異世界に集団転移したんだけど周りに森しかありません
よろしくお願いいたします。
サイド 福谷 亮太
「諸君らには異世界に行ってもらう!」
突然そんな事を言われてもどうしたらいいのだろうか。
気づいたら白い空間にいた。周りにたくさんの人がいる。正確にはわからないが、十代から六十代ぐらいの人が集められていた。共通点を探すなら、日本人っぽい顔つきと男である事だろうか。
「突然何をと思うかもしれないが、諸君らは選ばれたのだ!喜べ、世界の役に立つなどそう出来る事ではないぞ!」
「そ、そんな!突然異世界に行けってなんですか!」
「来月子供が産まれるんです!帰してください!」
「チートはもらえますか!」
あっちこっちから声が上がる。基本的に状況の説明を求める声。たまにチートについてだ。自分は混乱しつつも口を閉じておく。
自分も異世界に行けとか『なんじゃそりゃ』と思っている。色々なネット小説を読んできたから、こういう状況も何度も妄想した。そういう時、下手に神様とか上位存在に目を付けられると碌な事がない。
「よかろう!だが貴様ら人間の質問に全て答えてやるほど我は優しくない!いくつかに絞って答えてやろう!」
あ、この神様けっこういい神様なのでは?あと声からして女神様か?
「まず異世界に行ってもらうのは決定事項だ!変えられない!家に帰りたいという願いは叶えてやろう!安心しろ!」
家に帰れる?正直それはかなり嬉しい。自分だって家族に会えなくなるのは嫌だ。だが、異世界には行かされるのに帰れるとはいったい……?
「そしてチートについては考えてある!まず今から諸君にはキャラクターメイクをしてもらう!詳しい説明は各視界に投影するからそれを見ろ!そして、諸君らのみレベル制が採用される!レベル1の段階では弱いが、安心しろ。チュートリアル期間が存在するからその間にレベル上げをすれば大丈夫だ!」
「おおっ」
目の前に何か現れて思わず声が出る。自分の全体像が中央に映し出されて、その周囲に『顔』やら、『身長』やらの項目が書いてある。『説明』と書かれた部分に触れてみると、各項目の説明や操作の仕方が書かれていた。
「異世界の美醜感覚は諸君らのいた日本と同じだ!奇を狙って変な顔にすると後悔するぞ!以降は基本的に変更できないからな!」
なるほど、とりあえず色々いじってみる。ここはやはり、高身長細マッチョ爽やかイケメンにしてみよう。どうせならモテたい。髪の色や肌の色も選べるようだが、ここは元のままでいいだろう。そこまで変えると違和感あるし。
「ちょっと待ってくれ!結局帰れるっていうのはどうなったんだ!?」
「そもそもキャラメイクってなんじゃい?」
「チートもっとください!」
「落ち着け!チートはこれ以上やれん!神々の協定で決定している。強いて言うなら『帰れる』のがチートだと思え!」
そうだ、それが気になっていた。帰れるとはどういうことなのか。
「異世界には一度は行ってもらうが、帰還は自由にできるし、また異世界に行く事もできる!手で抱えられる大きさなら持ち込み可能だ!ただし、自分以外の生物を世界間で行き来させることはできん!それが原因でその世界の生物が死滅する事もあるからな!」
行ったり来たりできる。そう言われてかなりの数の吐息がもれる。自分もそうだ。異世界には行きたいが家族とも離れたくない。あと現代生活を捨てたくない。電気もネットもない世界とかつらい。
「ちなみに、転移先の世界は中世レベルの文明だが魔法がある!諸君らからしたら歪な世界となるだろう。技術の発展に貢献するも良し、何を持ち込んでも我らは感知しない!だが、諸君らを送るには理由がある!」
やはりか。だがその理由と言うのはなんだろうか。あまり無理難題ではないといいのだが。
「異世界は今危機に瀕している!増えすぎた魔物による被害!それにより人類は大陸の端まで追い込まれている!千年後には滅びているだろ!」
もしかして、魔王的な奴を倒せとでも言うのだろうか。それはちょっと怖い。チートがもらえるからと言って、自分はただの入社一年目の会社員。戦闘経験なんて一つもない。周りを見回しても、普通の人しかいない。
「諸君らには子種をまいてもらう!
な ん て ?
童貞の自分には縁遠い言葉が出てきた。え、子種?異世界で女のことニャンニャンしろと?ちょっとそれ自分にはハードル高いです。いや出来るならしたいけども。
いや待て。自分は今からイケメンチート転移するのだ。可能なのでは?異世界ハーレムいけるのでは?
