5話
馬車の旅も早1週間が過ぎていた。当初、レオンは1人でデライザまで向かうつもりであった為、乗合馬車に乗り、途中の街を経由しながらのんびり向かうつもりであった。
デライザまでの直通の乗合馬車がなかった為である。
しかし、ローゼが馬車を用意していた為、真っ直ぐにデライザへと向かっていた。
「ローゼ、デライザまでは後どれくらいかかんるんだ?」
「そうですね、このまま順調にいけば後2週間程でしょうか。」
「そうか。分かっていたとはいえ、馬車の旅も退屈だな。」
「レオン様、そのような事を言っていると面倒なことが起こりますよ?」
「あぁ、フラグというやつか。そんな都合よくあるわけが…」
「馬車が止まりましたね。外を見て参ります。」
「あ、あぁ、頼む。」
ローゼが外に確認に行くのを見ながらレオンはまさかと苦笑いをこぼした。
「レオン様、道の先に人が倒れているようです。どうなさいますか?」
「罠だろうなぁ…。とりあえずかかってみるか?」
「レオン様の仰せのままに。
御者さん、そのまま進んでください。安全は保証いたしますので。」
冗談半分で言った事を即実行されてレオンは少し戸惑いを見せたが、今世では魔物としか命のやり取りをしていない事を思い出し、これもいい機会かと思い流れに任せることにした。
男が倒れている場所の少し手前で馬車を止め、レオンが降りようとするとローゼが口を開いた。
「レオン様、ここは私にお任せくださいませ。」
「ローゼに?確実に荒事になるぞ?ローゼが戦闘ができるのは普段の仕草から分かってはいるが、本当に大丈夫か?」
「…っ。レオン様にはお分かりでしたか。私が足手まといにならない程度の実力を持っていると知っていただくいい機会かと思いましたので、お任せいただきたいと思ったのですが…。」
「そうだなぁ。さっきも言ったけどローゼが戦闘ができるのは分かってるし、今回は俺の対人戦の経験を優先させたい。すまないが譲ってくれ。」
「かしこまりました。ではレオン様のお側にて見届けさせていただきます。」
「馬車の中で待っていてもらいたいんだが…。まぁ仕方がない、出るぞ。」
「はい、お供致します。」
馬車から出てボロボロの衣服を着て倒れている人物に近づいていく。
レオンは右手に広がる森の中をチラリと見ながら後ろに控えるローゼに小声で話しかけた。
「ローゼ、分かっていると思うが森の中に人の気配がある。14人だ。念のため警戒だけしておけ。」
「かしこまりました。」
レオンは馬車を降りると同時に探知魔法を展開し、敵の位置を把握した。前世の経験から人の気配を察知するのは得意としていたが、この世界での魔法との相乗効果によりその精度と範囲は一流の冒険者と遜色ないレベルまでになっていた。
「おい、大丈夫か?」
「み、みずを……。みずをいっぱい…。」
「水か?それなら森に隠れてる奴等に貰えばいいだろ。」
「なっ!?」
「当たりか。
おい!そこに隠れてる奴等も出てこい!」
レオンが森の方を向きそう言うと、汚れた装備に身を包んだ男たちがぞろぞろと出てきた。レオンは1番後ろにいる他の男達より一回り体格のいい男に注視していた。
「綺麗な身なりしてメイドまで連れてるタァ貴族の坊ちゃんか?護衛も付けずにノコノコ出歩くなんてバカなんじゃねーか?」
「護衛を付けずとも問題ないほどの実力を持ってると思えないのか?まぁそんな頭がないから盗賊なんてやってるんだろうだが。」
「アァン?餓鬼のくせに舐めた口聞くじゃねーか!有り金とそこのメイド置いてけば命だけは助かるかもなぁ〜?」
ニヤニヤしながらそう告げた男にレオンは溜息を漏らした。
「はぁ。なんで盗賊ってこんな奴ばかりなんだ。練習でもしてんのか?」
「レオン様、盗賊に練習は必要ないかと。」
「ローゼ、分かってるよそんな事。まぁいい、金もローゼもお前らには渡さない。今すぐ失せるなら命だけは助けてやろう。どうする?」
「お前らぁぁ!餓鬼と御者は殺せぇぇぇ!」
男のその言葉と共に盗賊達は目の前にいるレオンを殺そうと雄叫びを上げながら走り出した。
「レオン様。」
「手を出すなよローゼ、御者と馬車を頼む。」
レオンはそう言うと向かって来る男達に向けて徐に右手を突き出した。
「【沈め】」
グチャ!グチュ!ボキ!バキ!
「レオン様。」
「分かってる。少し、魔力を込め過ぎた。」
レオン達の前にはつい先程まで雄叫びを上げて向かってきていた男達が地面に赤い海を作り生前の形も分からぬほど潰された状態で絶命していた。
『今世初の人殺しで少し緊張していたか?まだまだ未熟だな。まぁもとより殺すつもりではあったが。』
「さぁローゼ、行こうか。」
「追うのですか?」
「あぁ、急ぐ旅でもないしな。その為にあいつだけ逃したんだ。寝ぐらまで案内してもらおう。」
「かしこまりました。御者に伝えて参ります。」
最初に道に倒れていた男は森から男達が出て来ると同時に森の中に隠れてそこからこちらを見ていた。レオンはそのことには気付いていたが、盗賊達の寝ぐらに案内してくれる事を期待してあえて無視していたのだ。