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第八十一話 穴熊の計

【王】将軍山城 攻略戦〈始〉

 朽木谷メンバー内での軍議を終えた。

 しかし、その内容をどうやって他の奉公衆や御伴衆に伝え、同意を得るか。

 俺は将軍として実績がないどころか、今までの負債を背負っているようなものなので、俺から提案したところで、受け入れられるとは思えなかった。


 それについては、俺に優しい(甘い?)藤孝くんですら同意するほど。

 ここに来て、引きこもり生活の影響が出てしまった形だ。積極的に他の武将や大名と交わっていれば、入れ替わった俺の動きを評価してくれたかもしれない。


 しかし、状況的にそれは許されず、朽木谷のメンバーくらいしか真摯に耳を傾けてくれないという事態に至っている。


 そこで、古くから幕府の要職に就き、将軍を受け入れてきた朽木稙綱くつきたねつなこと、朽木の爺さんに軍議の場で発言してもらえないかという根回しをすることにした。

 朽木の爺さんは幕府軍でも最古参で発言力がある。ほとんどの武将の先輩となるため、家柄の良い御伴衆にも顔が利く。そして俺のことも理解してくれているという打ってつけの人物なのだ。


 朽木の爺さんには、朽木谷で匿ってもらっているだけでなく、石田正継いしだまさつぐさんを紹介してもらったり、猪肉の味噌漬けやポークジャーキー?のヒントを貰ったりと要所要所でも助けてもらっている。



「稙綱よ。わざわざ来てもらってすまん。お主に少々相談したいことがあったものでな」

「上様がお呼びとなればどこにでも参りましょうぞ! 将軍山城に一当ひとあてしてまいりましょうか!」


 相変わらず元気な爺さんだな。

 年よる波のせいかご自慢の筋肉が衰えてしまったようで悲しかったが気力は衰えてないみたいで一安心。

 というより、しっかり引き留めなきゃ勝手に突っ走ってしまいそうだよ。このシュナウザー顔のマッチョ爺さん。


「そういう訳じゃないから! この後に軍議を開きたいんだけど、考えた策を爺さんから提案する形にしたいんだ」


 俺の言葉を聞いて、ほほぅと感心したような声を漏らし、嬉しそうにニヤニヤしだした朽木の爺さん。

 もう朽木谷じゃないから武家言葉で話していたのに、勢いに流されていつもの口調に戻ってしまった。


「上様の願いであれば断ることなど出来ませぬな! この朽木稙綱、上様の御配慮しかと実現させてみましょうぞ!」

「ありがたい。じゃあ、その策なんだけども――――」


 朽木の爺さんと話していると、どうしても孫を振り回す爺ちゃんみたいな感じになってしまうんだよな。こういうの嫌いじゃないけど。




「朽木殿、急に軍議を開くとはどうされましたかな?」

「いやなに、この老いぼれ頭に策が閃きましてな」


「ほほう! 策ですか! 今は次の動きをどうするか決めかねておりましたから、楽しみですな」

「そうじゃろう、そうじゃろう。たまには儂も役に立たねばの」


「そんな。朽木殿は、朽木谷にて上様を御守りすること五年余り。第一功ではございませぬか」

「さよう! むしろこれ以上手柄を立てられては、我らの立つ瀬がございませぬ」


 そうだそうだとばかりに幕臣のお偉方が同意する。それは嫉妬からの発言という感じは受けず、尊敬を集めている先達という扱いのように見える。

 朽木の爺さんの人望を垣間見る瞬間でもあった。


「そんな大層なものではあるまいよ。それより儂の策を聞いてくれんかの?」

「もちろんですとも! 古今無双の忠義者と呼ばれる朽木殿の策。しかと拝聴しましょうぞ」


「ありがたい。策は二つ。まずは離間計。忍びの者を使い、城将の三好長逸と副将の松永久秀を仲違いさせる。どちらも実力者ながら出自が違う。ここの辺りが攻めどころと見た」

「なるほど」

「しかし幕府軍が下賎な忍びを用いるのですか……」


 とある幕臣は、策自体に異論はないようだが、忍びを使うことに忌避感を感じているようだ。

 いつの時代も凝り固まった常識を覆すのは難しい。

 直轄軍なら忍者の凄さを理解しているし、そんな態度を取る人間はいないんだが。


「なぁに、我ら幕臣が間者働きなどやらずとも良かろう。地べたに這いずり回る仕事は忍びの者が最適よ」

「それもそうですな!」


 あえて否定せず、幕臣の矜持を引き合いに上手く認めさせた爺さん。この辺りは、老練さを感じさせる。


 しかもサッと和田さんに目礼まで送っている。話をうまく進めるためにダシに使ってしまったからだろう。

 和田さんも特に怒っている様子はなく、軽い会釈を返している。


 俺が来る前の幕府はこんな感じだったんだろうな。


「次いで、城将たちの連携を悪化させたののちに、城下に火をかけるのじゃ。元々我らの方が兵数は上。やつらは邪魔出来ん! もし打って出てくるなら、それで結構! 野戦なら負けはせん。熱と煙で城に篭っておられんようにしてくれよう! これぞ穴熊の計じゃ!」

「おぉー!」


 すっごい盛り上がってる。狙い通りと言えば狙い通り。でも俺、狸で例えて説明したんだけどな。

 いつの間にやら穴熊に変わってるし……でも狸の計より、穴熊の計の方が語呂が良いのか。

 それに盛り上がっている幕臣たちに水を差すのも悪いしな……。


 それにしても朽木の爺さんノリノリだよ。結構お茶目な人なんだよなぁ。

 シュナウザー似でマッチョで爺さん。身分も高くて、お茶目だけど忠臣。どれだけ属性を積み上げる気だろうか。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「意見」というものは、「何を言っているか」よりも「誰が言っているか」で説得力が決まってしまうという残酷な現実。 しかし、主人公はそれを十分自覚して、朽木稙綱さんに「権限移譲」しているので、…
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