「出来るだけ多くの女と関係をもつのだ!強い女、優秀な女ならなお良し!諸君らは好きだとそちらの神から聞いている。ハーレムが!」
確かに、今まで読んだ異世界物は大半がハーレムものだ。というか男なら一度は夢見るものじゃないのかハーレムは。
「キャラメイクはできるが、諸君らの男性器の性能はこちらで指定させてもらった!受精率も高い!君たちの知識に合わせるなら『種付●おじさん』に匹敵する!……思考も下半身に少しだけよってしまうが」
まじかよすげーなおい。思わずキャラメイク画面の股間をタップすると、よくわからないけど各能力が軒並みSランクだった。
それはそうと最後に何か言っていた気がするが、よく聞こえなかった。
「さあ、わかったら早くキャラメイクをするのだ!我は気が短い!十年程度しか待ってやらんぞ!」
長いよ。いや神様基準では短いのか?いやどちらにせよゆっくり考えられるのはありがたいが。
ともあれ、見た目のキャラメイクは終わった。次は『職業』の項目についてだ。これは大まかに『前衛』『後衛』『生産職』と分かれており、それぞれタップすると詳しく分類されていく。
さて、どれにしたものか。斬った張ったの業界とか怖い。けどどうせ異世界に行くなら英雄的なものになりたい。となると、どうせなら戦闘系がいい。
だが、これだけいるのだ。パーティーで活動するかもしれない。そんな時に皆後衛ではやっていけないだろう。自分も後衛を選んだらパーティー決めの時あぶれてしまうかもしれない。
だったら、少し怖くても前衛の壁役になるか?けど怪我とか怖いな……死にたくないし。
「言い忘れていた!諸君らはこれよ疑似的な不老不死になる!」
……は?
「たとえ灰になろうと分子レベルで消し飛ぼうと、これから転移する拠点で復活する!そしてその拠点は決して壊せない!歳をとる事もなくなる!喜べ、人間が求めてやまなかったものだ!」
それってチートでは?いや貰えるなら嬉しいけど。……待って欲しい。それって今後子供が出来ても先立たれるのが確定するんじゃ。
「待ってくれ!それじゃあ俺は妻と一緒に歳をとれなくなってしまう!」
「俺も子供より長生きするなんて嫌だ!」
「不老不死チートきたこれ!」
反応は様々だ。自分も素直に喜べない。利点は多いが、ひっかかる事もある。正直突然不老不死とか言われてもピンとこない。
「ええい煩い!妻や子と長くいたいならその者達の分の延命薬なり不老長寿の薬なり手に入れればよかろう!異世界にはそれぐらいあるわ!」
マジで!?それなら安心……していいのか?まあ考えても仕方ない。キャラメイクに戻ろう。
死なないというのなら、勇気を出して前衛を選んでみよう。けど、出来れば自分でも回復手段がある職業がいいな。
そう思って探していると、RPGの定番職業『聖騎士』があった。タップして概要を見てみると、タンクとしての性能に加え白魔法とかいう回復や除霊系のスキルも持っている。まさに自分が望んでいる職業だ。ゲームでもよくこういう職業やスキル構成をしていたものだ。
ジョブを選ぶと、ステータスが現れる。レベルは1だしどの数値も一桁だが、なんとなくこういうのを見るとワクワクする。
次の項目が現れる。『固有スキル』?タップしてみると、ようは先ほど選んだ職業で覚えられるスキルとは別に、もう一つ一覧からスキルを選んでいいらしい。なんとも豪勢な事だ。さすがチート転生。いや、転移?
