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エピローグ

「さてと……呼び出された理由、分かるわよね?」

「はい。僕の処罰について、ですよね」


 昼時のギルド内。カティエに呼ばれたエトル。


「どんな理由にしろ、言いつけを破っての外出は認められない。確かに冒険者は自由だけど、その自由にもルールがある。貴方のような新人を簡単に失わせないためのね」

「はい」

「……素直に受け入れる、って態度ね。よろしい」


 真剣な顔で受け入れる姿勢を見せているエトルに対し、軽く頷いた後に一呼吸入れるカティエ。


「……残念だけど」

「……っ」

「特にないわ」

「……えっ!?」


 処罰に関して何もなし。あまりにも予想外な言葉にエトルは驚いてしまった。


「もちろんあるにはあったけど……それ以上に今回の状況から見れば『出ざるを得なかった』というのが大きいわね。所属していた冒険者がガルーダ討伐に行っちゃってたと言うのもあるし、もしあの時エトルが積極的に動かなければ状況は悪化していた可能性もある。最悪1人……ううん。街の人たちが命を落とした可能性もあった。……本当に、ありがとう。エトル」

「……で、でも!」


 褒め慣れてないような感じで、エトルは両手を慌てて振った。


「でも街の外に出るなと言われていたのは事実です! それなのに……何もないってそんなの……」

「……はぁ、分かったわ。それだけ言うなら……」


 そう言ってカティエは棚から本を1冊取り出す。依頼の内容が書かれたページを集めた本だ。カティエはそれらを1つ1つ確認するかのように指さしていった。


「これは街のおばあさんからの依頼……あぁ、骨董品店屋の依頼に、最近子どもが生まれた親からの依頼……たくさんあるわね」

「……もしかして」

「えぇ。そんなに処罰受けたいなら、これら全部やってもらうわ。簡単でしょ?」

「か……簡単……?」


 同じように内容を見ていたエトルだったが、いくつかは難しそうな依頼があった。

 確かに処罰は受けると言った。だが流石にここまで、全部やるだなんてとは思いもしなかった。

 とはいえ自分が言い出したことだ。受け入れるべきだろう。


「やってくれるわよね、エトル?」

「はい! もちろん!」


 しかしこれらを謹んで受けるエトルの顔は、自分でもびっくりするぐらい意外と晴れやかだった。それぐらい困っている人がいる、だったら自分から動けばいい。そんな風に思うと楽しみで仕方がなかった。



