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7.お嬢様はお手伝いをする





光属性であることが判明してから早いもので三ヶ月が経ち、ローザリンデの日常に様々なことが加わった。

これまで以上に忙しく教育が始まり所作はもちろんのこと、邸宅だけでなく王城でも歴史や経済、他国情勢等を学ぶ日々。加えて護身のための基礎体術にまで至る。


そして王城の一角に本拠を構える魔術師団へも度々訪れていた。座学と実地のためだ。


「ごきげんよう、イザーク様」


「やあ、いらっしゃい」


イザークは執務室で書類に目を通しているところだった。五つある魔術師団の中で彼は第二魔術師団に属している。

主に団全体の進捗管理や魔術師配置、討伐日程計画などと言っていたが、他にも何でもやっているような気がした。これまでに知った彼の人柄からすると器用な質も相まって、様々な雑務を押し付けられていることが窺えた。


「早速で悪いんだけど、人手が足りなくて。回復薬のサポート頼めるかな?」


「はい、すぐ参ります」


ローザリンデは一人で作業の部屋へ向かった。エルマはこのエリアへ立ち入ることができないため、王宮侍女から高度な技術を習得するべく到着すると別棟へ離れていた。


執務室には今三人おり、隣は会議ができる大きな部屋と資料棚、その隣が十人ほど詰め回復薬や火炎弾等の生成をする部屋がある。

静かに作業部屋へ入ると、すぐに声がかかった。


「おはようローザちゃん!急ぎでやらなきゃいけなくて困ってたの。かき集めても足りなくて。来てくれて助かった〜」


「ごきげんよう、アメリア様。すぐお手伝いいたしますね」


元気な声の主はげんなりした顔を上げると一転して、希望を見つけたとばかりに喜色をあらわした。

アメリアはこの第二魔術師団に在席しており、イザークと共に様々なことを教えてくれた。少しクセのある茶色い髪をひとつに束ね、いつも明るく動きが早い。


「えーっと、回復薬を二千は欲しいのよ。あと一時間ってところね……間に合わなければ千五百でもいいわ」


「承知しました」


「じゃ、よろしくっ」


そう言ってローザリンデの手にシャラシャラ音をさせて中身の入ったガラス瓶を渡した。彼女は別のことに忙しいようで、すぐ他の魔術師のところで話を始めている。


(二千……)


言われた時間は随分と慌しい。

近くに座るとすぐさま瓶の中にあるころころ丸い飴のような粒を取り出し、魔力を込めて回復薬を作っていく。

直接肌に触れる治癒とは違い、回復薬を摂ることで傷や熱といった症状を軽快させ、体力・魔力を回復させる。安価で万人に使えるが長期保存できないことが難点だ。


今ローザリンデが主に取り組んでいる回復薬の精製。治癒は少し苦手だ。


初めの頃に比べれば、幾分時間をかけず作れるようにもなってきた。そうは言っても解熱や疲労回復程度のもので、もっと効果の高い回復薬が作れるようになりたいのだが、まだそこまでには至っていない。


(魔力を込める、貯める、移す……曖昧で見えなくて難しいわ)


ここへ初めて来たときに説明されたのは魔力と魔術の関係について、そして魔術師団の役割。

争い事があれば、防御にも攻撃にも魔術は必要になる。それを操る魔法騎士は常に危険と隣合わせだ。綺麗事ではない現実がすぐ間近だということも伝えられた。


そして他の属性であれば多くの者と共に学舎で学ぶ年齢なのだが、ローザリンデはすぐにでもと請われ魔術師団への協力が国より正式に求められた。そのため、個別に家庭教師の指導や王城での教育を受けることになったのだ。回復薬作りは要請でありまたこの国の臣下である以上責務でもある。


「どう?ああ、いいわね。綺麗にできてる」


黙々と続けていたローザリンデの手元から一粒摘むと、アメリアは仕上りを確かめた。元々の粒よりほんのり輝きが加わり、効果が込められているとわかる。


「まだ半分ですが……」


「上等よ。早いじゃない」


「もっと手際良く作れるようになりたいのですけれども……うまくいきませんわね」


「何言ってるのー!いつも疲れたの痛いだの文句ばっか言ってくる奴らが、最近の回復薬は質がいいって評判なのよ?自信持ってちょうだい」


アメリアの言葉にローザリンデはくすぐったくも誇らしい気持ちで満たされる。


「疲れてない?続けられる?」


「はい、大丈夫です」


「じゃ、残りをお願いね。終わったらお茶にしましょう」


こくりと頷き、作業を続けた。


魔術師団は身分より実力や経験がものをいう。国防を担う立場に爵位や金など何の役にも立たないからだ。

イザークは伯爵家の三男、アメリアは商家の出らしいが、魔力が多いため貴族のしがらみから離れ自身の力で立場を手に入れた。

令嬢のローザリンデとはわけが違う。


アメリアは十九歳だと言っていた。女性であるが主任という立場だそうだ。ローザリンデには兄がいるのだが、もしも姉だったならばこのような感じなのだろうか。


魔術師の彼らが砕けた口調なのは年齢や上下優劣を考えるのが面倒だから、らしい。確かにここでは地位も年齢も性別も関係ない。社交に係わることもほぼなく自由に見えた。

ただ、大人には色々あるんだけどね、とも話していた。






「できましたわ」


「ありがとう〜!間に合わないと思ってたのよ。本当に助かったわ」


「お役に立てて光栄です」


これから出立する騎士団の携行品なのだが、予定外のため予備を出し周辺薬屋から集めるにしても時間がなかったようだ。すぐに他の準備品と共に届けられた。


「あっちに座りましょう。ちょっと待っててね」


窓際のソファーとテーブルを目配せで示され、そちらへ向かった。

ローザリンデは紅茶を淹れたことがないので、こういうときはアメリアに給仕してもらっていた。侍女ではないのに申し訳ないと思い、今度エルマに淹れ方を教えてもらおうと決めている。


ちょこんとソファーへ座ると、自然に息が漏れた。仕上げる時間を気にして、少し根を詰めてしまったらしい。まだ昼前だというのに瞼が重いような気がした。

だから伏し目がちで、側に誰か近付いていても団の誰かだろうと思い、視線を上げて確かめることはしなかった。


「ローザ」


名を呼ばれ、弾かれるように顔を上げた。

何故なら、その声の主はこちらが願っても会うことが叶わない人だから。


「ジークハルト様……」


思い浮かべた人が間違いではなく、そこに立っていた。瞬間、視線はいつも絡め取られる。深い色は呑まれそうで怖くもあるのに、高貴なその色はやはり綺麗だと思わずにいられなかった。


「顔色が悪いな」


いつもの静かな声で少し気遣わしげに言われ、そんなに酷い顔をしているのだろうかと自分の配分能力のなさに悔しくなる。


「大丈夫です」


「無理したんじゃないか?魔力は使えば尽きる」


そう言って指先でローザリンデの髪を一房すくい上げ、二度三度と確かめるように毛先を撫で弄ぶ。

ジークハルトには意味を持たない気まぐれな行為だったのかもしれないが、された方は堪ったものではない。まるで慈しむような慰める代わりのような仕草は、言葉で言われるより何倍もローザリンデの心を乱した。





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