一覧を眺めていくと、欲しいスキルがいくつも見つかる。十分ほど悩んで、決めたのは『直感』のスキル。効果は被奇襲時、及び罠に対して有利判定が出るとか。不意打ちに強いのはありがたい。
それから色々項目をいじった後、決定を押す。確認画面に移行したので三回ぐらいチェックして、もう一度決定をおした。
それから三十分後ぐらいに、全員のキャラメイクが終わったらしい。待っている間聖騎士の覚えられるスキルを熟読していた。
「全員キャラメイクが終わったな!では、これより転移させる!諸君!たくさん子供を作るのだぞ!」
その声の後、視界が光に包まれた。
* * *
目を開けると、住宅地の道路に立っていた。え、さっきのは夢か幻だったのか?少しがっかりしながらため息をついて、すぐに異変に気付く。いや待て。自分はあの空間に連れてこられる前は職場にいたはずだ。住宅地にいるのはおかしい。
それに自分の恰好も変だ。まるでゲームに出てくる駆け出し冒険者みたいな恰好をしている。
そして顔を上げると、周囲にある家々もその前に立っている人もおかしい。家はどの家も巨大な豆腐にドアと窓をつけただけみたいなデザインだし、人は全員イケメンで服装も自分と似た感じだ。
『諸君!全員無事転移できたようでなにより!まあ我は完璧だからミスをするはずがないのだがな!』
突然空から声が響いてきた。先ほどまで聞こえていた女神様の声だ。
『その場所が諸君らの復活する拠点となる!それら千件の家を覆うように結界も施しておいた!魔物の類は通れん!ただし盗賊とか人間は通れるから注意しろ!』
咄嗟に視線を巡らせてみたが、壁らしきものは特にない。いや、家々の端の方に二メートルぐらいの壁があるが、あれが結界なのか?なんか見た目しょぼいけど。
『安心しろ!古き血を引いたドラゴンでも立ち入る事はできん!生産職を選んだ者もそれぞれの仕事に専念してくれ!』
ドラゴンも通れないのか。見た目と違って凄いらしい。この世界のドラゴンの強さは知らないけども。
『チュートリアルとしてその村に近いほど魔物は弱くなる性質を結界に施しておいた!その上諸君らはレベル30まで獲得経験値が三倍となる!たくさん魔物を倒して強くなるのだ!諸君らが強くなれば生まれてくる子供の上限も引き上げられる!』
そういうシステムなのか。キャラメイクで読んだ限り、マックスはレベル100らしいが30で大丈夫なのだろうか。
『あ、それとメスの魔獣に捕まったら即刻自害しろ』
え?
『別にペナルティをかすつもりはないが、捕まったままは推奨はしない。苗床にされるぞ。こちらとしても魔物に君たちの精が吸われるのは面白くない。安心しろ、ちゃんと復活するし、デスペナルティもないから』
いやそれでも自害しろとか突然言われても承服しかねる。いやだわ怖いし。
『それでは諸君!我からは以上だ!励めよ!特に夜!』
励むって、どっちの意味だろうか……。
* * *
転移者は一度広場に集まる流れになった。誰が言い出したわけでもなく、自然とそうなったのだ。
何人かが早速帰宅を試していた。どうやら念じたら目の前に黒い壁が現れて、そこを通れば帰れるらしい。
自分も一度帰るか。そういえば仕事をほったらかしたままだ。これは不味いかもしれない。
職場の光景を念じると、目の前に壁が現れた。恐る恐る手を入れてみると、普通に潜り抜けた。
大丈夫そうかと思って一息に壁に跳び込んでみる。
「おっと」
意外とあっさり通り抜けられた。無事自分の職場に戻ってこれたようだ。
「え、ええ……?」
「だ、誰だ……?」
「あっ」
そして状況を理解して顔が引きつった。
足元には転移される前に来ていた制服。事務所中から集まる視線。どう見ても別人に変わった自分の姿。
これは、やってしまったか……?
* * *
あの後、声をかけてきた課長に何があったか正直に説明した所、警察と救急車を呼ばれた。まあ、そりゃそうだとしか。
警察に色々聞かれたり、病院で簡単に検査とかしてもらったのだが、DNAが自宅の歯ブラシからとれたものと一致したとかで本人と認められた。
会いに来た両親は滅茶苦茶驚いていたが、どうにか息子と認めてもらえた。よかった。もしDNAまで変わっていたら、自分だとわかってもらえなかったかもしれない。
そうして無事自分とわかってもらえたのだが、ようやく退院が認められた。どうにも、テレビでは既に今回の事が流れているらしく、ワイドショーで面白おかしく『異世界は本当に存在した!?』という感じでバラエティー番組が放送されている。たぶん映っているイケメンは自分と同じ転移者だろう。
警察から転移した時着ていた駆け出し冒険者の服と装備も返してもらった。会社からはしばらく休めと言われているので、自室で早速異世界への門を作って跳び込む。
転移した場所は拠点の前ではなく広場だった。もしかして、あの門を開いた場所が転移先になるのか?
自分の周りにも似たような感じで出てくる人たちがいる。ぶつかっては不味いので持っていた靴をはいてさっさと移動する。
「パーティー募集してまーす!」
「タンクの人いませんかー?」
「回復系スキルもちいたら欲しいでーす!」
広場の前の方でそんな声が聞こえたので、自分も行ってみる。どうやらパーティーをここで組んでいるらしい。
タンクを求めていた人の所に行ってみる。
「あの、聖騎士なんですけどいいですか?タンクと回復両方兼ねている感じです」
「おお、ありがたい!今集まっているのは攻撃系ばかりだから助かるよ!」
とんとん拍子でパーティーが決まり、早速村の外に行ってみる事になった。少し怖いが、死なないなら大丈夫だ。……本当に死なないよね?
