表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
110/199

幕間 猿飛弥助 伝 弥助のお仕事

室町武将史 二つ名 猿飛

「そんじゃ行ってくんね~」


 装備は良し。

 食料も持った。

 お日様は楽し気に顔を出しているし、ふわりと通り抜ける風は心地良い。


 猪太郎と猪姫とたくさん遊ぶぞ~!

 あいつらが好きな菜っ葉を多めにしたし、体をこする藁束も準備万端。

 きっと喜ぶだろうなぁ~。


 今日こそは抱っこまで行けるといいんだけど。

 猪父と猪母には抱っこどころか背に乗って走り回るくらいまで仲良くなったんだけどさ。猪太郎と猪姫はまだちっこいから、背中には乗れないんだよね。


 そもそも抱っこすらできないから、背中に乗ったりしたら嫌われちゃいそうだけど。


 朽木谷のはずれにある猪小屋には番の猪が一組育てられている。この前、子供が生まれて一か月くらい。あんちゃん(義輝)待望の猪の子供が生まれてみんな大喜びだった。


 御多分に漏れず、おいらも嬉しかったんだよね。

 遊び相手が生まれたんだし! やっぱりさ、大人の猪父や猪母だと遊び相手になりきれないっていうか。どうしても野生の部分が残ってて、心が通い合わないっていうか。


 猪母なんか子供がお腹にいるって気が付かなくて、いつものように飛び乗ったら、振り落とされてスゲー怒られちゃったもん。

 わかるわけないっしょ。猪のお腹ってみんな真ん丸してない?


 せっかく仲良くなってたのに猪母につられる様に猪父にも嫌われちゃってさ。

 山に入って果実を採ってきては、献上するって日々繰り返してやっと機嫌を直してもらえたんだよ。

 いや~、信頼って失うのは一瞬だけど、築き上げるのは時間かかるよね。

 勉強になったよ。


 そんでさ、猪父の背に乗って山々を駆け巡る計画もいったん白紙に戻さざるを得なくなっちゃったんだよ。

 仲直りしているうちに、猪母のお腹が、おいらにもわかるくらいに大きくなっていって、猪父も側を離れなくなっちゃったんだよね。


 猪の背に乗らなきゃ山に入れないって訳じゃないよ?

 おいらこれでも二つ名持ちの忍びだしさ。

 じゃあなんでかって?

 そんなの簡単。面白そうだからさ。


 きっとさ、里の子供たちも喜んでくれるし、あんちゃんも驚いて褒めてくれる気がするんだよね~!

 そのうち、里の移動も全部猪の背に乗って移動していたら、人気者になっちゃうんだろうな。いや~、困った、困った。


 そんな遠大な計画があるけど、猪太郎と猪姫が大きくなるまでの我慢。

 猪父と猪母の仲は睦まじく、育児を共にしているせいで、下手なことも出来ないし。


 だからさ、今から餌付けして仲良くしておけば、猪太郎と猪姫が大きくなったら兄弟みたいになるんじゃないかって。おいら知ってんだ。光源氏もこうやったんでしょ。

 あ~、早くあいつら大きくなんないかなぁ~。



「お、いたいた」


 猪小屋まで来ると、小屋を囲う柵の中で、猪太郎と猪姫が走り回っていた。

 猪太郎と猪姫はどっちも泥を擦り付けるのが大好き。

 わざわざ泥んこのとこで寝転がって背中をゴシゴシ。


 あいつら今日もかわいいなぁ。


「猪太郎! 猪姫! エサ持ってきたぞ~」


 おいらの声を聴くと嬉しそうに駆け寄ってくる猪太郎と猪姫。

 目をキラキラさせてる様は何とも言えないくらい愛らしく、興奮してフガフガ言ってしまう貪欲なとこも愛嬌抜群だ。


 おいらは昨日のうちに取っていた果実と菜っ葉を二人にあげると両手でそれぞれを頭を撫でた。


 もともと毛並みはゴワゴワなのに、泥がこびりついて余計ゴワゴワだ。


「仕方ねえな~、もう」


 持ってきた藁束で体を擦ってやるべく、柵を一っ飛びで超えて中へと入る。

 そうすると猪太郎と猪姫が体をおいらに擦り付けに来るんだよ。

 かわいいんだけどさ、まだ体に付いた泥が乾ききってないから、おいらの着物は泥だらけ。また楓姉ちゃんに叱られんなぁと、ちょっとは思っちゃう。

 でもさ、こうなると猪太郎と猪姫の匂いに包まれるから好きなんだよね。


 そうしていると猪太郎と猪姫の体もだいぶ奇麗になるんだけど、泥の塊が付きっぱなしのとこがあるから、そこを丹念に擦ってあげる。

 二人とも気持ちよさそうに目を細めてるのが、たまんないんだよね。


「よーし、これでおしまい! そんじゃあ、猪父と猪母に挨拶してくんね」


 名残惜しそうに手の匂いを嗅ぎ続ける猪太郎と猪姫。

 そんなことされたら行きにくいじゃんかよ~。


 後ろ髪を引かれる思いで振り切って、猪父と猪母に挨拶を済ませる。

 子供たちだけに挨拶していくと拗ねるんだよ。大人げないよね。


「さぁて、お仕事すっかなぁ~。山でこいつらの好きな果実が見つかるといいんだけど。それと虫取りもしないと」


 どうも山に入り込んできた間者がいるんだよな。まだ数は多くないけど、あんちゃんとの約束もあるし、退治しておかないと。

 猪太郎たちの匂いをつけてもらったから、間者連中には気が付かれることもないし。


 まあ、おいらがそこらの間者に気取られることなんてないんだけどさ。

 匂いを気にしなくていいとなると楽なんだよね、近寄るのが。


 今日も簡単なお仕事になりそうだな。

 むしろ、あいつらの好きな果実を探し出す方が骨が折れそうだよ。

 でもね、おいらが名付けた光源氏計画のためにも、猪太郎たちが好きな果実を見つけるまでは帰れないぞ。


 うし! 今日も気合入れて行こ~!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] …どっちが紫の上?
[良い点] 猿飛弥助、異世界転生物なら超一流の暗殺者にして超一流のテイマーになれますね。 [一言] でも、こんなに猪をペットみたいに可愛がっていると、食べられなくなったりしませんかね? それとも、弥…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