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第十六話 人を頼ると、すんなり進む

第五幕 義藤って意外とインドアだったらしいので

 硝石作りは時間がかかるようだから、すぐに取り掛かることにした。

 だけど、将軍である俺が厠の土を掘り返すわけにもいかず、幕臣のほとんど公家みたいになっている文官だから、これもまた無理だった。


 そこで、日頃、槍を振ってばかりいる服部正成はっとりまさしげ、愛称ガチムチ服部くんに肉体労働をお願いすることにした。

 朽木谷は、それほど世帯数が多いわけではないので、修練の隙間時間に集めてもらうだけでも充分終わる見込みだ。


 あとは、その土に水を混ぜ、水に成分を溶け込ませたら、それを煮込んで濃縮する。そこに灰を入れて、さらに煮詰め、残った液体を析出せきしゅつさせれば完成する。

 煮込んだりするくらいは俺にも許されたから、土集めを服部くん、煮込みや精製を俺と楓さんという担当割で行っていた。


 楓さんは匂いに顔をしかめながらも手伝ってくれた。

 どっちが釜に土を入れるかで、ちょっとした言い合いになっちゃったけど、男としては楓さんにやらせるわけにはいかない。だって糞尿にまみれた土を扱うんだよ。


 あんな美人さんに、そんな汚らわしい物を扱わせるわけにはいかないでしょ。

 本来なら、猿飛弥助が手伝うべきなんだけど、あいつはいない。カエルを捕まえに行ったらしい。その伝言を聞いた時には、もう姿が見えなかった。



 楓さんは、相変わらずの無表情で淡々と火に薪をくべてくれている。

 最初、屋敷の台所でやろうとしたのだが、楓さんにこっぴどく怒られて、裏庭で簡易的な、かまどを作って作業中だ。


 もう怒ってないと思いたいのだが、表情が変わらないので、正直読めない。

 ここは下手に出て話の取っ掛かりを作ってみよう。


「こんな作業につき合わせちゃってごめんね」

「いえ。放っておくと何をなされるかわかりませんので」


 えっ? 今の皮肉だよね?

 どう好意的に解釈しても良い意味じゃないよね!

 こんな匂いのするものを台所でやろうとしたのは間違いだったよ。

 ここまで凄い匂いがするとは思わなかった。


 きっとそのことを言っているんだろう。


 いつになったら楓さんと打ち解けられるのだろうか。

 考え事をしながら、黙々とかき混ぜていると楓さんから声をかけられた。

 うん、美人さんは声までキレイだ。


「この土が無くなってしまったら、どうされるのですか?」

「服部くんが村から集めてくるから、まだまだ続くよ」


「それでも多くはないですよね」

 厠の土だから人が多くいるところじゃないと、どうやったって枯渇する。

 海外では、牛や豚なんかの厩舎の土を使っているらしい。


 戦国時代だと肉は食べないから、食用の牛や豚などの畜産を行っていない。

 この時代で食べる獣肉だと、鳥か兎になってしまうんだ。

 あとは猟師さんが、鹿や猪を獲ったりすれば食べるようだけど一般的じゃない。

 猪って家畜として増やしていくことはできるのかな?


 ふむ。兎か鳥。どちらか畜産できるかな。

 畜産事業が軌道に乗れば、塩硝生産のための材料作りにもなるし、食料の確保にもつながる。


 兎か鳥のどちらにするかだけど、現代だと鶏肉がポピュラーだから、そっち良い気もする。だけど、鶏を見ないんだよな。

 他に鳥肉のイメージで言えば、軍鶏とか地鶏なんだけど、戦国時代ってこういう鳥肉を食べてないのかな。


 今度、藤孝くんに聞いてみよう。


「そうだね。十年くらい経った土じゃないとダメらしいから限りはあるね。だから硝石は貴重なんだ」

「そうですか。巷では長い時間をかけて作るのですね。その方が品質が良いのでしょうか」


 品質? 作り方によって品質に違いがあるのか?

 海外から伝わった製法は、これだけだから比べようもないんだよな。

 むしろ他に作り方があるなんて知らなかったな。


「あれ? 他にも作り方があるの?」

「はい。忍びも火薬を用いますので古来より硝石を作ってきました。穴を掘ってヨモギの葉と尿を混ぜて埋めておけば、この土と同じ効果が得られます。その製法の方が早く硝石を得ることができますよ」


「何それ! 初耳だよ。みんな知ってるの?」

「甲賀の者であれば皆が知っております。……あっ、でも上様にお教えして良かったのでしょうか。兄上に確認してまいりますので、それまでご内密にお願いしますね!」


 そう言うや否や、駆け出して行ってしまった楓さん。

 知的なクールビューティーの楓さんが、少し焦って取り乱しているのって、ちょっと可愛い。そして足が速い。さすが忍び。


 おっと、火加減も調整しないと。

 釜をかき混ぜながら火加減もチェックするのって忙しいぞ。

 コンロと違って火加減を調整するのも難儀する。


 立って釜を混ぜて、火加減を見て薪をくべたり除けたり、立ったり座ったりの繰り返し。結構しんどくなってきた。


「あんちゃん、忙しそうだね~」

「帰って来たのか、猿飛。良かったら手伝ってよ。楓さんが離れてから、結構しんどくってさ」


「いや~、おいら長いことカエルと格闘してきて、たくさん汗をかいたし、泥だらけになっちゃったんだよ。だから水浴びして昼寝したいんだよなぁ」


 田んぼにカエル取りに行ったって聞いてたけど、カエルと格闘ってなんだよ。

 しかも足元ですら全然汚れてないじゃん。それで本当に汗をかいてるのか疑問だ。


「猿飛に敵うほど強いカエルなんているのか?」

「あはっ! やっぱ、あんちゃん面白いな。おいらに敵うカエルなんているわけないじゃないか。そんじゃね~」


 ツッコミどころ満載だぞ。その返事。

 忍びとして卓越した技術を持つ猿飛弥助をして、カエル程度に苦労するわけないじゃないか。

 もしや、でっかいカエルに乗っかって、忍術をぶっ放すおつもりでしょうか。


 冗談はさておき、猿飛は汗をかいてるわけないし、カエル捕りを朝早くから昼過ぎまでやり続けるようなものじゃないだろう。

 猿飛は手ぶらだったし、カエルが欲しかったわけじゃないようだしな。

 そういや、この間の虫捕りに行った時も手ぶらだった気がする。

 一体あいつ何してんだろ。

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― 新着の感想 ―
[一言]  ハエ(義藤)をつけ狙うカエル(三好の刺客)と戦っているんかね?
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