斥候役の忍者を先頭に、自分、剣士、魔法使いが続く。やがて忍者が一匹の紫色をした猪を見つけた。
「あれをやろう」
リーダー役の剣士がそう言ったので無言で頷く。忍者がそっと近づいて、ナイフを突き立てた。
「ぶもぉ!?」
猪は驚いて暴れ出し、忍者が悲鳴を上げて飛びのいた。
「こ、この!」
とにかくタンクなので前に出る。猪の正面に立ち、注意を惹く。猪はそのまま自分い狙いを定め、突進してきた。
どうにか盾で受ける事に成功したが、バランスを崩しそうになる。ギリギリ踏ん張って耐える。
「おりゃぁ!」
剣士が猪の脇腹を斬りつける。悲鳴と共に猪からかかる力がなくなったので、自分も片手剣で頭を斬りつけた。
「さがれ!」
魔法使いの声に、猪から離れる。
「マジックアロー!」
凄い、手の平から光の矢が飛んで行った。それが猪に突き刺さり、血を噴出させる。今の攻撃から警戒したのか、猪の視線が魔法使いに向く。
「ひっ」
魔法使いが後ずさって尻もちをついてしまった。猪がそこに突進を仕掛けてくる。
「危ない!」
咄嗟に割って入る事に成功する。盾から少しミシリという音が出たが、大丈夫だ。踏ん張れる。
「おおお!」
剣士が脇腹から剣を突き刺す。それにより猪がビクリと跳ねた後、今ままで以上に暴れ出した。
「うわっ」
剣士が咄嗟に剣を手放してしまう。自分も衝撃で下がってしまった。慌てて猪に視線を向けると、フラフラとしだして数秒後に倒れ伏した。
近寄って様子を見てみると、荒い呼吸をしながらこちらを見てくる。
「……ラストアタックどうする?」
剣士が猪から剣を引き抜きながら聞いてくる。傷口からドプリと血が漏れた。
「お、俺はパス」
「俺も……」
魔法使いと忍者が目をそらす。
「……じゃあ、僕いいですか?」
「お、いいね。頑張って」
小さく手を上げると、剣士が笑顔で頷いてくる。
今からこの命を奪う。それに思うところがないわけではないが、それでもこのまま苦しませるよりはいいかもしれない。なにより、自分は聖騎士を選んだのだ。戦わなければ。
盾で猪の頭を押さえ、頭の付け根に剣を突き刺す。猪は悲鳴と共に暴れるが、先ほどまでの力はない。三秒ほどで動かなくなった。
「あっ」
すると、猪の体が粒子に変わった後には小さな紫色の石だけがある。
「お、アイテムドロップ?見せてもらっていい?」
「あ、どうぞ」
剣士がしげしげと石を見た後、こちらにわたしてくる。
「うん、なんか宝石とは違うのかな?なんにせよナイスガッツ!」
「ど、どうも」
ちょっとだけこの剣士のノリについていけない。
猪一体で全員レベルが2になり、それから五匹倒した頃にはレベル5になっていた。この辺りになると全員血に酔っていたというか、調子にのっていた。村からもう少し離れた場所でもやっていけるのではと。
そう思ってちょっと離れたところに出ると、突然血まみれの男が出てきた。
「ひっ」
「うわぁ!」
自分と忍者が小さく悲鳴をあげ、後ろの二人も驚いた声をあげる。
「た、助け……」
そう言って男は倒れてしまった。
「回復を!」
「あ、はい!」
剣士の声に我を取り戻し、男に駆け寄って魔法を使う。
「ヒール!ヒール!」
「……どうだ?」
「だ、ダメです……」
「マジかよ」
「嘘だろ……」
人が死んだ。その事実が受け止めきれない。
「あっ」
すると、男性の遺体が粒子になって消えていく。猪の時と違い、粒子はそのまま霧散せず、村の方に向かっていった。
「ど、どうする?」
「蘇るんだよな?」
忍者と魔法使いの声に『だよね』と返す。剣士も頷いて、残された男の衣服を拾い集める。
「一度村に戻ろう。さっきの人もいるかもしれない」