 カティエからその本を渡され、確認を行いながら次々と依頼をこなして早くも1日が過ぎようとしていた。

 エトルは街の門の近くで、次の依頼の確認を行っていた。


「えーと次は……これってこの前湖に行ってきた時の研究者からの依頼かな。何々? 街の地下の下水道調査……」

「よぉエトル! 元気そうじゃねーか!」

「その声……ウィーゼさん! イシャナさんたちも帰ってきたんですね!」


 たった数日だというのに、なんだか久方ぶりに感じる再会にエトルは大きく手を振った。


「えぇ。討伐が無事に終わり、こうして帰ってこれました。……本当は昨日帰ってくるつもりだったのですが……」


 そう言いながらイシャナはウィーゼに目を向けた。その様子を、エトルは何となく察することが出来た。


「……もしかして、宿泊先で打ち上げしてたら帰るのが今日になっちゃったとか……?」

「はははっ! まーな! でも全員無事に帰ってきてこれたんだ、これぐらいしても怒られはしねーだろ」


 そう言ってウィーゼは豪快に笑い飛ばした。何と言うか、やはり彼らしく感じたエトルは苦笑して返す。その近くのイシャナは、少し頭痛がしたかのように頭を押さえていた。


「……ところでエトル。オメーのそれって?」

「あ……まぁちょっと色々あって……とにかく皆さんはギルド行って休んできてください。僕は、少し行くところがあるので」


 そう言ってエトルはウィーゼ達に大きく手を振ると、何処かへと駆けだしていった。

 その背を、ウィーゼとイシャナが見ていた。


「……あいつ、ちょっと成長したんじゃねーか?」

「奇遇ですね、私もそう思います。……少し、楽しみですね。彼と冒険しにいく時が」



 速足で歩いていくエトル。目的地は地下水道とは別の方向だ。

 そうして歩いていくうちに、ある人物を発見する。アーディロだ。


「……あ! アーディロさん!」

「よぉエトル。お前元気そうだな」

「えぇ。何だか自分でもびっくりするぐらい元気で……」


 そういう途中、エトルは「あっ」と声をあげた。


「そういえばあの時、僕たちを助けてくれましたよね。……本当に助かりました。アーディロさんがいなかったら多分、遅れていたかもしれないし……」

「あぁ。アレな。たまたまお前らが走ってたの見かけたからただもんじゃねぇなって思ってたから追いかけたらどっか出かけようとしてたの見たからさ」

「……あれ、でもそういえば不思議ですよね」


 エトルは首を傾げながらアーディロを見た。


「アーディロさん、どうしてガルーダ討伐行かなかったんですか? アーディロさんなら行ってもおかしくなさそうなのに……」

「……あー……実は、だな……」


 何か言いにくそうだ。これは聞くべきなのだろうか、なんて思いつつ、話を聞いてみることにした。


「……寝坊したんだ」

「……えっ」

「いやー……寝坊して置いてかれちまってさぁ……追いかけんのも恥ずいから今回は諦めてたんだ」


 誤魔化すかのように笑って言ってしまったアーディロ。流石のエトルでも、今回ばかりは「聞かなければよかった」と心底後悔していた。

 どうしてこういう人がプラチナランクなのだろう? エトルは悩んでいたが、それら含めてある意味冒険者らしいとも感じていた。彼からもきっと、他に学ぶべきことは多いかもしれない。


「と、とにかく……本当にありがとうございました。……この恩、いつか返させてください」

「おう。何年かかってもいいぜ。いつでも待ってるからな!」


 アーディロはガッツポーズをしながらそう言った。エトルは頷くと、この場を後にした。




 教会の中。ルミナは何かに祈りを捧ぐかのように聖歌を詠っていた。と言っても、覚えているものだけだ。知らなかったり、分からないものは全て飛ばしている。

 自分にとって必要なことだけを覚える。それが自分の生き方だ。それは変える気はなかった。


 一通り詠い終えると、神父が口を開いた。


「……珍しいですね。ルミナが聖歌を詠うだなんて。……貴女が詠うのは年に1回程度だというのに」


 物珍しいものを見つけたかのような神父の声に、ルミナは笑い出す。


「今日はそういう気分だったから。……エトくんと約束しちゃったからね」

「そのためのお祈り……ということですか」

「まぁね。……今まではそうだね」


 ルミナは奥にある巨大な十字架に目を向ける。その目は少しだけ物悲しさが浮かんでいた。


「今まではウォフの亡くなった日だけを詠うことにしてた。……死後の世界なんてもの、私は信じてないけどさ。もしあるというならそこで元気にいてほしいって思ってた」

「思っていた? ……今は?」

「……必要なくなっちゃったからさ」


 そう言いながらルミナは笑みを浮かべたまま神父の方に振り返る。


「今もこの世界のどこかでウォフが見守ってくれている。必要になったら力を貸してくれる。……まぁ、エトくんは『頼りっきりなんて嫌だから、本当に必要になった時だけ』って言ってたけど」

