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第七十九話 如意ケ嶽から見る景色

【王】山城国への侵入

 如意ケ嶽からは京の平野を見渡すことが出来る。

 今、登っている迎撃用のいささか低い櫓であってもそうなのだから、物見櫓のような高い櫓となれば、さらに良い景色が見えることだろう。


 朽木谷に逃れる最中に、この世に来た俺にとっては、戦国時代の京の都に望郷の念を感じることはないが、現代とは違う京の街並みに感慨深い思いを感じずにはいられなかった。


 勝てば戻れる京の都。日ノ本の中心にして、室町将軍のいるべき場所。

 今回の戦で三好家に勝ちきれば、いや、勝たずとも優勢のまま和睦できれば六角家とともに京に凱旋できる可能性がある。


 だがしかし、それは三好家が六角家に代わっただけではないのかと思ってしまう。先代の定頼さだよりさんは、幕府のために尽力していたという。しかし当代の六角義賢ろっかくよしかたさんは、そこまで幕府の復権を願っている訳ではないようだ。


 現に最初に資金援助をしただけで、特に何かしてくるわけでもなかったし、復権のために善後策を相談してくるようなことも無かった。

 今回の戦は六角家の焦りのようなもので、行き当たりばったりな感じが否めない。

 降って湧いたような出陣話だったことからも予想が出来る。


 実際、改元にまで影響力を発揮し出した三好家に対し焦る気持ちは分かる。

 ここまで朝廷に食い込まれてしまうと、手も足も出なくなってしまう。まさに三好家単独政権となり諸大名が口を挟む余地がない。

 これで新将軍を擁立して正当性さえ確保されてしまえば、誰が三好家に逆らえようか。上杉謙信さんとか武田信玄さんなら合戦に持ち込めば勝ってしまいそうな気がするが……。


 多分、三好長慶さんは合戦に持ち込ませず、政治的な勝負でケリを付けてしまうのではなかろうか。聞いている長慶さんの動きからすると、戦よりも政治を優先しそうな印象だ。かといって戦に弱い印象も無いんだよな。


 何でも出来るって藤孝くんもそうだけど、敵に回すと厄介だな。弱点らしい弱点が無いのだから。

 明確な弱点を攻めないと相手を大きく崩せない。すでに三好家は強大だ。大きく崩さない限り、優位性を奪うことは出来ないほどになっている。


 しかし、六角家は何か積極的に動いていたわけではなく、京の政事にも口を挟むことはなかったようだ。そこまで気にしていなかったら、いつの間にか大きく水をあけられていたというのが、義賢さんの感想ではなかろうか。


 難しい問題だが、先のことばかりを考えていても仕方ない。

 まずは目の前の問題を片付けないと。


 そう思い直し、遠く広がる京の平野から手前に目線を移す。

 右手前方には、三好軍が籠る将軍山城が見える。


 俺のいる如意ケ嶽からは見下ろす形で、将軍山城の様子が見て取れる。

 出陣準備をしようものなら、城を出る前に察知できる。三好軍からすればやりにくいことだろう。


 こと局地戦で考えれば、こちらは待ち構えているだけで良い。向こうが我慢できなくなって、此処を奪いに来るか、膠着状態のまま優位に和睦するか。

 しかし、ここで小さな勝ちを拾っても仕方がない。

 幕府軍の本来の目的は、三好軍の兵を少しでも多く引き付けて、六角家本隊の負担を減らすこと。それにより、六角家の勝率をあげるのが狙いだ。


 そのためにも、如意ケ嶽に籠って睨みあっていても仕方がない。お互い城に籠っていては、城攻めしかない。城に籠る方は攻め手より少ない兵で良い。

 それは、こちらの目的を達成できないことを意味する。


 だから、将軍山城を奪い、京にいる三好本隊を側面から牽制する形にしなければならない。そう理解しているが、現状は膠着状態。


 それもそのはず。将軍山城に籠る三好軍は二千、対して幕府軍は五千。

 朽木谷で学んだ兵法書には『用兵の法は、十なれば、即ちこれを囲み、五なれば、即ちこれを攻め、倍すれば、即ちこれを分かつ』とあった。確か孫子だったかな。

 この意味は、敵の十倍ならば囲んで降伏を促す。敵の五倍なら攻める。敵の倍なら分断して戦うということだ。孫子曰く、敵の倍の兵をもってしても、分断して優位に戦いを進めよと言っている。

 状況的には、まさにこれなのだが、城に籠る三好軍を分断する策は思いつかない。


 何かで城攻めには三倍の兵が必要と聞いた気もするが、俺の読んだ兵法書には出てこなかった。

 その理屈でいっても、力攻めしてギリギリで勝てるか勝てないかと言ったところだろうか。


 やはり本で勉強しただけで実戦経験がないと、ポンポンと策は思い浮かばない。

 こうなれば、困った時の藤孝くん頼み。といきたいところだが、戦のことであれば、経験豊富な和田さんや滝川さんも呼んで主要メンバーで相談しよう。


 幕府奉公衆の皆さんには、こっちの考えが決まってから諮ってみようか。

 今のところ、お飾りの大将だから発言権が無いんだよね。そこに相談の形で発言したところで、取り合ってくれるか分からないし。


 主要メンバーでしっかり煮詰めて、一発で決めないと。

 誰が提言するかを決めても良いかもしれない。俺より経験も発言力のある和田さんとか。

 自分で言っていて悲しくなるが仕方ない。


 現代でも創業者一族の若社長が、いきなり経営に口を挟んだら、長年会社を支えてきた重役連中は面白くないだろう。

 それでも、いつかは我を通さなければならなくなる時が来るだろうけど、多分、今はその時じゃない気がする。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 入れ替わる前の将軍でしたら、すぐに攻め込むように大騒ぎしていたでしょうけど、それをしないで状況を見て周りの人間に任せる姿は、部下からしたらやりやすいでしょうね。
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