一も二もなく頷いて、村に一直線で戻った。すると、村の出入り口で何人かの男が下着姿で『俺の装備を誰かとってきてくれないか』と言っていた。その中には、先ほどの男もいた。あっちも気づいて手を振ってきている。
どうやら、自分達は本当に不老不死になったらしい。
* * *
あれから一週間が過ぎた。レベルも30に上がり、この辺のモンスターなら一人でも余裕で倒せるようになった。というか、モンスターが狩りつくされ始めているのか、出現率が減っているとかで獲物の奪い合いも起きているとか。
装備も一新した。倒した熊や猪みたいなモンスターの毛皮をベースに作られた鎧。木製の分厚く大きい盾。頑丈そうな棍棒。これらは生産職が作ってくれたものだ。
どうもレベルがあがる条件と言うのは違うらしく、戦闘職は戦ったり訓練したりすれば、生産職はそれぞれに会った物を作る事でレベルが上がる。
ただ、生産職は一割から二割ぐらいしかいないから、注文を受けてもらえるかは中々大変だ。材料も持ち込みなので、自分も熊が毛皮をドロップするのに苦労した。トレントからは比較的簡単に木材が手に入ったのだが。
今でも日本で昼間は働いている。特にこれといって変わりはない……とは言えない。うちは肥料とか扱っているのだが、その運搬がかなり楽になった。というか、今の自分はかなり人間離れした身体能力を持っている。なんせ一袋二十キロの肥料三十袋が乗ったパレットを運んでみせたのだ。倉庫の整理は楽になったが、同僚からの視線が少し痛い。
政府に協力を依頼されて色々データをとっている転移者もいる。人体実験とかされていないか心配だったが、特にそういうのはないらしい。お金がもらえるらしいし、自分も今度行ってみようか。
なんだかんだ順調に過ごしているのだが、問題がある。
異世界で未だに現地人と会っていない。これではハーレムなど夢のまた夢。いつなったらエッチな事が出来るのやら。
この体になってから性欲も強くなったのか、一人でする回数が十倍に増えた。もういっそ日本の方でそういうお店に行って童貞捨てようか。
あれこれ考えていると、村の入口の方から声が聞こえた。
「異世界人だ!しかも女だぞ!」
* * *
自分含めたくさんの野郎どもに囲まれた女性たちは気まずそうに肩を寄せ合っている。
「ねえ、君いくつ?名前は?」
「どこから来たの?近くに村とかある?」
「おっぱい大きいね」
遂に異世界人とのファーストコンタクトに皆テンションが上がり切っている。動画を取り始める者もいる。
「え、えっと。あたしらは旅のものでさ。日もくれちまって野宿でもしなきゃと思っている所に、ここを見つけたのさ。どうか一晩泊めてくれねえか?」
リーダー格らしい赤毛の女が自分達に話しかけてくる。結構な美人だ。胸も大きい。当然の様に了承の声が飛び交う。次に出てくるのは『ぜひ自分の家に』だ。
遂にやってきた異世界のイベント。これに乗り遅れるわけにはいかないと自分も手を挙げてアピールする。
「え、えっとあたしら金とかもってないんだけど」
「そんなことはいいからぜひ家に!」
「なんの俺の家に来てくれたらとっておきの霜降り牛だしちゃう!」
「なら俺は秘蔵の酒を!」
女性は三人。こちらは千人。どうしても競争になる。その高すぎる倍率に、結局涙を呑むはめになった。
* * *
憂さ晴らしに狩りを終えたし、そろそろ日本にある自宅に帰ろう。もう夕飯の時間だ。そう思って扉を通ろうとしたら、外から大声が響いてきた。
「て、敵襲だー!盗賊が攻めてきたぞぉ!」
「えっ!?」
思わず拠点を出て確認しようとする。すると、走って逃げてくる他の転移者達に遭遇する。その後ろに、バラバラな装備をつけた盗賊たちが現れる。先頭にいるのは夕暮れに村へやってきた女性か?