「……信じていなかったのでは? あれはウォフではないと言っていたはずですが」


 少しだけ、探りを入れるかのように冗談めかして言う神父。ルミナはニッコリ笑って、教会の扉に向かって歩き出す。


「だって信じるしかないでしょ。周りがそう言っちゃうんだからさ。……信じてみるって、心に決めたんだから」


 そう言いながら扉に手をかけて、ルミナは外へと出た。



 天気は穏やかだ。雲一つのない青空。

 遠くに人影が見える。人影がこちらに向かってくる。


「ルミナさん!」

「こんにちは、エトくん。……どうやらその様子だと、私の力が必要なんだ?」


 そう言いながらルミナはエトルの傍へ歩いていく。エトルも同じように駆け寄ってくる。


「そうなんです。……今回は地下水道に向かうんですけど……」


 エトルが本を開き、ページの1つを指さす。隣に立ったルミナはのぞき込むかのように見た。


「あぁ、あそこかぁ。……たまーに何故か魔物がいるときあるんだよね」

「えぇ。……それで、ルミナさんに手伝ってもらおうかなって」

「もちろん。手伝うに決まってるよ。……知ってる近道もあるし、そこに案内するよ」


 そう言いながらルミナは歩き出す。エトルも付いてくるかのように歩き出そうとしたが、ふと気づいて腰の周りに手を触れる。


 ない。いつも使っている小剣がない。


 宿屋に置いてきた? それはない。出る前にしっかり確認したし、取り出した覚えもない。


 ―――まさか。


「案内するけど……これはもらって行っちゃうからね!」


 ルミナが、エトルから盗った小剣を見せびらかすと、その場から逃げて行ってしまった。


「あ……あー! ルミナさーん!! 何で盗んじゃうんですか、返してくださいよー!!」


 エトルが、ルミナに取られた小剣を取り返すために駆けだした。



 今日も街に、シスターさんの楽し気な笑い声と、2人の駆ける足音が聞こえる。


 そんな2人を追うかのように、1つの風が吹き抜ける。


 その風は、何処か狼の声のように響いた―――。





 これにて「ワケありのシスターさん」は完結です。


 ここまで読んでくださり、誠にありがとうございました。……いきなり最終ページだけ見てる人がいないことを信じたい。(ひどい)


 さて、今回こうした物語を書こうと思ったきっかけは……ぶっちゃけると「あるサイトで使っていた自キャラのその後の物語を書いてみたかった」と言うのがあります。

 ヒロイン(?)を務めたルミナがそうです。ただ名前はある人物とたまたま被ってしまったので変更してますが、実はプロローグの方で元の名前のまま掲載されていたことがあります(修正済み)

 後はアーディロやイオも同じく自キャラです。もちろんこちらも名前はいじっています。(こちらはルミナに合わせての変更)


 そして話をくみ上げてきて……ちょっと問題が発生。私、戦闘描写が得意ではありません。そのため本作が会話中心で、正直誤魔化していました。

 ただそんな中、ガッツリ書き上げた話がありましたが、これは実は「エトルの生き様が自分に影響されたから」です。

 言ってしまうと、エトルは「ルミナにいじられるために作られたキャラ」だったのですが、一緒に物語を見ていく内に、不思議と彼の生き方が羨ましく感じられるようになってきたのです。

 ですので持てる限りの力を尽くして書き上げた話があります。……これは言わなくても何となく察せると思います。お願いです。察してください。(切実)


 本当はもう少しだけ書きたい物語もありましたが……切り上げ時が見つからなくなってきたのでここで切り上げようって考えてました。ただ、「もうちょっと書きたい」という気持ちもなくはなかったのですが、今回の話を書いていく内に「確かにここが良いのかも」と思うようになってきました。

 何だかんだで、このサイトに登録して10年ぐらい経過してようやく完結できる話であることもあるのかもしれません。(別のお話は元々企画用だったので例外)


 ただやっぱり彼らのお話はもう少し、何か別の機会があれば掲載したいかなという考えはあります。それぐらい、自分でもまだ気になるところがあって、まだまだ書きたいわけですが……。今はただ、『お楽しみに』とだけ自分にも、読者さんたちにも言っておきます。


 最後に。拙い文章でやきもきさせるお話だったかもしれません。それでも何らかの形で心に残せることが出来たのであれば私としては嬉しい限りです。

 これからも、この物語を見てくださった方々、そしてこの物語を紡いでくれたエトルたちに幸あれ。

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