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第百七十七話 流言飛語

戦火広がる

永禄五年如月(1562年2月)

近江国朽木谷


「義輝様には細川・伊勢の討伐を願いたし……か」


 あれから義興くんとは書状のやり取りを重ねている。もちろん長慶さんとも。

 ただ、どちらとも敵地を越えてのやり取りのため、時間が掛かってしまっている。

 既に永禄五年二月に入ってしまった。情報収集と反攻作戦の打ち合わせが始まったのが一月。段取りを決めるだけでひと月もかかってしまった計算になる。


 若狭戦線の戦いを終え、年の瀬に山城戦線の援助に向かい、細川晴元の蜂起の報を聞いた。それから三好軍は摂津国へと下がり、幕府軍は朽木谷で足止めをくらった。


 電話もメールもない状況。情報を集めるのも人の目が必要だし、情報を運ぶのも人力だ。忍者営業部のお陰で、いくらか短縮できているけども敵地を通り抜けるには相応の時間が掛かってしまう。


 それだけ時間をかけて決まったこと。三好軍の全軍の足並みをそろえて京の奪還に向かうということ。そして、元凶である細川のおっさんと伊勢貞孝を筆頭にした細川・伊勢派閥の者たちを取り逃がさぬよう、こちらが動くということ。それだけ。


「和田さん、こんな感じの依頼だけど何とかなるかな?」

「はてさて。今のところ相手の陣立ても不確定。何とも言えませんな」

「元管領殿は旗印となっているのですから、前には置かないでしょう。現実的な配置で考えるならば後方寄りになるのではないでしょうか」


 いつもと違い、こういう場で積極的に発言をする光秀くん。側仕えから武将として歩むことを決めたからか軍議に臨む姿勢が変わってきた気がする。


「それはあり得る。そも、それしかあるまい。予断は許されぬが」

「じゃあ、本陣か後詰の方か。どちらにせよ後方ってことだね。三好軍に向き合う六角軍の後方にいる幕府軍としてはありがたい配置になるってことだ」

「推察するに三好家でもそう考えているのではないかと思われます。世間では幕府軍に力は無く、脅威となりえないと見られているでしょうから」


 随分ハッキリ言いますね、光秀くん。遠慮が無くなって良いこともあるけど、残しておいても良いこともあるんだよ……。


「能ある鷹は爪を隠す。今の幕府直轄軍にぴったりの言葉ですね」


 俺の顔色を見た藤孝くんは、すかさずフォローに入る。


「藤孝様の言はご尤も。相手の油断を誘えれば、我らの目的を達成するのも容易になります」

「相手の油断もそうですが、動きを支配できれば目的を達するのも容易いかと」

「どういうこと?」


「まずはこちらの地図を。京の守りを考えれば、山崎の地を抑えるのが一番。しかし、この地は丹波方面にもつながっており、そこからの敵を迎え撃つには不利になりかねませぬ。となれば、勝竜寺城あたりを本陣にするでしょう。この中に彼の御仁たちが籠られると厄介」

「山﨑の地は細く大軍を展開しにくい打って付けの場所だね」

「それでは山崎の地を封鎖して、丹波方面の敵と対峙する手もございませんか?」


「そうなれば、本陣はその中間あたり。やはり勝竜寺城あたりとなろう。六角家が二面作戦を採れば、必然本陣は手薄になる。それならそれでも良かろう」

「なるほど。その場合は、どうやって勝竜寺城を落とすかという点が大事になりますね。幕府軍は千二百程度。勝竜寺城が大きくないとはいえ落とすには少なすぎます」

「出来るなら城に入らないで京の都に残ってもらうのが一番なんだけどね」


「無くは無いでしょうが……。やってみますか?」

「えっ、出来るの?」


「成功するかはわかりませぬ。彼の御仁が勝竜寺城に入りたくならないようにするために噂を流してみればと考えた次第。内容も決まっておりませぬし、相手が信ずるとも限りませぬ」

「やらないよりは全然良いよ。細川勢だけなら幕府直轄軍でも何とかなるし。城に籠られたら、三好家の戦い次第ってことで」

「和田様、具体的にはどのような手段を?」


「忍びの常道である流言だな。戦場のどさくさに紛れて民が武士を襲うというのは良くあること。彼の御仁が京を離れ勝竜寺城に入るなら本願寺門徒が襲う計画だという話も良い。あとは若狭武田家の援兵を引き連れて、上様が京の奪還の準備をしているという話でも良いか」

「なるほど。むしろ若狭武田家だけでなく、越後上杉家の支援も受けるというのはどうでしょう?」


「ふうむ。越後上杉家は甲斐国や上野国との戦に忙しいが……。上杉殿の行動力と上様との関係を鑑みれば、全くないとも言えんな。それも一部混ぜてみるか」

「ありがとうございまする。その話が信じられなくとも、若狭武田家の兵を引き連れるという話は無視できないのではないかと」

「距離的にも難しい輝虎さんはまだしも、助けられたばかりの若狭武田家なら、あり得そうだもんね」


「はい。若狭武田家も朝倉家などに備えるために多くの兵を送ることはできないのは周知の事実。幕府軍の数が多くないのであれば、京に残す兵も多くならないでしょう。特に京に拘っている元管領様が残られるのは自然の流れかと思いまして」

「この策が上手くいけば、三好家への支援にもなりますね」

「ああ、そういう意味でもやってみる価値はあるな。案外、本願寺の方の脅しが効いたりして」


 細川のおっさんって本願寺から相当嫌われてるもんな。いくら面の皮が厚くても、自分から危険に近寄ろうとなんて思わないだろう。ましてや戦場に出向くとなれば、敵に襲われても文句も言えない。多少距離があろうとも、あれほどのことを仕出かした仇敵が戦場にいるなら襲撃を考えるのは当然のことだろう。

次話から動きが激しくなるので現況配置図を貼り付けました。

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