「ひゃっはー!」
「おい!男は殺すなよ!大事な商品だ!」
「ちょっとぐらい味見しようぜ!」
そんな声が聞こえてくる。なんだ、どうしたらいいんだ。
混乱していると、一人の盗賊が走ってきた。
どうする。幸い今自分は狩りから戻ってすぐだからフル装備だ。戦えない事はないはず。だが、初めての対人戦。どうすればいいのか分からない。しかも相手は転移者ではない。殺すわけにはいかないのだ。
そう思っていると、相手が剣で斬りかかってきた。
「うわぁ!」
慌てて盾で受け止めた。
驚いたことに、剣が軽い。盾にめり込んでいない。衝撃も大してなかった。驚いて盾をどけてみると、それだけで盗賊は弾かれて尻もちをついた。
「きゃっ」
きゃっ?夜だからわかりづらいが、女か?目を凝らしてみると、こちらをポカンとした顔で見上げる美しい顔があった。肩口でそろえた綺麗な金髪が印象的な美少女だ。しかもスタイルもかなりいい。
「おい!こいつら弱いぞ!」
「しかも女だ!」
「捕まえろ!生け捕りだ!捕まえた奴がそいつを好きにしていいぞ!」
その言葉が遠くから聞こえたのと同時に、盗賊の女を羽交い絞めにしていた。
「は、離せぇ!」
「ちょ、暴れないでください」
軽く肩を抑えるだけで簡単に抑え込むことが出来た。もしかして、自分はこの世界で強い方なのか?いや、よく盗賊って弱いって聞くし、相手が非力なだけだろう。性別の差もあるし。
「こ、この馬鹿力がぁ!」
それにしても、暴れるたびに胸が揺れるな……。そんな感じで嘗め回すように見ていたら、あっという間に盗賊は全員捕まったらしい。
* * *
捕まえた盗賊は一旦広場に集められた。合計三百人ほどだ。かなり多い。全員女性だ。しかも美人ばかり。スタイルも皆いい。さすが異世界としか言いようがない。
だが、疑問も残る。普通盗賊って男ばかりじゃないのか?女性だけで盗賊をやっているのは、何か事情でもあるのだろうか。
「ち、畜生、聞いてねえよこんな強いのばかりなんて」
「頭ぁ!どうにかしてくださいよ!」
「くそ、私は反対したんだ!」
盗賊たちはそれぞれ喚いているのだが、逆に転移者たちはどうしたものかと困っていた。戦闘時……戦闘とも呼べない一方的なものだったが、それでもあの時はアドレナリンが出て皆ハイになっていたのだ。
だが、こうして無力化すると冷静になってしまう。あの時は『ヒャッハー!お茶の間には放送出来ないような事してやるぜぇ!』と思っていた面々も、『どうしよう』という顔で視線をさまよわせている。
「えっと、あんたらは盗賊って事でいいんだよな?」
転移者の中で一番レベルが高い斧使い|(といってもレベル32だが)が頭と呼ばれていた赤毛の女性に話しかける。
「……あたしらは盗賊じゃねえ。赤狼傭兵団だ」
「傭兵?」
「あ、聞いた事がある、傭兵って戦争がないときは盗賊やってるって」
「やっぱ盗賊じゃねえか」
転移者同士でぼそぼそと話し合う。それが聞こえていたのだろう。盗賊改め傭兵団が目をそらす。
「あー、とにかく、あんたらは兵隊に突き出す。それは決定事項だ」
「そ、それは勘弁してくれ!縛り首はごめんだ!あたしらはあんたらを一人も殺していないだろ?見逃してくれよぉ」
頭が媚びたような笑みで転移者達に話しかけてくる。美人にやられると弱いのが男という生き物だ。それに、意識しているのかしていないのか、胸の谷間が見える。視線が吸い込まれそうだ。
「たしかに誰も殺されていないな。拠点も壊れなかったし」
「弱すぎて殺せなかっただけだろ?」
「けど殺すなって命令しているの聞いてたぜ?」
確かに、『男は生け捕りにしろ』と叫んでいるのを聞こえていた。だが、商品にするとも言っていたのを覚えている。農奴や剣闘士とかにして奴隷として売るつもりだったのではないか。
そう思ったのは自分だけではないようで、転移者全体の空気は硬い。
「どうするよ、ただ見逃してやるっていうのもな……」
斧使いが振り返って転移者たちに聞いてくる。まあ、女性だけの集団を縛り首にされるらしい所に差し出すのは気が引ける。これで被害者が出ているなら話も変わってくるが、けが人もゼロ、壊れた物も特になし。被害はゼロと言っていい。
「難しく考えなくてもよ、それぞれ捕まえた奴が決定するって事でいいだろう」
そう言ったのは双剣使いだ。そういえば戦闘時も『捕まえた奴がそいつを好きにしていい』と叫んでいたのも彼だった。
「というわけで、こいつは俺が判断する。お前らもそれぞれで考えな」
そう言って傭兵の一人を肩に担いで連れて行った。
「そうだな……捕まえた奴に決めてもらおうぜ……」
「だな。最後まで面倒みてもらわないと……」
「え、俺そんなの決められねえよ」
