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穏やかな陽の下 その2

 ギルドの2階の個室。そこでエトルとカティエ、あとなぜかアーディロが部屋の中にいた。エトルの話を聞き終えた後、頭痛を抑えるかのようにカティエは額に手を当てた。


「……はぁ。やっぱりその子が迷惑かけていたのね」

「え……いや、でも、ちゃんと止めなかった自分も悪かったというか……」

「エトル。優しいのもいいけど、こういう時はビシッと言うものよ。いつかその優しさが仇になるから……」

「そ、そうですか……」


 ルミナと同じことを言われた。やはり優しすぎるのもアレなのだろう。……今後は気をつけようと心のどこかに刻むエトルだった。


「確かにそんだけ大変だったんなら見る余裕とかないもんな」


 納得した、と言わんばかりに頷いているアーディロだったが、その彼にため息をついたのはカティエだ。


「貴方は『奥地に入ったらどうなるんだろう』という、子どもとしか思えない理由だったでしょうが。というより何で一緒になって聞いてるのよ」

「だって気になるんだし」

「子どもですか貴方は」


 容赦のないカティエのツッコみが部屋に響き渡る。確かにエトルから見ても、体つきは大人の心は子どものような人間に見える。出会って1時間は経ってないはずなのに、どうしてこの人がプラチナ行けたんだろうと不思議な疑問が浮かんでくる。


「……エトル。貴方からも言ってあげなさい。『貴方は子どもですか』って」

「え? ……え、いや、でも」


 いやそれを口にしてはいけないだろう。エトルの良心がその言葉に待ったをかけている。しかし何故だろう。カティエの圧もかなり強く感じる。まるで「言え」と言わんとするばかりに。


「(本当にどうしてこうなっちゃったんだろう……!?)」


 数日前の状況を話してほしい。それは予想できた。だがこの状況は予想外だ。大した用事でもないはずなのに、ものすごく大事な選択を任せられているような、そんな雰囲気を感じる。

 とりあえず助けてほしい。誰でもいい。この状況を上手く収められる何かが欲しい。


「おぉーい! エトくん、カティエー! いるー?」


 突然扉が、元気な声と共に開かれる。ルミナだ。


「(助かったぁぁ……!!)」


 どうしてルミナさんまで来ちゃったんですか、というリアクションのように両手で顔を抑えるフリをしつつもこの状況が吹き飛ぶきっかけがやってきてくれた。今回のルミナはいつも以上に頼もしく見える。


「ルミナ……何で貴女まで来ちゃったのよ……」

「……暇だったから?」

「……お勤めは?」

「いやだ」


 勧誘を断ると言わんばかりにそっけない言葉がルミナの口から発せられた。あまりにも自然に出てきている言葉に、「どうしてこうも」と言わんばかりに天を仰ぐカティエ。


「……ルミナ? ルミナじゃねぇかよ!? 久しぶり! お前元気なん?」


 旧友の再会を喜ぶかのような勢いでアーディロがルミナに近付いてきた。彼の顔はどことなく嬉しそうだ。どうやらアーディロはルミナを知っているみたいだ。

 対してルミナは悩んでいる顔をしながら首をかしげてきょとんとしている。もしかしたら忘れているのかもしれない。


「……エトくん、このオッサン誰?」

「おっさ……!?」


 いやオッサンという年ではないだろう。エトルから見てアーディロは30代ぐらいであり、オッサンとは流石に言えない。

 とはいえルミナは流石に冗談めかしている顔ではある……あるのだが。


「(なんでだろう……本気でオッサンって言ってるような感じはする……)」


 以前にも言った通り、エトルは相手の表情や仕草である程度は察せてても完全に読めるなんてことはできない。

 出来ないはずなのに、何故かルミナは嘘を言っていないと思ってしまう。


「ルミナ……お前……」


 流石のアーディロもオッサン呼ばわりは心折れたのだろう。地面にへなへなと倒れる。いくら何でも酷い言い様だ、そう言おうとしてエトルは立ち上がったのだが……。


「俺は……まだ46だ……」

「…………えっ」


 ……今、なんと?

 アーディロの出た言葉に、エトルはもう一度聞こうとした。

 それよりも前に。


「46って十分オッサンだよね」


 ルミナが先に言った。

 ……46? どう見ても30代ぐらいなのに?

