矛と盾
愛されたかった
ただ、唯一の人に
あなたに、愛されたかった
「ごめん。俺が悪いんだ。お前は何も悪くない。」
一番聞きたくなかった言葉を、一番好きな人から聞く。
呼吸が浅くなって息が吸えなくなっていく。
「私の何が悪かった?」
思考が固まらない頭で声を発した。
酸欠の状態で。
たった、十一文字の言葉がくるしかった。
「お前は何も悪くない。」
名前を呼んでくれない。何度も呼ばれた名前は声にならない。
「悪いのは俺だから。」
そんな言葉聞きたくない。悪者になって楽になれるのはあなただけ。
「ごめん。」
謝るのは一番卑怯だと思う。許さないといけなくなる。
何も許したくないのに。
みっともないと分かっていて、最後に言葉を繋げた。
「もう、本当にダメなの?」
あなたの視線は私を見ていなかった。
目が合っているのに、私を見てない。見ようとしない。
「ごめん。」
また謝る。
聞きたくない三文字。
謝らないで欲しかった。溢れ出る目からの水滴を止められないまま、頷くしかなかった。
「俺が、悪いから。」
「やめて。楽になろうとしないで。」
あなたが息を吸う。形勢はまだ、五分だ。
「謝らないで。あなたが、楽になるために謝らないで。」
精一杯の矛。
少しでもあなたの心に、傷を残せたら。
「うん。分かった。」
私の矛は刺さっただろうか。
ぼやける目であなたの目を見つめる。
目を細めて私を見る。
その目が好きだったのに。今のあなたの目は、もう私を見ない目。
「出て行って。あなたのことを少しでも嫌いになっておきたいから。早く、ここから出ていって。」
また、あなたは息を吸う。
傷は残せただろうか。楽になろうとしているあなたに。
溢れ出る涙を受け止める手を顔に当てたまま、こんな無様な顔を見られなくて良かったと感じた。
ガチャと響く音に独りだと気付く。
これからは、ずっと独りだと。
あなた以外はいらない
あなたもそうなればいいのに