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第三十九話 何事も始めが大事

第十二幕 火中の栗の拾い方

 川中島の戦いと思われる合戦が終わり、武家官位や軍需物資の買取などが粗方目途が立ったので、火縄銃製造事業に招く職人さん探しの相談をすることにした。


 この手の話は藤孝くんに任せておけば万事オーケーだ。彼は何でも出来るイケメンだからね。

 今回の会議メンバーは、藤孝くん、和田さん、服部くんと楓さん。石田さんには和田さんから伝えてもらうとして、小笠原長時おがさわらながときさんは講師派遣業で若狭へと向かってもらったので不在だ。


 その日は、珍しく猿飛弥助さるとびやすけが縁側でボーっと空を眺めていたので、首根っこを掴んで会議に参加させようと目論もくろんだのだが、足音を立てずに近づいたのに、あと一歩で襟を掴めるとなった瞬間にスルリと逃げられてしまった。


 逃げるときのあいつの顔ときたら、いたずらが成功したようにニヤニヤしやがって。あの野郎、最初から気が付いてたな。

 やれやれ、何であの時、猿飛を捕まえられると思ったのか聞いてやりたいよ、俺に。普段はあんな奴だけど、優秀な忍びなんだよなと再確認した。



「さて、本日集まってもらったのは外でもない。駿河に派遣した忍者営業部からの報告で、甲斐、越後に軍需物資の買取と官位任官の営業をかけてもらったところ、大きな契約が取れました! さらに、楓さんの発案の西陣巾着が飛ぶように売れているそうです!! ――――皆さん拍手!!!」


 パチパチパチ……………。テンション上げて声を張り上げた俺。拍手をしている俺。


 しかし拍手をしているのは俺だけだ。みんなキョトンとしている。

 おかしい。こういう時はみんなで拍手でしょう。もしや拍手の文化はまだ無いのか。

 商社で大きな契約が取れると、こうやって朝会で報告してみんなで褒めるのに。


 歌が終わったと思って拍手したら、まだ歌が終わってなかったときみたいじゃないか。……恥ずかしい。


「……ゴホン。楓さん、忍者営業部のご家族の方で裁縫が上手な人は何人くらいいるかな?」

「………。五人くらいでしょうか」


「良し! それじゃあ、その中で巾着の内職をやってくれる人を探してほしい。ちゃんと給金は払うから。それと慣れるまでは、端切れの組み合わせは楓さんが決めて内職の人たちは縫うだけにして。えーと、それから……」


 いかん。早口になってしまっている。これでは、恥ずかしくて誤魔化ごまかしているように見えてしまう。


「ふふふ。わかりました。そのように致しますね」


 普段クールでキリっとしている楓さんが微笑みながら話を引き取ってくれた。

 くそっ。ズルいぞ。こんな時に優しくされたらグラっときてしまうではないですか!

 そして年上のお姉さんに見透かされているような感じがして、面映おもはゆい。

 うん、失敗も悪くないよね。


「あ、はい。そのようにお願いします」


 なんだかモジモジした返事をしてしまった。これでは、まるで童貞丸出しじゃ……ど、ど、童貞ちゃうわ!!

 うんうん。お約束って大事だよね。おかげで少し落ち着いてきたな。


「上様、それで今日のお話というのは?」


 安定の藤孝くん。見事なスルースキルで、さも今から会議が始まったかのような声掛けですね。大事だよね、スルースキルって。

 大人って見ちゃいけないもの見ても、見なかったことに出来るから大人って言えるんだと思う。カツラだって、鼻毛だって強靭な精神力でもって目線がそこに行かないように耐えられるのだから。


 決して子供のように、面白いことに飛びついて揶揄からかってはいけないんだ。ここには大人ばかりで良かったよ。猿飛はいないで正解でした。


「そう。話というのはね、武家官位関連で百四十貫ほどの儲けが予想されるんだ」


 ゴクリ。と服部くんが唾を飲む音がする。可愛いな、お前さん。図体は全然可愛げが無いんだけど。


「そんでさ、忍者営業部は行商だけで安定的に利益が出ているし、今回の官位とか米の買い付けとかで大きく儲かった。だから、その資金で火縄銃製造事業を一気に押し上げようと考えてる」

「大きくですか? 具体的にはどうなさるのです?」


「良い質問だ。主に藤孝くんに動いてもらうことになる。まず資材。月に百丁の火縄銃が作れるだけの資材を手配して欲しい」

「百丁分とは豪気ですね」


 ふふふ。藤孝くんまだまだですね。そんなものでは済まないよ?