全体の空気として捕まえた奴が責任をもつ感じになってしまった。その流れに逆らわず、自分も捕まえた女、というか少女を拠点に連れていく。
「えっと、行こうか」
「お願いだから殺さないでください、お願いします……」
怯えた顔で命乞いされると、ちょっと悲しくなる。どうせなら作り笑いでもいいから笑いかけられたい。
とりあえず拠点の中に連れ込むと、少女は部屋の隅に積んでおいたドロップアイテムの山を見て叫んだ。
「あ、あれは!?」
「あ、ちょ」
こちらの手を振りほどいてアイテムに駆け寄る。怪我させないように軽く掴んでいるだけだったから、あっさり抜け出されてしまった。だが、逃げるつもりはないらしい。
「こ、これもしかしてトレントの木片か!?嘘だろ!?こんなにたくさん!?」
「えっと、わかるんだ」
自分達には鑑定とかそういうスキルを使わないと、ただの木材と見分けがつかないが、少女にはわかるらしい。
「私の家は大工だったんだ。こういうのはわかる。すげぇ……これ一本で金貨五枚は硬いぜ……」
「大工?じゃあなんで傭兵に?」
聞いてからしまったと思った。言いづらいような過去があるから女だけで傭兵団なんてやっているのだろうに、あまりに不用意だった。
内心焦っていたが、少女は平然とした様子で答える。
「私は三番目の子でさぁ。家は継げないし、奉公先も用意されないしで、傭兵になるしかなかったのさ」
「それで盗賊に」
そう言うと、少女の顔がサアっと青くなった。もしかして、さっきまで現状を忘れていたのか。とりあえず拠点のドアのカギをしめておく。
「み、見逃してくれよ旦那ぁ。私はまだ誰も殺したことがないんだ。それなのに縛り首なんてあんまりじゃねえですか」
少女が足元に座り込んで媚びへつらった笑みを浮かべる。この角度だと可愛らしい顔と巨乳を見下ろす事が出来て個人的にはとてもそそる。
だが、今は少し真面目に考えなければ。
「けど、ここで逃がしたらまた盗賊をやるんだろ。他の人が襲われるとわかっていて逃がしてあげるわけにはいかない」
「も、もう二度と人には襲い掛かりませんから。お願いします!」
遂に少女が土下座をする。この世界にも土下座文化があったのか、それにしても、胸も立派だったが尻も大きくむっちりしている。安産型というやつか。
視界の端に、積み上げられたドロップアイテムの山が映る。よからぬ考えが浮かんだ。これは最低な発想だ。自分が自分で情けない。
だ、だが、ここは異世界だ。日本ではない。向こうの常識は一旦置いておいてもいいのではないか?それに、彼女は傭兵で盗賊行為を行った。自分に切りかかったのだ。これぐらいいいんじゃないか?
心の中で自己弁護を終え、上ずりそうになる声を必死で抑える。
「見逃してあげてもいい」
「ほ、本当ですかい!」
少女がバッと顔を上げる。ついでに胸が揺れた。にやけそうになる顔の筋肉を頑張って制御する。
「ついでに盗賊行為をしなくていいように、あそこに置いてあるトレントの木片もあげよう。売れば金になるんだろ?」
「そ、そりゃあ、ありがたいし、あれを三本ももらえりゃあ二度と盗賊なんてしなくていいけど……」
露骨に少女が警戒した顔になる。まあ当然だろう。ただであげるわけがないのだから。鼻息が自然と荒くなる。
「かわりに、夜の相手をしてもらおうか」
言った。言ってやったぞ。自分でも最低だと思うが、女神だってたくさん子種をまけと言っていたんだ。そう、これは神様の言う通りにしているだけ。聖騎士としてなんら間違っていない!
少女の反応を見てみると、ポカンと口を開けている。何を言われているのかわからないという様子だ。はて、傭兵をやっているんだしその手の話には自分より詳しそうだが。
「えっと……それはセ●クスしろって事でしょうか……?」
「う、うん……」
改めて確認されると頬が熱くなるのがわかる。どうしよう、今からでも『冗談だよ』と言うべきだろうか。いや、ここは押し通せ。僕の直感が『押せばいける』と言っている気がする。
「ど、どうかな。悪い提案じゃないだろ」
「そりゃあ勿論いい話ですし、私は構わないですけど」
「いいんだね!」
「は、はい!?」
よし、言質取った。いそいそと装備を外していく。
「いや、いいんですかい?私としては願ったり叶ったりと言うか、旦那みたいな美丈夫だったら引く手あまたでしょうに」
なんか言っている気がするが、興奮で耳を素通りする。そうだ、そういえばこういう時は先にシャワーを浴びるんだった。
拠点には一応日本から持ってきた仮眠用の布団が敷いてある。シャワー室もあるが、あれは水を持って来て貯めておく必要がある。熱は魔力を送り込めば大丈夫だが、水を召喚するスキルは持っていない。
一応昨日汗を流すように貯めておいたが、今残っているのはそう多くない。そしてここにいるのは自分と少女。これは、いけるのでは?
