確信
「なんて素敵な日だ」と歌いたくなるような青空とそれに全く似つかない黒服の団体。行き先を間違えたなと思いながらもなんとか目的地まで着いてひと安心。
組員たちは意外と海にはしゃいでいる。スーツ姿で。海を見ると自然と落ち着く。みんなそれぞれに浜辺を走ったり、足を海につけてみたり楽しそうだ。
強面のおじさんたちがはしゃいでいる。その中で会長はどこだ?と辺りを見渡すと屋根があるベンチに腰かけて海を眺めていた。その横には山岸さんが常に立っている。私の視線を感じたのか会長がこっちを見て手招きをしている。私は全速力で会長の元に走り「お呼び…ですか?…」と息を切らして言った。
「まるで飼い主に呼ばれた犬みたいだな」と言われ、私は少しムッとした顔をした。その顔を見て会長は微笑んだ。会長はズルい。その顔を見てしまうと私はなんでも許してしまう。彼はそのことを分かっているのだろうか。
早起きしてたくさん作ってきたお弁当を広げた。黒服の組員たちがおぉーーと言って群がってきて、我先にと食べてくれた。決して見た目は美味しそうじゃないのに、みんな美味しい美味しいと連呼してくれた。会長も「見た目よりは美味しい…」と言っておにぎりを食べていた。そんな光景を見ていると私の居場所はここなんじゃないのかと思った。というよりそう思いたかった。
みんなが食べ終わる頃、大量のお弁当作りと慣れない運転で私はぐったりして、帰り道は他の組員に運転を任せて会長と後部座席に座った。乗ったところまではなんとなく記憶があるが、どうやら私は会長にずっともたれ掛かって熟睡していたようだ。事務所に帰ったところで、会長に「おい、起きろ。着いたぞ」と言われるまで全く意識がなかった。寝ぼけている私を会長はひょいと持ち上げ、お姫さま抱っこをした。私は恥ずかしくて一気に目が覚め、「一人で歩けます…」と言って下ろしてもらおうとしたが、「このまま運んでやる。あれだけのお弁当、相当早起きしたんだろ。ありがとな」その言葉と顔の近さに会長の表情を見られなかった。やっぱり会長はズルい…。私は会長に好意を抱いている。そのとき確信した。