 イケメンの驚く顔を見せておくれ。


「今は試作品第一号が出来ただけだけど、一年で……数千丁を作れる規模にしたいと考えているよ!」

「それはまた……。続きを聞きましょう」


 ス、スルーだと! 何と、ここでもイケメンのスルースキル発動!

 くそっ。言葉は詰まったけど、すぐに立て直すし、顔に驚きも出なかった。

 仕方あるまい。今回は退いてやろう。


「そして職人。滝川さんの兄弟子は鍛冶師が本業だから、そっちに専念できるように木工職人と金具職人を多めに。鍛冶師も集められるようなら集めて。刀に槍、やじり。今は作っても作っても欲しがるところは多いから」

「そうですね。となると職人を集めるのは苦労しそうですね」


「うん。そう思う。そこで今回の豊富な資金を役立てる。支度金や給金、名目は何でも良いから腕の良い職人を探してほしい。そしてその技術を清家の里に集めた火縄銃製造部の人たちで習得してもらう」

「なるほど。では、そう多くの職人を集める必要はないのですね」


「予算内であれば多くても良いけど、無理に集める必要はないよ。それと火縄銃製造部には甲賀周辺の人を集めてもらっているけど、こっちはもっと集めて欲しい。もちろん里で管理できる範囲でね」

「それは滝川殿と相談ですね。こっち人員は多くして構わないのですか?」


 火縄銃製造のペースが上がれば、売上も伸びる。それに人が増えれば、硝石作りに必要な糞尿も増える。硝石は色んな方法で製造を試しているけど、多すぎて困ることはない。金が足らなくなれば硝石も売れる。里の維持費など優に賄えるはずだ。


「大丈夫。火縄銃製造部には、生産職として入ってもらうけど、適性が無い人には別の道を考えていてね。直轄軍の足軽隊を組織しようと思うんだ」

「直轄軍の足軽隊。それは旧来の幕府の足軽隊ではなくという意味ですね。常雇いとするわけですか」


 そう。今までの幕府では、足軽隊というと名を上げるために集まった武士階級の部隊だった。今回の俺の言っている足軽隊は、身分を問わない専業の兵士。歩兵ともいうのか。今までの慣習もあるから名前を変えてしまう方が混乱は無いのかもしれない。


「その考えで合ってるよ。専業の兵士集団。幕府歩兵隊と名付けようと思う」

「そ、某もその幕府歩兵隊に入れるのでしょうか?!」


 思わず、話に飛び入り参加してしまった服部くん。

 凄い食いつきで前のめりになっている。

 そうだった。服部くんは忍びとしてより槍働きをしたいって希望だったもんね。

 前線で戦いそうな歩兵隊が出来るなら参加したくなってもしょうがないか。


 現状だと、護衛という立場だからいつも一緒にいるけど、特にこれと言ってやる事も無く、槍の修練と硝石作りくらいしかお仕事していない。


「服部くんは興味ある? そうだね。君は護衛任務だけど、今は忍び人たちも増えてきたし大丈夫かな。和田さん?」

「はっ。猿飛も朽木谷に居ついておりますし、私が不在でなければ問題ないかと」


 和田さんがこれだけはっきり言ってくれるなら問題ないだろう。それに今のところ、暗殺騒ぎも無いし、朽木谷に配置された忍びも増えているらしいし大丈夫かな。

 でも増えたっていう忍びの人たちを見たことが無い。一体どこにいるんだろうか。


「では服部くんには幕府歩兵隊に入隊するのではなく、槍の指南役として行ってもらおう。他の時間は混ざって訓練してても良いから。ただ定期的にこっちに戻ってきてね」

「某が指南役! ありがとうございます! 精一杯努めます!」

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