるだろう。


 如意ケ嶽は落とせていないし、予想外の被害はあったが、大きな傷にならずに済んで良かった。


 ――そう自分を思い込ませようとした時、左手の方角に何かが蠢いていた。


「藤孝! 将軍山城と如意ケ嶽の間。東の方角に何かいるぞ! 幕府軍で動いている奴が他にもいるのか?!」

「いえ! 残る将兵で将軍山城を出た部隊はありません。方向からすると、あちらは比叡山。もしや僧兵が?!」


「馬鹿な! 比叡山が介入してくるはずはない! ましてやこんな小競り合い程度で」

「しかしっ!」


 藤孝くんと口論になりかけたところで、和田さんが駆けつける。


「忍びの者が敵を補足しました! 旗印は三階菱に釘抜。三好の軍勢かと!」

「三好だと! まさか三好長慶が……いや違うか。将軍山城の守将だった三好長逸みよしながやすだな」


「おそらくは。将軍山城を抜け出た後、本隊から兵を借り受け、如意ケ嶽の南側から回り込んだのかと。動きが掴めず、このような仕儀に。忍びの者の手落ちにございまする」

「それは仕方ない。我らは将軍山城を獲るか、退去していく兵を追い討ちをかけるか。目の前の餌にしか目がいってなかったのだからな。それよりも早く手を打たねば!」


「今からでは、再救援は間に合いません。それにここまで周到な策略を描く相手ですから、将軍山城を狙っていないとも限りません」

「どう動いても傷を負うのか……。ならば傷を減らすしかあるまい。すぐに使番を出し、退き太鼓を鳴らせ! 伏兵は殲滅できずとも良い! とにかく退かせろ!」

「はっ! 直ちに」


 この距離感。どこまで太鼓の音が届くのであろうか。

 届いたからといって、別動隊がどう思うのか。

 救援を受け、落ち着きを取り戻した本陣は、これから反転攻勢を仕掛ける段階だった。勢いを取り戻した幕府軍は、伏兵の優位性を失った寡兵の敵を仕留めるべく体制を整えていた。


 退却の命があれば、最終的には退くであろうが獲物を前にして、すぐに決断できるかどうか。


 今は、その躊躇ですら危険だ。

 幕府軍は勝てそうだから気力が漲っているだろう。しかしそれは空元気に過ぎない。

 身体は疲れ切っている。如意ケ嶽に陣取っていた所から将軍山城を奪い取り、追撃を仕掛け、将軍山城を修繕と動き回っていた。

 その後で、この戦闘である。


 何より、三好長逸の兵がどれだけいるか分からない。救援部隊も余力をいくらか残しているだろうが、数は多くない。不意を突かれて三好長逸勢に攻撃を受けては立ち向かえないかもしれない。


 ――頼む。欲張らずに退いてくれ。

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