そうこう考えているうちに装備は外し終えた。座ったままこちらを見ている少女に問いかける。
「これからシャワー……水浴びするけど、水をあんまり用意していないから一緒に入ろう」
こういうのってオプションとか請求されるのかな。と思って聞くと、少女はむしろ鼻息を荒くして頷いてきた。
「い、いんですか!?是非に!」
やはり女の子だけあって清潔な方がいいらしい。だが、これはなんたる僥倖。美少女とセッ●スだけでなく一緒にシャワーまでとは。
父さん、母さん。産んでくれてありがとう。女神様、異世界にチート転移させてくれてありがとうございます。僕は今日、童貞を捨てます。
「じゃ、じゃあ脱ごうか」
「は、はい」
手早く服を脱ぐ。少女の脱衣シーンをじっくり見たいからだ。だが相手もパッパッと脱いでしまった。結構豪快な脱ぎ方だ。
その裸体に視線が釘付けになる。大きく前に突き出た、重力に逆らう大きなおっぱい。綺麗な桜色の先端までガッツリ見えている。隠す気がないのか、くびれた腰もその下もばっちり見えている。
「すっげ……」
少女が顔を真っ赤に染めながらこちらの股間を見ている。意識しなくてもわかる。今、自分の息子はかつてないほど力が漲っていると。
「水浴びしよっか」
「は、はい」
「そういえば、名前なんていうの?歳は?」
「クリスティナって言います。周りからはクリスって。歳は数えで1●歳です」
「クリスちゃんかぁ。よろしくね。僕は亮太っていうんだ」
そのまま二人で夜を過ごした。
* * *
素晴らしい体験だった。心の底から素晴らしい体験だった。
一夜明け、背中にトレントの木材を十本ほど背負ったクリスちゃんを見送る。
「ほ、本当にこんな貰っていいんですかい?」
「いいのいいいの。またお金に困ったら会いに来てね。もう盗賊なんてしちゃだめだよ」
「は、はい!これからは心を入れ替えて暮らします!」
元気よく返事をするクリスチャンだが、歩き方が変だ。まあ、あれだけハッスルしたらそうもなろう。
向こうも初めてだと言っていたが、それにしてはサービス精神豊かだった。むしろ積極的に色々してくれて気持ちよかった。
見回してみれば、他の傭兵団も似たような感じだ。背中にドロップアイテムを背負って、転移者たちと会話している、全員歩き方がぎこちない。
「本当にありがとうございました!」
そう言って傭兵団は去っていった。これからはきっと真面目に生活するだろう。いやあ、よかったよかった。
近くにいた転移者たちと笑い合う。これほど清々しい朝は迎えた事がない。
今日は出社する日だと思い出したのは、それから二時間後の事だった。
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サイド クリス
「変わった村でしたね、頭」
「ああ、まさかこんな待遇を受けるとはな」
近くにいた頭に話しかける。本当にあんな『おいしい思い』をするとは思わなかった。
最初は、美男子ばかりの村があると密偵役が騒いでいた時、興奮したものだ。きっと貴族の愛人を囲っている所に違いないと。そこなら金もたくさんあるだろうし、なにより男とヤレルんだ、興奮しない女はこの世界にいない。
だが、いつもの手段らしいやり方で押し入った村は、異常に強かった。自分が斬りかかったリョウタと言う男も凄まじい腕力をしていた。取り押さえられた時は殺されると確信した。
あっという間に全員捕まった時は、この世の終わりだと思った。だが、村人たちは自分達を兵士に突き出すと言いながらも、命乞いを真に受けていた。
その後の展開は一昨日の自分に伝えても信じられないだろう。まさか自分を捕まえた美丈夫が、『自分と寝れば見逃してやる』と言ってきたのだ。しかも貴重な素材までくれるという。
少し、実は人に化けた魔物で、自分は幻術を見せられているんじゃないかと思った。だが、どうせ死ぬなら処女を捨てたいと思ってその提案に飛びついた。
後はまあ、この世の物とは思えない快楽の渦に落とされた。まさに天国とはああいう所の事を言うのだろう。
「また行きたいな……」
「ですねぇ……」
傭兵団全員が頷く。こんないい思いしちまったら、二度と元には戻れねえや。
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サイド なし
この世界が男女比1:5である事。それにともない男女の貞操観念が逆転している事。後に、転移者たちの村は『楽園』と呼ばれるようになる事も、まだ転移者たちは知らない。
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