 エトルは、頭の理解が追いついていなかった。


「……おかしいな、まだ夢見てるのかな……」


 確かに起きたはずだ。ちゃんと朝食も食べてるし、今日の出来事ははっきり覚えている。夢ならこんなくっきりと覚えているはずなんてない。

 というかそれ以前に。助けが来たと思ったら寧ろこの状況が混沌としてきているような気がする。先ほどまで森の中で起きた状況についての話をしたはずなのに、もはやそんなこと関係なしに話が飛んでいるような、そんな感じだ。


「……もういいわ」


 まるでこの状況に終止符を打つかのような、カティエの力ない言葉が耳に入る。


「エトルから聞きたいことは全部聞いた。この場はもう解散していいわ」

「…………分かりました」


 もはや収集付かない状況になったのでエトルは「失礼しました」と言って部屋を出たのだった。


 ギルドから外に出たエトル。外の空気が気持ちをリフレッシュさせる。

 今日は特に用事はない。1週間は街から出ないようにと言われているので残り3日は街の中で過ごすことにしている。


「おーい、エトくん」


 そこにルミナが追ってやってくる。彼女は嬉しそうな笑みを浮かべていた。

 そういえば4日前に別れたのを最後にしばらく見ていなかった。とエトルは思った。たった4日のはずなのに、数週間も会っていなかったようにも感じている。


「なんだか元気そうで安心したよ。体調とかも問題はなさそうだね」

「いえ。……あの時は本当にありがとうございました」

「だーから気にしてないってば。ホントに偶然だったんだし」


 冗談めかすかのようにルミナは笑う。本当に気にしてはいないようだ。


「……この後どうするの? 何もやることないの?」

「え? ……そうですね。街の中にいるようにって言われていたので……」


 そう言いかけたところ、エトルはふと頭の中で何かを思いつく。

 確かに街の外には行かないようにとは言われた。だが街の中を歩いてはいけないとは言われてない。寧ろカティエから「体調が戻ったなら外歩いて気分をプラスに持っていくことが大事」と言われている。

 だったらやることは簡単だ。


「……せっかくだから散歩してお店の中とか覗いてみようかなって」

「ふふ、どーせカティエに言われたからでしょ? カティエも変わってないねー」

「ルミナさんも言われたんですね」


 エトルはにこやかに笑う。真面目な人でもあり、気遣いも出来る彼女はどうやら昔から変わっていないようだ。

 しかし変わってないと言ったルミナも同じく変わっていないだろう。カティエも以前そう言っていた。何だかんだでルミナもカティエに影響されているところもあるのかもしれない。


「あ。じゃあ散歩するなら私も付いて行っちゃおうかな。帰ってもあの人に説教聞かされるだけだし」

「……うーん、それなら怒られる前に帰った方がいいような……」

「というわけで決まり! いろんなところ、行ってみようか!」


 話を無理やり切り上げたルミナにエトルは苦笑するしかなかった。昔からこんな人だったのかな、とも思ってしまう。


「―――話は聞かせてもらったぜ!」

「その声……アーディロさん?」


 待っていた、と言わんばかりの元気な男の声がギルドの入り口から聞こえてきた。そこから姿を現したのはもちろんアーディロだった。


「俺も久しぶりに街に帰ってきたからな。散歩、一緒に行っていいよな?」

「え……え? え、え、で、でも……」


 断るのは無下なのは分かる。だがベテランともいえる彼がこんな自分の都合につき合わせていいのだろうか。エトルは内心、どう答えるべきかと悩んでしまう。


「―――落ちろ(フォウム)鋼鉄(アイアズ)大きく(ビウグ)落ちろ(フォウム)


 その沈黙を破った声。ルミナの『何か』が聞こえてきたと思うと、突然上空から人の頭もある鉄球がアーディロの脳天めがけて落ちてきた。アーディロ自身はヘルムをかぶってないはずなのに金属同士をぶつけたかのような音が鳴り響く。ぶつけられたアーディロはその場でぶっ倒れて悶絶したのだった。


「あ、あ、ちょ、ええぇぇぇぇぇぇ!!? 何してるんですかルミナさん!!?」

「エトくん、剣貰っていくから」

「いやそういう問題じゃなくて、ちょ、えっと……!!?」


 ルミナはいつの間にかエトルの腰から奪った剣を高々に掲げながら意気揚々と何処かへ歩いて行ってしまう。

 流石に追わなければ。でもアーディロのことも心配だ。エトルはルミナとアーディロを交互に見ながら立ち往生していた。


「はやく、いけ。ぬすまれる、ぞ」


 アーディロがピクピクしながらルミナの方向を指さした。どうやら音の響きの割には威力は高くなかったらしく、無事なようだ。

 エトルは一言、「ごめんなさい!」と頭を下げて謝罪した後、いつの間にか遠くに行ってしまったルミナを慌てて追いかけるのだった。


「……久々の再会なのに、容赦ねぇなルミナ……」


 ……何か聞こえた気がするが、今は追うのが先決だったエトルなのであった。

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