6話
森の中をボロ布に身を包んだ男が必死の形相で走っていた。そう、レオンに見逃された盗賊の男だ。
『なんなんだあいつは!あんな子供があんな魔法使うのかよ!一体なんなんだって言うんだよぉ!』
そんな事を思いながら男は自らの盗賊団のアジトである洞窟を目指して一心不乱に走っていた。
「お、おい!急いでお頭に伝えなくちゃいけねぇことがあるんだ!」
「何があったんだ?てか、他の奴等はどうした?」
「全員死んだんだ!死んだんだよ!ぐちゃぐちゃに潰されて!」
「何言ってんだ?こんな場所にドラゴンでも出たってのか?」
「バケモンだよ!ありゃあバケモンだ!なんでもいいから通してくれ!お頭に報告しねぇといけねぇんだ!」
「わ、わかったから少し落ち着けよ。お頭は奥の部屋にいる。」
見張りの男からそれを聞いた男は返事もせず奥の部屋を目指して走り出した。その様子を見ていた見張りの男は尋常ではない様子に少し戸惑っていたが幻覚でも見たんだろうと気にしないことにして走っていく男から目を逸らし森の方を向いた。
そこで男の意識はプツンと途切れることとなった。
「ここか。俺はこのまま中に入るが、ローゼはどうする?」
「お供致します。」
「だよな。ならローゼもやるか?」
「レオン様がよろしいのでしたら私も少々運動させていただきます。」
「なら適当に動いてくれ。」
「かしこまりました。」
レオンは手に持っていた剣についた血を払うとローゼを伴い洞窟の中へと進んでいった。
「お、お頭、お頭!大変です!ば、バケモンが!みんな潰されて!」
レオンから逃げてきた男は汗だくになりながらお頭と呼ぶ男のいる部屋へと駆け込んだ。
そこには先程レオンが注視していた男と似た風貌のスキンヘッドの男が身の丈ほどの大斧を磨きながら座っていた。顔には特徴的な傷跡がありいかにもと言った感じだ。
「なんだぁ?急に入ってきてバケモンだぁ?何言ってんだテメェ。」
「ほ、ほんとなんです!ゴルザさん達が一瞬で潰されたんでさぁ!」
「なんだと?くそっ!こんなとこに討伐依頼受けた冒険者でもきたってのかっ!?」
「い、いや、貴族みたいな身なりした餓鬼にやられたんだ!訳のわからねぇ魔法でみんな潰されちまったんだ!」
「餓鬼だと?餓鬼相手に逃げてきたってのか?アァ?」
「餓鬼だバケモンだと失礼な奴らだな。」
「…ッ。テメェがゴルザ達をやったってのか?ただのガキじゃねーか。」
「こ、こいつですよ!お頭!こいつがバケモンでさぁ!」
盗賊の2人が開きっぱなしになっていた扉の方を向くと、少年が血の滴る剣をだらりと下げたまま悠然と歩いて入ってきた。
餓鬼だなんだと馬鹿にしたような事を言いながら、血の滴る剣を携え散歩にでもきたかのような雰囲気で入ってきた少年に妙に嫌な予感を覚え、盗賊団の頭であるガルザは臨戦態勢に入った。
「ゴルザとか言う奴のことは知らんが、そいつと一緒にいた奴らは俺が潰した。文字通りな。」
「俺に似た図体のでけぇ奴だ。出来は悪りぃがあんなんでも俺の弟なんだよ。1人でノコノコやって来やがって、タダで返すと思うなよ!」
「1人ではありませんよ?」
そう言ってレオンの背後に現れたのはもちろんローゼである。綺麗なままのメイド服に身を包み、武器も持たずにやってきたローゼを見てガルザは益々嫌な予感に襲われる。
「外の奴らはどーした?」
「あぁ、それでしたら僭越ながら皆様先にあの世に送って差し上げましたよ?」
「くっ…テメェら…」
「ローゼ、こいつの相手はどうする?」
「レオン様の許可をいただけるのでしたら私がお相手いたします。」
「さっきは俺がもらったからな。今回は譲ろう。ローゼなら大丈夫だと思うが、油断はするなよ?」
「かしこまりました。それではそちらのゴリラ…、おほんっ。失礼。そちらのハゲのお相手はこのローゼリアがつとめさせていただきます。」
「てめぇ…おちょくりやがって!ガキ共々ぶっ殺してやる!」
ガルザが大斧を振り上げ、ローゼとガルザの戦闘が始まった。